魔法少女タッグVSダイカルアタッグ
すると、唯一人間の姿を保っていたベースの男が進み出た。デスメタルの派手な化粧をしていても、生真面目そうな雰囲気が醸し出されている。サラリーマンのスーツとか着せた方が似合いそうだ。
「クロコダイルカルア様。いくらあなたでも二対一では分が悪い。拙者も助太刀致します」
「勝手にしろ。別に俺様は雑魚二人を相手するぐらいどうということはねえがな。念には念を入れて殲滅させるってのも面白い」
「ありがたきお言葉」
一礼すると、男は腕をクロスさせた。
「ファルスアドベント。ビーストリグレッションヘッジホッグ」
変化の呪文とともに、男の背中に針が生えだす。一本や二本どころの話ではなく、背中全体を覆うぐらいに大量だ。しかも、背中に留まらず、腕や脚にも針が及んでいる。猫背になり、高い鼻と髭を備える。おまけに細長い尻尾まで生えそろった。愛嬌がありながらも凶暴そうな双眸を光らせるそいつは紛れもなく「ハリネズミ」であった。
「あいつはヘッジホッグカルアだバ。クロコダイルカルアの部下の中でも随一の実力者だと聞いた覚えがあるバ」
「いかにも。拙者はクロコダイルカルア様の一番の右腕。小娘共に後れは取らんぞ」
「最強の部下を狩りだしてくるってことは本気の証拠ね。あんたらをまとめて潰せば、戦略の大幅な削減になるってことでしょ」
「ギャッハーッ! 俺たちに勝てるつもりでいるのか。片腹痛いぜ。てめえらまとめて殲滅してやんよ」
それが開戦の合図だった。魔法少女とダイカルア、それぞれのタッグが一斉に飛びかかった。
まっすぐにクロコダイルカルアへ飛びかかろうとするルビィ。しかし、ヘッジホッグカルアが立ちふさがる。
「そなたの相手は拙者だ。数多を切り裂く双牙よ! 我が手中に御霊を宿せ! 双剣変化」
背中に生えそろっている針の中の二本に手を添える。すると、針は根元から引っこ抜かれた。無粋なままでも十分脅威だけど、ヘッジホッグカルアの手中で刺々しい柄のついた剣へと変化する。しかも二本同時にだから、二刀流というわけだ。
「あなたも剣の使い手ってわけ。じゃあこっちも剣で勝負よ。邪を裂く聖剣よ! 尊大なる御霊を我が手中に宿せ! 聖剣変化
ルビィもまた剣を召還する。でも、細長い物がなければ意味がないんじゃ。
いや、持っていた。応援の際に振り回していたサイリウムがルビィの愛刀であるディザスカリバーへと変貌していく。一刀流と二刀流ってまさに宮本武蔵と佐々木小次郎の対決じゃないか。一飛びで壇上まで到達したルビィをヘッジホッグカルアが剣で受け止める。
サファイアの相手をするのはクロコダイルカルア。互いに初対面となる。
「てめえはダイヤモンドほどとは言わねえが、期待していいんだろうな」
「彼の者曰く、油断してると寝首を掻かれるってね。司教だか市長だか知らないけど、あまり甘く見ない方が身のためよ」
「大層な自信じゃねえか。ギャッハーッ! 俺様も久々に本気で暴れてやるぜ」
「有象無象の愚者よ! 慄きその身を凍てつかせよ! 冷結微笑」
意気込むクロコダイルカルアの出鼻を挫くように、足元を凍結させる。いきなり足止めをされて戸惑っているのを尻目に、サファイアは攻撃魔法の詠唱に入った。
「身も凍りつかせる氷河よ! 刃となりて悪しきを討て! 鋭閃絶氷」
氷をつらら状に形成させて相手にぶつける、サファイア得意の魔法だ。足元を固定されていては避けることなどできまい。
しかし、クロコダイルカルアは悠然としている。接近してくるつららを両腕で迎えるつもりだ。交差している腕に炸裂したものの、苦悶を浮かべることはなかった。むしろ、下卑たように口角を上げている。
「氷の魔法はうぜえが、攻撃力は大したことねえな。俺様が本当の攻撃ってやつを教えてやるか」
何事もなかったかのように、クロコダイルカルアはサファイアへと歩み寄って来る。
「私の魔法が効いていないってわけ」
「足止めしたつもりか。てめえのちんけな氷なんかで俺様は止められねえよ」
魔力差があると冷結微笑は効かないはず。やっぱり、司教を名乗っているだけあって一筋縄ではいかないようだ。
鈍重そうな外見に反し、クロコダイルカルアは一気に間合いを詰めてくる。サファイアは防御姿勢をとろうとするも、
「遅いんだよ」
腹にパンチをまともに喰らってしまった。あまりの衝撃に、その辺に倒れていたバグカルアの成れの果てに倒れ込む。魔法を使っていないただのパンチなのに相当な威力を発揮している。
「物理攻撃主体の脳筋タイプってわけね。そんなのはできればレンちゃんに任せておきたいわ」
腰をさすりながらサファイアは立ち上がる。直接攻撃力が低い彼女では反撃しようにもジリ貧になってしまう。ただでさえ司教クラスの強敵なのに相性は最悪というわけか。
そして、「魔法」少女とは何だったのかと疑念を入れたくなるほど、ルビィはヘッジホッグカルアと剣を交えている。素人からすると二刀流の方が有利かと思うけど、得物への依存度が低い分、機動力はルビィの方が上だ。巧みに動き回ってヘッジホッグカルアを翻弄し、隙があれば斬りかかっている。そして、相手の攻撃直後を狙いすまし、大きく振りかぶっての袈裟懸けが炸裂した。
胸に一閃を浴び、ヘッジホッグカルアは呻く。ルビィは勝ち誇ったように切っ先を喉元に突き立てた。
「二刀流なんて奇抜な手を使ってないで、基礎から鍛錬したら。それでも負けるつもりはないけど」
「ただの小娘と侮ったのは不覚。だが、拙者とてこのまま終わるつもりはないぞ」
ヘッジホッグカルアは背中を丸めると、無数の針を突き立てた。
「無限の針よ! 弾丸となりて数多を貫け! 鋭針弾道(二ドルミサイラー)」
ミサイル弾の如く、背中の針が一斉に噴出される。って、こいつ遠距離技も使えたわけ。
「あんた、剣の使い手なら正々堂々剣で戦いなさいよ」
「戦場に卑怯もクソもない。竹槍で爆撃機に勝てると思っておったか」
それ、昭和初期の人に言ったら怒られるからね。意表を突いた魔法にさしものルビィも怖気づく。
と、思われたけど、冷静に軌道を見定め、迫り来る針を次々に薙ぎ払っていく。魔法少女の加護で身体能力が上がっているとはいえ、いくらなんでも逸脱してるんじゃないかな。だって、マシンガンを剣で対処しているようなものでしょ。ルビィに魔法って必要ないんじゃない。
折角の奇襲攻撃も不発に終わり、ヘッジホッグカルアはほぞをかむ。意地になったのか、再び剣を構えるとルビィへと突貫していく。
先ほど以上に激しい剣裁き。息つく間もなく、右から左からと刃が振るわれる。武士道精神はどこへやら、血走った眼でルビィを圧倒しようとしている。
しかし、相手の必死の剣幕などどこ吹く風。ルビィは相変わらず余裕で相手を往なしている。やはり、剣道少女の名は伊達ではない。
そして、ついに大きく横薙ぎをし、ヘッジホッグカルアの刀を弾き飛ばした。空中で大きく弧を描き、地面に突き刺さる。
武器を失ったヘッジホッグカルアは奥歯を噛みしめていたが、潔くその場に正座をした。
「武士たるもの、引き際を見極めるも重要。本来なら切腹したきところだが、そのための剣もなし。さあ、殺すなら殺せ」
なんか見え透いた罠のような気がするな。武器がないって、背中の針は健在だよね。いくらでも不意打ちできそうだけど。
さすがに警戒するかと思ったが、
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ルビィは素直にディザスカリバーを振りかぶった。本当にトドメを刺すつもり。ヘッジホッグカルアがほくそ笑んでいるし。
ルビィが腕を振り下ろす。同時に、ヘッジホッグカルアは背中を丸めようとする。ルビィの必殺魔法は振りが大きい分、隙も出てくる。意表を突いて針を撃ちこまれれば形勢は逆転されかねない。まずい、まずいよ。
「かかったな、ヴァルルビィ。喰らうがいい、無限の針よ! 弾丸とな……」
「燻る情熱よ! 爆炎となりて覚醒せよ! 情熱思慕」
「んだとぉぉぉぉぉ!!」
詠唱の呪文は驚愕の声で上乗せされた。そりゃそうだろう。ボクもてっきり、斬撃一貫を使うと思っていたもん。
足元より火炎の柱が噴出し、ヘッジホッグカルアを焼き尽くす。一瞬で火だるまにされ、ヘッジホッグカルアは呻きの声をあげる。
「おのれ、たぶらかしたか」
「あんただってだましたじゃん。こういうの、えっと、インゲンマメみたいな四字熟語なかったっけ」
「因果応報だ、不勉強なやつめ!!」
「あ、そうそう、それだわ」
まさかの断末魔の叫びがそれだった。鎮火する頃には、いかつい顔をした中年の男が倒れ伏していた。相手が比較的まともだっただけに、どっちが悪党か分からなかったな。華怜が言うには「結果オーライでしょ」だろうけど。おそらく、華怜に対して剣で勝負を仕掛けたのがいけなかったな。
右腕となるヘッジホッグカルアを倒して一安心。するのはまだ早かった。壇上から悲鳴があがる。振り返ったボクが目撃したのは壇上から叩き落されるサファイアだった。




