ダイカルアパニック
「いったいどういうことですか。まさか、あなたはダイカ……」
「うっせーんだよ。異端の下郎よ! 我らが教団へ下れ! 強制入信」
司会の兄ちゃんの言葉を遮り怪光線を放つ。兄ちゃんは苦悶の表情を浮かべた後、全身が白い修道服に包まれていく。会場から悲鳴が上がったのも無理はない。司会の兄ちゃんはすでにバグカルアへと変化してしまったのだ。
「やっぱり。あいつ、ロックフェスに潜入するなんて、何を考えているのかしら」
「レンちゃん、あの男のこと知ってるの」
「知ってるってもんじゃないですよ。あいつにひどい目に遭わされたんだから」
忘れたくても忘れられない。学校に出現し、邪知暴虐の限りを尽くしたダイカルアの司教。メインボーカルの正体は紛れもなくクロコダイルカルアこと有賀達樹であった。
ダイカルアが出現したことで、人々は避難しようと出口に殺到する。しかし、瞬間移動したかのような素早さで三体のバグカルアが先回りした。袋小路に陥ったことでパニックは加速していく。
悲鳴や怒号により支配されている中、有賀はマイクを握った。
「うっせーぞ、てめえら。俺様達の教団に下るのであれば命を取りはしねえ。だが、刃向うならどうなるか分かってるよな」
手の甲を突きつけ、中指を立てる。これ見よがしの挑発だけど、抵抗しようとするものは皆無だった。なぜなら、それが合図となったかのように、観客席の中でも異変が起こったからだ。
観客のうち何人かが突然腕をクロスさせる。すると、司会の兄ちゃんと同じように白い修道服に身を包まれる。ざっと全体の三割ほどだろうか。相次いでバグカルアへと変貌する人々が続出した。まさか、会場内に信者たちが混ざっていたなんて。いや、普段は表に出さないだけで、密かにダイカルアに心を売っていたとも考えられる。あいつらはカルト宗教を数百倍性質悪くしたような連中だから、秘密裏に信者を増やしていたとしても不思議ではない。
「大変なことになったバ」
「バンティー。あんたも会場にいたの」
「魔法少女あるところ俺っちもありだバ」
どこからともなくバンティーが駆けつけてきた。どこにでも湧いて出てくるってゴキブリみたいなやつだ。
彼と目線が合うけど、すぐに逸らされる。素っ気ない態度をされても仕方ない。ボクも愛想を振りまくつもりはないし。
「大混乱に陥っている今ならば変身しても注目されることはないバ」
「一瞬で変身できるって、けっこうな利点よね。せっかくの休日デートを邪魔されたんですもの。ダイカルアの連中にはお灸を据えてやるわ」
「優輝とデートしてたのは私の方ですからね。それに、ダイカルアも私がやっつけるわ」
競うように渚先輩と華怜は宝石を取り出す。バンティーの言う通り、皆逃げるのに精いっぱいで他の事に気を払う余裕はない。有賀の魔法によってバグカルアにされるかもしれないもんな。そうでなくても、自分のすぐ近くにバグカルアがいるのだ。妙なことをされても不思議ではない。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリールビィ」
「サファイア」
華怜に続いて渚先輩も変身の呪文を唱える。まばゆい光とともに、二人はヴァルルビィとヴァルサファイアへと変貌した。
「あそこに魔法少女がいるぞ」
「私たちを助けに来てくれたんだわ」
変身の時に放たれる光でさすがに気付かれたようだ。救世主の登場に歓喜の声が迸る。凛とした表情を浮かべ、舞台でマイクを握る有賀を睨みつけている。
「バンティー。あなた今日はサキちゃんの変身を催促しないのね。あのデスメタルバンドの人、司教クラスなんでしょ。ダイヤモンドの力が必要なんじゃない」
「ダイヤモンドは別にいいバ。君たちが力を合わせれば司教クラスでも勝てるはずだバ」
「ダイヤモンド依存症のあんたにしては珍しい発言ね。まあ、いいわ。司教クラスがどんなもんか、お姉さんが試してあげる」
「ちょっと、手柄を横取りはなしよ。あいつは今度こそ私が倒すんだから」
血の気多く、有賀の首を狙っている。標的となっている当人は冷笑を浴びせた。
「ギャッハーッ! ダイヤモンドはいねえのか。つまんねえな。そっちの赤いのは前に会ったやつで、青いのはニュースで噂になってるやつか。まあ、てめえら相手でもいいか」
有賀はマイクを放り投げると両腕をクロスさせる。嫌なハウリング音も手伝い、嫌が上でも衆目を集めることとなる。
「ファルスアドベント! ビーストリグレッションクロコダイル!」
変化の呪文を詠唱すると、全身が緑の鱗に覆われていく。特徴的な大顎に恐竜顔負けの体躯。ダイカルアの中でも上級の怪物、クロコダイルカルアだ。
怪物が出現したことで混乱に拍車がかかる。
「ここは私たちが食い止める。だから早く避難して」
サファイアの鶴の一声で、ようやく退避の足が進む。
「あんた、正義の味方っぽいことしてるじゃない」
「無関係の一般人が群がっていたら邪魔で戦えないでしょ。常識的に考えて当然の処置よ」
先輩お得意の効率主義か。ただ、功を奏したのか、クロコダイルカルアへの一本道ができる。モーゼって人が過去に同じようなことしていたよね。
ただ、すんなりとは進ませてくれないらしい。折角できた道を塞ぐようにバグカルアが集結する。
「邪魔するなら容赦しないわよ」
啖呵を切って、ルビィは地面を蹴る。そして、通せん坊をしていたバグカルアに腹パンチを食らわした。相変わらず魔法少女らしからぬ直接打撃だな。対抗しようと群がってくる三下どもをちぎっては投げと破竹の勢いだ。
サファイアはというと、群がる戦闘員を達観している。仕掛けてこないのに痺れを切らしたか、バグカルアのうち一体が飛びかかる。
「有象無象の愚者よ! 慄きその身を凍てつかせよ! 冷結微笑」
ウィンクを施すと、バグカルアは空中で半身を凍り付かされた。身動きを封じられたまま、あえなく落下する。
氷結されると分かってか、バグカルアは尻込みする。サファイアから距離を取るが、待ち受けていたルビィによって撲殺されていく。サファイアが牽制して、ルビィが討ち取っていくって妙な連携が取れているような。
「ちょっと、私が殴ってばかりじゃないの。あなたも戦いなさいよ」
「彼の者曰く、ボスのためにMPは温存するべし。殴っているだけだから支障はないでしょ」
「こいつらを倒すのも疲れるのよ。ああもう、どんだけいるんだか」
文句を垂れ流しつつも、既に十体単位で変身解除された信者たちが山積みされている。肉の壁も本当に時間稼ぎにしかならなかったようだ。
雑魚どもを一掃し、ついに本命の元まで辿り着く。クロコダイルカルアは鋭利な牙を剥き出しにし、堂々と構えている。
「あんたを倒せば万事解決ってところね。前回の決着をつけさせてもらうわ」
「レンちゃんだけにいいところを持っていかせはしない。この私が倒すわ」
司教の前でも闘争心を顕わにする両者。意地でも共闘という路線はないらしい。




