ブレイクレリーズ
変身したところで、ボクが使える魔法で対抗手段はあるかな。ルビィを回復させても意味が無さそうだし。勢いよく水を降らせる魔法とか使えれば。
すると、頭に呪文が浮かんできた。こんな魔法、唱えたことないぞ。もちろん、どんな効果が出るかは未知数。けれども、華怜を助けるためにはやるしかない。
「溢れし魔力よ! 慈悲に寄りて彼の力を助長せよ! 魔力増強」
呪文を唱えた途端、腕の中から光弾が溢れ出た。まさか、攻撃魔法なのか。華怜を攻撃しては本末転倒だ。
すると、ばらまかれた光弾はヴァルサファイアへと降り注いでいった。そっちに行くのかよ。先輩を攻撃してしまうなんて、場違いすぎるよ。
慌てるボクだったけど、先輩は至って平然としていた。それどころか、恍惚とした表情すら浮かべている。舌をチロリと出した悪い顔。先輩が調子に乗っている証拠だ。
「なぜだか知らないけど、力がみなぎって来るわ。まったく仕方ないわね。お姉さんがルビちゃんの尻拭いをしてあげる。有象無象の愚者よ! 慄きその身を凍てつかせよ! 冷結微笑」
ウィンクとともに、ルビィへと冷気が襲いかかる。氷では無駄だ。炎に阻まれてすぐに溶けてしまう。
しかし、徐々にだけど異変が現れた。灼熱の炎が勢いを失ってきているのだ。どうやら、大量の氷が即座に溶かされていることで、大洪水を浴びせているような状態になっているらしい。氷が溶ければ水になる。そして、水は炎に対して効果は抜群だ。
スプリンクラーの助けもあり、ショッピングセンターを全焼しかねなかった炎は鎮火していった。ふう、どうにか大惨事は避けることができたぞ。気を抜いた途端、勝手に変身が解除された。先輩もその場に座り込んだまま変身が解かれていく。
「ねえ、バンティー。ボクが使った魔法ってどんな効果があったの。サファイアに対して発動していたみたいだけど」
「そうそう。サキちゃんから魔法を受けた途端、ものすごく力が溢れて来たわ」
「推測するに、任意の相手の魔法を強化する魔法みたいだバ。もし、さっきのバタフライカルア戦で使っていたら、相手の全身を氷漬けにさせることもできたかもしれないバ」
回復魔法といい、後方支援型の魔法ばかり習得しているな。例の破壊光線は別だよ。
焼け跡にはバタフライカルアの素体と思われるオフィスレディーのお姉さんが倒れていた。そして、隣には変身が解かれた華怜。よかった、無事だ……。
「ああ、ひどい目にあった。あれ、優輝、どうしたの。鳩が豆鉄砲を食ったような顔しちゃって」
微笑みかける華怜。いや、鳩が普通の鉄砲を喰らったような顔をしていると思うよ。だって、その格好はまずいでしょ。
「もう、私の顔にゴミでもついてるの」
「いや、ついていない。むしろ、体のどこにもゴミどころか、その、とにかくついてない」
「意味が分からないわよ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
ええ~。言っちゃっていいのかな。
躊躇していると、渚先輩が咳払いをした。そして、まっすぐに指をさす。
「じゃあお望み通り、お姉さんが教えてあげる。あなた、すっぽんぽんよ」
ようやく華怜は自分の恰好を認識したようだ。一糸まとわぬ生まれたばかりの姿。やばい、鼻から血が出てきた。
「ちょっとぉぉぉぉ!! どうして裸なのよぉぉぉぉぉ!!」
悲鳴とともに、華怜はその場にうずくまる。こっちが聞きたいよ。炎の中で何やってたんだよ。
「ウホ! これぞ魔法少女最大の役得だバ。まさか、ルビィが限界突破するとは予想外だったバ」
「なによそのブレイクレリーズって」
渚先輩が怪訝な眼差しを向ける。下手なことを口走ったらお仕置きも辞さない構えだ。
「魔法少女が持てる魔力をすべて尽くして放つ、最強の必殺技みたいなものだバ。その威力はそんじょそこらの魔法を凌駕するバ。ただし、見返りがないわけじゃないバ。限界突破すると魔力を使い果たす。すると、自動的に変身が解除されてしまうバ」
「理論としては分かるけど、どうして裸になるわけ」
「通常ならば魔法少女の装束が解かれた後に、元の服装が再構築されるバ。でも、限界突破した後だと、服装を復元する魔力すらも残されていないんだバ。単純に魔法少女の服装が消えたらどうなるかは言うまでもないバ」
要するに、使うとすっぽんぽんになる最強威力の魔法ってわけ。色々な意味であまり使いたくない魔法だな。
建物と一緒に華怜の服も直してあげたかったけど、あいにく再度変身する魔力は残されていない。大火災により消防隊も駆けつけてきているし、ボクたちはそそくさとデパートを後にした。
すっぽんぽんになっていた華怜だけど、かろうじて残っていたジャージを着ていて事なきを得ている。緊急事態とはいえ火事場泥棒をするのは忍びなかったので、きちんと料金は置いておいた。「人助けのために服はいただきます」なんて渚先輩はマメな書き置きをしていたけど。手品する怪盗じゃないんだからさ。ポニテにしているだけに。
ダイカルアのせいで散々なことになって、仲良し作戦はもはやどうでもよくなった。痴態を晒したことで、華怜はすっかり落ち込んでいるし。えっと、どうやって声をかけようか。バンティーは場違いに高揚しているし。
うろたえていると、渚先輩がポンと華怜の肩を叩いた。
「まったく散々ね。ショッピングセンターを燃やした上に素っ裸になるなんて。これだからお子ちゃまは困るのよ」
「なによ。あんたこそバタフライカルアに手も足も出なかったじゃない。おまけに聞いたわよ、優輝の力を使ってようやく私を助けたって。偉そうなことを言っておきながらまだまだじゃない」
あのさ、ショッピングセンターを出て早々喧嘩しないでよ。衆目も気にせずにらみ合ってるし。まさに油と水だな。
険しい顔をしていた両者だけど、ふとした瞬間に破顔した。
「まあ、見方を変えればあの化け物を瞬殺できる力があるってことでしょ。少しは認めてあげてもいいわ」
「そっちこそ、本気の私を止めることができたってことは認めるしかないわね。武道をやっている以上、年上は敬うべきだけど、あなたを先輩って呼ぶのはなんか癪ね」
「私、そういう堅苦しいこと好きじゃないんだよね。あなたには渚と呼ばせる権利をあげるわ、レンちゃん」
「そのレンちゃんは止めてくんない、渚」
あれ? どつきあいながらも笑いあっているぞ。どうなってんの、コレ。
「雨降って地固まるというか、喧嘩するほど仲がいいんじゃないかバ。魔法少女が仲良しこよしなのはいいことだバ」
「ねえ、渚。変態コウモリをお仕置きするのに一番効果的な方法って知ってる」
「彼の者曰く、コウモリなら羽根をむしればいいってね」
「妙なところで団結するなバ!!」
前途多難だけど、少しは親睦を深めたのかな。なんか、華怜と渚先輩見てると、世界で一番有名なネズミと猫を思い出す。電気ネズミと小判を額に乗せている猫の方じゃないよ。
ちなみに、例の火事はダイカルアの怪物が焼身自殺した結果と報じられた。華怜のせいにならなかったのは幸いだけど、素っ裸で駆け回ったうえ、バタフライカルアの毒鱗粉のせいで本格的に風邪を引いてしまったようである。今頃自宅でストレッチマンでも見てるんだろうなと、ボクは二時間目の授業の時に想像していた。
次回予告
度重なる戦いの日々に、ボクは心も体も疲れ果てていた。
そんな折に謎の占い師から助言を受ける。そうだ、魔法少女の使命なんて捨てればいいんだ。
気を楽にして五宝町のロックフェスへ遊びに行くんだけれど、あろうことかダイカルアの司教クロコダイルカルアが出現する。
ボクには魔法少女の使命なんか……。
次回TS魔法少女は戦いたくない第五話「優輝の苦悩! 逆襲のクロコダイルカルア!」




