キューティクルと十八ニンジャ―
さて、問題の休日。気分を変えて、スパイダーカルアに襲撃された所とは別のショッピングセンターを訪れた。五宝町から電車で一駅のところにあり、ここら一帯では最大規模のテナントを誇っている。欲しいものがあればまずここに来れば間違いないと太鼓判を押されるほどだ。
で、待ち合わせ場所にてご対面した二人は、開口一番こう叫んだ。
「どうしてこうなった!」
ですよね。二人とも、同じ期待をしていたはずですよね。
「優輝。あなた『と』買い物に行くって楽しみにしていたのよ。でも、余計なおまけがついてるじゃないの」
途中の「と」をやたら強調して華怜が迫ってくる。
「おまけなんて失礼ね。ならばあなたはビックリマンチョコについているチョコじゃない」
「どういう意味よ」
「蛇足って言えば分かるかしら。お子様にはそれすら難しいかもね」
「無駄ってことでしょ。あんたはいちいち一言多いのよ」
華怜が「蛇足」の意味を知っているのは、つい最近国語の授業で習ったからだ。それ以前に、ビックリマンチョコのシールだけが欲しいからってチョコは捨てちゃいけません。
「えっと、こんなところで喧嘩しないで。黙ってたのは悪かったよ。でも、今後のために二人に仲良くなってもらいたいなって思って」
下手にだまくらかすよりも白状した方が今後のためだ。ボクまで目の敵にされたらどうしようもないし。
「つまり、私とこのちんちくりんとの親睦を深めるためにサキちゃんが仕組んだってわけ。うーん、お姉さん、一本取られたわ」
「誰がちんちくりんよ」
「間違ったことは言ってないじゃない。あなた、踊るちんちくりん歌ってそうだし」
「じゃああなたはNHKで黙って工作でもやってなさい」
華怜が言っているのはノッポさんのことだろう。しゃべらない工作のお兄さんがいたってネットに載っていたからな。ボクなんかの世代はかろうじて「わ~くわくさ~ん」って言っている変な生物が出ているやつを知っているぐらいだけど。
それにしても、出会って早々火花を散らしあうって前途多難すぎるよ。この二人が仲良くなることなんてあり得るのかな。楽しい休日のはずなのに胃が痛い。
まずは、渚先輩のお目当てである本屋からめぐるか。接触していると即発しそうだから、ボクが間に挟まれて歩いている。これって両手に花って言うのかな。両手に爆弾を抱えている気しかしないんだけど。
休日ということもあり、既に多くの人でごった返していた。華怜は既につまらなそうにしていたけど、渚先輩は逆に目を輝かせている。
「ほら、サキちゃん。ローウェルの新刊が特集されてるわよ」
「本当だ」
話題作ゆえに、一角に特設コーナーが設けられ、新刊が山積みにされていた。すでに三分の一が減っているってのがすごいな。
「この円卓の騎士のおっさんの挿絵、老けすぎてない。ローウェルを助ける重要人物がこのおっさんって冴えないわね」
「でも、本編だと活躍してるかもしれないですよ」
「だよね。ローウェルの師匠もおっさんだったけど、滅茶苦茶活躍してたわよね。特に三巻とか」
新刊を手に取りながら、ローウェル談義に花を咲かせる。おまけに「八咫烏の秘宝」も見つけたようで、渚先輩は終始ご機嫌だった。
一方、華怜はつまらなそうに後をついている。いけない。華怜って普段あまり本を読まないからな。このままじゃ渚先輩の独壇場になっちゃう。どうにか話題を振らないと。
ふと、ボクの目はあるものを捉えた。もしかすると、これだったら華怜も食いつくかも。
「あ、今キューティクルなんてやってるんですね」
「プリキュアに対抗して生まれた女児向け魔法少女アニメよね。すぐ放送終了しそうだけど」
「でも、大きなお友達には人気らしいですよ。華怜も昔はプリキュアとか見てたよね」
「そうね。あれもけっこう続いているわよね」
ボクらの話題の渦中にあるキューティクル。それは幼児向け雑誌に描かれた魔法少女キャラだった。
正式名は「お願い! キューティクル」。魔法の世界からやってきた女の子がキューティクルに変身して、日常の困ったことを解決していくというオーソドックスな魔法少女物語だ。魔法少女の原点回帰を掲げているためか、主に大きなお友達世代に受けているらしい。
「ボクらも変身できるなら、キューティクルみたいに人助けに力を使いたいな」
「じゃあ、サキちゃんはプリキュアよりもキューティクル派なんだ。予想通りね」
「先輩や華怜は言わずもがなですよね」
「一緒くたにしないでくれる。まあ、キューティクルとどっちかっていうと、そうよね」
華怜は分かりやすいくらい戦闘系の魔法少女好きだもんな。前に覇王から借りた「なのは」のDVDを夢中で見てたし。
「人助けもいいけど、魔法少女は戦ってなんぼよね」
「あら、あなたと意見が合うなんて、お姉さん意外だわ」
「別に、喜ばすために言ってるんじゃないからね」
惜しい。肝心なところでへそを曲げないでよ。キューティクル、けっこう面白いからもっと流行しないかな。
「プリキュアで思い出したけど、今年の戦隊はやりすぎなんじゃない」
華怜が指差したのは、戦隊とかライダーの情報を主に扱っている雑誌だった。ああ、そうだよね。ボクもそう思うよ。
「まったく、ネタ切れ感が半端ないわよね。受け狙いとしてはまあまあかしら」
渚先輩もダメ出しをする今年の戦隊。そのメンバーが雑誌の表紙を半分以上埋め尽くしていた。
埋め尽くしていたというのは決して誇張ではない。そうでもしないと全メンバーを掲載できないからだ。なぜって? その名も「物量戦隊十八ニンジャ―」だからだ。
九人の究極の救世主がいたなら、二倍の数のヒーローならば無敵じゃない。なんて安易なコンセプトから産まれた数がやたら多い戦士たち。だって、主要メンバーが十八人もいるんだもん。
しかも、メンバー名が「一レッド」とか「二ブルー」とかだからやたら覚えにくい。集団社会生活の中で個性が薄れていることを風刺しているとか評されているみたいだけど。
「おまけにロボットもいきなり十八体合体するんでしょ。もう滅茶苦茶よね」
「先輩、詳しいですね。見てるんですか」
「たまたま日曜の朝にチャンネルを回したらやっていたから、ちらっと見ただけよ。ちょうどロボが合体しているシーンだったから印象に残っていたわ」
ロボットが完成させるために十八体もビークルを揃えないといけないから、お父さんの財布は大打撃なんだよな。おまけに「十八ニンジャ―ロボ」って恐ろしくダサいネーミングだし。
「でも、一レッドやってる俳優はなかなかカッコいいと思うわよ」
「あの人って前にドラマに出てなかったっけ」
「千載一遇物語ね。月九俳優を起用するとか、キャストは張り切っているみたいね」
「千載一遇物語、私も見てたな。へえ、カイン君がレッドだったんだ」
「レンちゃんもイケメン好きなわけ。ミーハーね」
「いいでしょ。でも、カッコいいだけじゃ私の好みじゃないわね。どうせ強いとかなら、徹底的に強くいてもらわないと」
「あなたの恋愛観は聞いてないわよ」
「私が誰を好きだろうと、あなたには関係ないでしょ。じゃあ、あなたはどんな人が好みなのよ」
「そうね。おもちゃにできそうな人かな」
あの~。さりげなくボクを見ないでくれます。ボクの場合、本当におもちゃとしか見られていないような。
さすがにイケメン談義には口を挟めそうにないな。フォーゼの俳優がかっこいいだの、カブトの俳優の方がいいだの、ライダーに飛び火しているし。しかも、スマホで検索するという徹底ぶり。イケメン好きっていうのは女子の宿命か。まあ、一歩前進かな。
キューキュータマ タマタマキュキュ
言ってみただけです。




