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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第四話「優輝の仲良し大作戦」
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二人を誘ってみよう

 さて、さっそく作戦開始だ。翌日、教室内でボクは意気込んでいた。最初のターゲットは華怜。さりげなく、裏を見せずに誘えばいいんだよな。穂波からの受け売りだけど。

 とはいえ、改まって華怜を遊びに誘うのって緊張するな。小学校の低学年くらいまでは気兼ねなく家に遊びに行ったりしていたのに。


 あの時は何で遊んだっけな。華怜に先導されて公園で走り回っていた記憶しかない。公園は嫌な記憶しかないな。主に覇王のせいで。加えて、渚先輩を誘うとしたら公園だと都合が悪い。あの人、典型的なインドア派だからな。

 そう考えると、典型的アウトドア派の華怜と同行させるのって難しそうだぞ。うーん、どうしたものか。

「難しい顔してどうしたの、優輝」

「おぉう」

 いきなり覗き込まれたもんだから変な声を出しちゃったじゃないか。


「魔法少女のことで悩んでたりする」

「それだったら常に悩ましいよ」

 本当は別のことで悩んでるんだけどな。

「優輝は深刻になる必要はないわよ。ダイカルアの怪物なんか、私が全部駆逐してあげるんだから」

 鼻息荒くはりきっている。巨人を討伐する調査兵団に容易に合格できそうだな。


「華怜は魔法少女のことで悩んだりしないの」

「そうね。怪物を倒せる力が手に入ったってのは満足してるわ。不満があるとしたらヴァルルビィって名前かしら。本当に改名できないかな」

「ちなみに、どんな名前がいいの」

「え~。そうだな、シャドウムーンみたいな」

「それ、魔法少女ですらないよね」

 なんでゴルゴムによって生み出された次期創世王候補の名前が思い浮かぶんだよ。正義の味方でもないじゃん。


「あとはコスチュームかしら。私、普段ヒラヒラした服着ないし」

「たまにジャージで出歩いたりしてるよね」

「いいわよ、ジャージ。動きやすさは抜群だもん」

 華怜は本当に色気は二の次だからな。彼女の琴線に触れるかどうか分からないけど、ダメ元で仕掛けてみるか。


「ねえ、せっかく魔法少女の服装を手に入れたからさ。普段着も新調してみない」

「唐突に何よ。まあ、悪くないかな」

「そうだよ。前に着ていた探偵衣装可愛かったし」

「ま、優輝、あんた褒めたってお駄賃とかないわよ」

 照れくさそうにボクの肩を叩いてくる。正直痛い。


「そっか。優輝が言うなら仕方ないわね。たまにはジャージ以外の服を新調するのも面白そうだし」

 おっと、くいついてきたぞ。よし、この調子だ。

「じゃあさ、今度の休日に買い物にいかない。ボクも服を買いたいなって思っていたんだ」

「決まりね。って、あまり公に約束すると恥ずかしいわね」

 クラス中の視線が集中しちゃってる。心の奥底では黄色い声援を送っていることだろう。一応、ボクと華怜は幼馴染関係だって釘を刺してあるけど、どこまで通じることやら。


「考えてみれば、ある種のデートってことになるのかな。男女が買い物に出かけるのって」

「デ……ちょっと、優輝、あんたふざけたこと言ってんじゃないわよ」

 さっきよりも強く肩を叩いてくる。ただし、顔は嬉しそうだ。ボクはとてつもなく痛いけど。恍惚としながら叩いてくるって、あなた鬼ですか。

 咳払いして取り直すと、華怜はクラスの連中に蛇睨みをかました。詰るというのなら食い殺すという意思表示だ。華怜に喧嘩を売る命知らずなんて渚先輩ぐらいしか知らない。

「フフフ。今度の日曜が楽しみだわ」

 机に身を乗り出して足を振っている。とりあえず、作戦の第一段階は成功だ。さて、次か。こいつもまた難敵なんだよな。


 その日の放課後。ボランティア部の部室を訪れると、予想通り渚先輩が読書に勤しんでいた。今日は「八咫烏の秘宝」か。ちょっと前に流行したミステリー小説だ。トリックが複雑だとマニアの間では賞賛されてたっけ。

「先輩、また難しそうな本読んでますね」

「サキちゃんか。難解ではあるけど、けっこう面白いわよ。今度連続ドラマ化するらしいし」

「へえ、見てみようかな」

「興味あるなら『八岐大蛇の嘆き』とか読んでみるといいわよ。同じ作者の作品だけど、こっちは明快なストーリーになってるし」

 差し出されたのは五百ページ近くありそうな文庫本だった。読むのに一か月近くかかりそうだ。


 先輩って本当に本が好きだな。ショッピングセンターに誘うってのは決定しているから、切り口としては簡単そうだ。まずは、当たり障りのない話題から攻めてみるか。

「先輩、最近お勧めの本とか他にありませんか」

「そうね。『魔女ローウェルと円卓の騎士』かしら」

「知ってます。ローウェルシリーズの最新刊ですよね」

 元は海外の大人気小説で、ハリウッドで映画化されたのを機に日本にも凱旋。一時期ものすごく話題になった。ローウェルって魔女が悪の魔法使いと戦うっていうシンプルなストーリーだけど、どんでん返しの連続だからつい読み進めちゃうんだよな。先輩なんか、伏線を探すのに躍起になってたっけ。


「もう少しでこの本も読み終わるからな。そろそろ次の本を探しに行こうかしら」

 お、棚から牡丹餅。渚先輩の方から乗気になってくれるなんて。

「じゃあ、今度の休みにご一緒していいですか」

「サキちゃんも読みたい本あるの」

「えっと、最近本屋行ってなかったから、面白そうな本があるかなって思って。ローウェルの新刊とか」

「じゃあ、私が先取りしちゃおうかしら」

「先輩が先だと絶対にネタバレさせますよね」

「彼の者曰く、オッズヘッグが死んだのを明かしたのは我が最初だってね」

 前にローウェルの第五巻でやられたことがあった。最新の七巻は是が非でも阻止したい。ちなみに、オッズヘッグはローウェルの師匠で、闇の魔法使いに挑んで返り討ちにされて命を落としている。


 ミッションをこなしてガッツポーズを取っていると、渚先輩が椅子の背に顎を乗せてじっと凝視してきた。あれ? ごみでもついてますか。

「珍しいわね。サキちゃんの方から誘ってくるなんて。おかしなことは企んでないでしょうね」

「べ、別に。先輩と出かけたことなかったから、たまにはいいかなって思って」

 うう、勘が鋭い。顎を背もたれに押し付けて視線を投げかけてくるし。

「あ、でも、先輩とだったらデートみたいになっちゃうか。なんちゃって」

「デートって。サキちゃん、ませたこと言っちゃダ……キャぁ」

 あ、椅子から転げ落ちた。腰を打っていて本気で痛そうだ。


 この先輩は肝心なところでいつもこうなるんだから。呆れ顔で手を差し出すと、渚先輩は照れくさそうに後ろ髪をかいた。

「みっともないとこ見せちゃったわね。お姉さんがこけたなんて、みんなには内緒よ」

 シーッと人差し指を唇に当てる。無邪気な仕草にボクはたじろぐしかなかった。これでミッションコンプリート。

 だけど、本当の問題は当日なんだよな。事前連絡なしに問題の二人を引き合わせたらどうなってしまうのか。想像しただけで恐ろしい。本当なら胸躍る状況なのに、すごく後ろめたいのはどうしてだろう。

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