我が名はヴァルサファイア
今回は短めで申し訳ない。
ダイカルアの怪物はやっつけたものの、事態はちょっとややこしくなった。涼しげに髪をなびかせながら汗を拭っている少女。彼女は何者なんだ。
「助けてくれって頼んだ覚えはないけど、まあ感謝しといてあげるわ」
ちょっと華怜、いきなり喧嘩腰にならないでよ。手柄を奪われたからってさ。もちろん、少女の方も黙ってはいなかった。
「あなたも魔法少女か。戦い方を見物させてもらったけど、まるでなってないわね。飛行能力を持つ相手に接近戦を仕掛けようだなんてバカなの」
「初対面の相手にバカ呼ばわりされる覚えはないわよ。っていうか、バンティー。こいつも私たちと同じ魔法少女なわけ」
流れ弾を喰らったバンティーは身をすくませていた。不機嫌な華怜は邪知暴虐の王ぐらいに怖いからな。
「バンティー。この子たちに私のことを紹介してなかったの」
「君があまり素性を明かさないでほしいって頼んだんだバ。だから、詳しくは話していないバ」
「あんた、変なところで律儀なのね。まあ、いいわ。せっかくだから名乗っておくか。私の名はヴァルサファイア。あんたと同じ魔法少女よ」
ヴァルサファイアだって。最近ニュースで話題になっている青い魔法少女。まさかとは思ったけど、彼女が噂の当人だったのか。
「そこの赤いのは見たことがないわね。新入りかしら」
「ヴァルルビィよ。新入りで悪ぅございましたね」
「赤だけに魔法少女の赤ちゃんってところかしら。ププ、我ながらうまいこと言ったわ」
一人でボケて一人で受けている。人を小馬鹿にしたような態度をとられ、華怜の堪忍袋の緒はぶち切れ寸前だった。
「あんただって、青だから、青、青、えっと、青で悪口なかったっけ」
「青二才のこと?」
「それよ、それ。二歳なんてもったいないから青ゼロ才よ」
青二才の二才って年齢の事じゃないと思うな。ヴァルサファイアも憤慨するどころか呆れてしまっている。
「彼の者曰く、生半可な知識は身を滅ぼすってね。少しはおつむを鍛えた方がいいわよ。バンティー、あんた人選間違えたんじゃない」
「人格はともかく、魔力は申し分ないバ。彼女もまたダイカルアに対抗できる貴重な人材だから仲良くしてほしいバ」
「そうなんだ。まあ、あんたが言うなら仕方ないわね。ルビちゃん、これからは私が面倒を見てあげるわ」
妙なあだ名をつけて、サファイアは手を伸ばしてくる。しかし、徹底的にこけにされ、ルビィが素直に応じるわけがなかった。勢いよく手を払いのけると、剣呑な眼差しで睨みつける。
「お断りよ。どこの誰とも知らない失礼なやつと組めるわけないじゃない」
「あ~あ、嫌われちゃったか。お姉さん悲しいな。まあ、気が変わったらいつでも来なさいな。あと、ダイカルアと戦うならもっと頭を使った方がいいわよ」
ウィンクを施すと、ヴァルサファイアは颯爽と去っていった。父さんが目撃した通り、天狗のごとくあちこち飛び回っている。うーむ、噂は本当だったみたいだな。
それで、面白くないのは華怜だ。変身を解除して早々地団太を踏んでいる。
「なんなのよ、あいつ。ねえ、バンティー、あいつってダイカルアの手先じゃないの」
「正真正銘、俺っちが変身させた魔法少女だバ。だから仲間には間違いないバ」
「でも、あんなのと共闘しろなんて土台無理よ」
華怜は相当お冠だな。無理はないけど。ただ、いつまでも楽観してはいられなかった。
「決めたわ」
嫌な予感が的中した。昔からそうなんだよ。華怜のいつもの悪い癖だ。
「ヴァルサファイアの化けの皮を剥がしてやる」
その場の思い付きでとんでもないことを提案する。女子トイレに拉致された頃から変わってない。そして、華怜は次にこう言う。「優輝、協力しなさい」と。
「優輝、協力しなさい」
やっぱり。
「バンティーの話だと、サファイアは正体を知られたくなさそうだから、詮索しない方がいいじゃないかな」
「何言ってんのよ。あんだけ散々言いたい放題にされたのよ。せめて変身前の素顔を拝んでやらないと腹の虫が収まらないんだから」
鼻息荒く華怜は腕を組んでいる。こうなるとてこでも動かないからな。
「優輝、明日からサファイアの正体を探るため情報を集めるわよ。覚えてなさい、ヴァルサファイア。正体を暴いた暁には、存分に仕返ししてあげるんだから」
動悸が正義の魔法少女っぽくないですよね。かくして、強制的に華怜の「ヴァルサファイアはだ~れだ」作戦が決行されるのであった。