コウモリとパンツって似てるよね
夕食も終わり、穂波と一緒にバラエティ番組を視聴する。お笑い芸人が鼻にザリガニをぶら下げて激走するというシュールな絵柄が繰り広げられている。仕事とはいえ、よくやるよね。
「優輝、穂波。そろそろ洗濯物が乾いているだろうから取り込んできてくれないか」
父さんが手をふきんで拭いながら依頼してくる。今、いいところなんだけどな。
「お兄ちゃん、じゃんけんで負けた方が行くってのでいいでしょ」
「あまり乗り気じゃないけどな」
でも、穂波は既に右手をグーにしている。妹の手前、駄々をこね続けるわけにもいかないからな。
しぶしぶボクも右手をグーにする。
「最初はグー、じゃんけんぽん」
お馴染みの掛け声とともにボクはパーを出す。すると、穂波が笑みを浮かべた。さもありなん。彼女が出したのはチョキだったのだ。
「お兄ちゃん、本当にじゃんけん弱いわよね」
「どうしてだろう。勝った試しがないんだよな」
しげしげと右手を見つめる。じゃんけんって必勝法とかないよね。あるなら教えてほしい。
勝負に負けた以上仕方ない。重たい腰をあげてベランダへ向かおうとする。
「あ、お兄ちゃん」
階段に足を掛けたところで穂波に呼び止められた。
「洗濯ものを取り込むのはいいけど、あまり私の下着を凝視しないでね」
指を突きたてて忠告された。さすがに妹の下着で興奮するほど変態じゃないよ。
「分かってるって。下着見られるのが嫌なら穂波が取り込めばいいのに」
「なんだかんだでお兄ちゃんには散々見られてるから、諦めてる部分はある」
そうなんだ。偶然風呂上がりの穂波と対面してしまい、すごく気まずくなったことは数知れずあるけど。繰り返すが、妹の下着姿で発情するほど変態じゃないからね。
テレビの続きが気になるし、さっさと仕事を済ませよう。春先で温かくなってきたから、洗濯物の量もそんなに多くない。三人分のワイシャツにズボン、タオル。つつがなく任務を終えていき、ついに問題の領域に辿りついた。
見るなと言われてもどうしても視界に入ってしまう。ボクや父さんのものとはあからさまに形状が異なる下穿き。妹の物だと分かってはいても、触れるのは罪悪感がある。こんな時、男はつらいよ。
いつまでも躊躇していると変な嫌疑をかけられかねない。ようし、さっさと仕事を済ませるぞ。と、ここでボクは異変に気が付いた。
穂波の下着の隣に見慣れぬ下着が紛れていたのだ。黒いパンツ。穂波ってこんなの持っていたっけ。それに、彼女のものにしてはサイズが大きすぎる。母さんの……絶対にありえない。むしろ、干されていたら心霊現象になっちゃうよ。
あまりにも不審すぎるけど、取り込まないわけにもいかないからな。視線を逸らしながら、問題のパンツに触れる。
ムニ。パンツにしてはありえない触感がかけめぐった。え、なんだこれ。パンツにしては生温かくないか。きちんと洗濯されてるよね。でも、なぜかぬくもりがある。おまけに、繊維がどう考えても綿でも布でもない。っていうか、そもそもこれは本当にパンツなのか。
「誰だバ。俺っちの眠りを妨げるのは」
すごく聞き覚えのある声がした。え、ちょっと待ってよ。まさか。
「バンティー。どうしてこんなところにいるの」
「新しい魔法少女の素性をもっとよく知ろうと潜入調査をしているバ」
「早い話がストーカーだよね。おまけに洗濯物に紛れるなんて悪質だよ」
「失礼だバ。パンツに擬態することによって、不信感を抱かれずに潜入を果たす。俺っちの完璧な作戦だバ」
「逆に不信感しか抱かれないから」
でも、コウモリと女性ものパンツって似ていると言えば似ているよね。形状が逆三角形ってだけかもしれないけど。
不審者(?)をいつまでも野放しにしておくわけにはいかないので、とりあえず自室で匿うことにした。素性調査をしに来たのならちょうどいい。ボクもバンティーに色々と聞きたいことがあったんだ。
部屋に招き入れるなり、バンティーは部屋のあちこちを探し回る。ボクの下着なんて需要ないと思うよ。男性用トランクスだもん。
「うーん、ないバね」
「一体何を探してるの」
「男子中学生の自室ならエロ本が隠されているはずだバ。さあ、隠し場所を白状するバ」
「どういう偏見だよ。そんなの持ってないよ」
「馬鹿な、エロ本がないバと」
本気で驚愕しないでください。そもそも、エロ本は十八歳にならないと買っちゃいけません。
ひとしきり探索を終えると、バンティーは照明にぶらさがった。コウモリの性か、そこが落ち着くんだろう。ボクは落ち着かないけどね。
「まずぶっちゃけさせてもらうと、君には期待しているんだバ。君が変身するヴァルダイヤモンドの魔力は圧倒的だバ。ダイカルアを壊滅させるのも時間の問題だバ」
「賞賛しているところ悪いけど、ダイカルアと戦うつもりなんかないよ」
「どうしてだバ。君には奴らを倒せるだけの力があるバ。ならば、その力を用いて悪を討つってのが筋だバ」
「いやいやいや。ボクに力があるかどうかはともかく、自分の意思で魔法少女になったわけじゃないもん。それに、あんなやつらと戦うなんて」
想像しただけで身震いしてきた。普通にチェンソーを振り回すような奴らと戦っていたら、命がいくらあっても足りないよ。
「うーむ。力は申し分ないけど、性格には難ありのようだバ。無理強いをするつもりはないバが、この先の戦いには君の力が必要となって来るバ。だから、君には頑張ってもらいたいんだバ」
「理屈は分からなくないけど」
でも、どうしても怖いんだ。ダイカルアの怪物がってだけじゃない。そうだ、バンティーだったら知っているかも。
「でも、やっぱり怖いんだよ。単純に戦うのもそうだけど、なんというか、変身する度に自分じゃなくなっていくような気がするんだ」
「性別が変わるからかバ」
「それもある。おまけに、変身すると変な声が聞こえるんだ。コロセとか、センメツとか物騒な言葉を囁いてくる」
「妙な話だバ。魔法少女を見てきたけど、そんな空耳を聞いたなんてことは知らないバ。自意識過剰になっているだけなんじゃないかバ」
真剣に頭を抱えていて、演技をしているようには思えない。バンティーでさえも知らないのか。じゃあ、何なんだろうこの声は。聞いていると胸がムカムカするんだよな。
「俺っちの世界のお偉いさんに相談したらわかるかもしれないバが、そのためには異世界に渡る必要があるバ。でも、これ以上侵略されるのを防ぐためにゲートは閉じられているんだバ。開通には時間がかかるバ」
そのため、バンティーはしばらく元の世界には帰れないそうだ。気楽そうで色々と苦労してるんだな。
謎の声の正体にしてはいかんせん情報が不足しているため、解決させるのは難しいか。ならば、もう一つの疑問をはっきりさせよう。
「あとさ、この町にボクたち以外にも魔法少女がいるみたいなんだ。ヴァルサファイアって名乗っているらしいけど、バンティーは彼女のことは知ってるの」
「知ってるバ」
即答だった。あっさり解決できそうだぞ。
「なにせ、俺っちが変身させた魔法少女だからだバ。でも、彼女について詳しいことは教えられないバ。サファイアから直々に頼まれたから仕方ないバ」
「そうなんだ。それでも、ボクたちの味方なんだよね。じゃあ、彼女にも協力してもらえればいいんじゃ」
「う~ん。サファイアもまた癖の強い娘だバからね。素直に共闘を受け入れてくれるかどうかは彼女次第だバ」
ともあれ、一度会ってみる必要がありそうだな。交渉の余地があるって点ではこちらは望みがありそうだ。
「君から質問されてばかりだけど、俺っちからも君に聞きたいことがあるバ」
なんだろう。妙なことを質問されなきゃいいけど。
「女の子になるってどんな気分だバ」
ろくでもなかった。




