ダイカルアの目的
「名前で思い出したんだけど、魔法少女に変身した後の『ヴァルルビィ』って名前はどうにかならないの。正直ダサいんですけど」
「ボクも思った。そもそも、『ヴァルダイヤモンド』の『ヴァル』って何なの」
まさか、バルカンからはとっていないよね。
「魔法少女にした者からの鉄板の質問が来たバね。もちろん、ちゃんと意味があるバ。君たちはヴァルキリーって知ってるかバ。あるいはワルキューレでもいいバ」
「知らない」
「ボクはなんとなく聞いたことあるな。覇王が得意げに話していた記憶がある」
まかり間違っても星間複合企業体ケイオスの戦術音楽ユニットじゃないよね。同時に、覇王が「ルンがピカピカ」とか言っていたのを思い出した。
「北欧神話における戦乙女、勝利の女神みたいなもんだバ。魔法少女につけるのにはちょうどいいバ」
「あれ? まさか、ヴァルダイヤモンドのヴァルって、ヴァルキリーのヴァルなの」
案外まともだった。語感はともかく、勝利の女神様が語源なら魔法少女につけても違和感はないな。
とりあえず一息ついたところで、いよいよ本題に入る。机の上で机を折りたたんで佇むバンティー。彼を両隣から尋問の構えをとる。さながら罪人の取り調べみたいだけど、被告(?)のバンティーは悠長にくつろいでいた。
「さっそく聞くけど、ダイカルアってどんな奴らなの。あいつら急に現れて町を破壊しまくってるけどさ」
「単刀直入に来たバね。あいつらのことを話すにあたっては、俺っちがどこから来たかをまず説明する必要があるバ。聞いて驚くなバよ。俺っちは異世界から来たんだバ」
「うん、そうだろうね」
「それで」
「反応が薄いバね」
「しゃべるコウモリなんて、異世界でもなければありえないわよ」
そんじょそこらの少年がトラックにはねられて異世界転生するご時世だ。逆に異世界から訪問者が現れても不思議ではない。殊に、魔法少女の妖精といえば異世界出身がデフォルトだもんね。
「すんなり受け入れてもらえたのなら話は早いバ。君たちが住んでいる世界とは別に存在する異世界マージナル。そこが俺っちの故郷だバ。
マージナルは俺っちたち妖精が平和に暮らすのどかな世界だったバ。けれどもある日、邪神の眷属たちが侵攻してきたんだバ。奴らは時空間を渡り歩いては世界を壊滅させている極悪人なんだバ。
俺っちたち魔法使いは総出で邪神たちに立ち向かったバが、奴らの力は強大で全然歯がたたなかったバ」
「もしかして、君たちの世界を攻撃してきた邪神がダイカルアってことなの」
「ご明察バ。自然豊かだった土地は荒れ果て、湖は枯れ、空には常に暗雲がたちこめる。まさに生き地獄と化してしまったバ。そして、俺っちの仲間も強制的にダイカルアの手下であるバグカルアへと変えられてしまったんだバ。
でも、俺っちたちだってやられっぱなしじゃないバ。選りすぐりの魔法使いたちが集結し、力を合わせて邪神の封印に成功したバ」
「封印したんなら、それで一件落着なんじゃないの」
「そうだよ。大ボスがやられたら大人しく引っこむのが筋なんでしょ」
「俺っちたちの世界はどうにか事なきを得たバ。でも、奴らは壊滅したわけじゃないバ」
バンティーはびしりと翼でボクらを指し示す。嫌が上でも、話が核心に入ろうとしていることを自覚させられた。
「ダイカルアの残党たちは邪神復活のエネルギーを求めて異世界間を放浪していったんだバ。その結果、ものすごい魔力が溢れる世界を見つけてしまったんだバ」
「まさか、それって」
「君たちが住んでいる世界だバ」
ボクらの世界が魔力が溢れているって。冗談はやめてほしい。バンティーみたいな不思議生物がいるわけでもないし、魔法なんて代物はさっき変身するまで使うことはできなかった。ダイカルアの連中は見当違いをしているんじゃないかな。
「念のためにダイカルアの動向を追っていた同朋から報告を受けた俺っちは愕然としたバ。奴らが狙うのも無理はない。君たちの世界は魔力に対する親和性が高く、そのうえ邪神の餌が満ち満ちていたんだバ。
このまま力を蓄えられたら、君たちの世界だけではなく、俺っちの故郷やその他の平行世界も根こそぎ全滅させられるほどの存在を生み出されかねないバ。
そこで、俺っちたち精鋭がダイカルアの野望を止めるために、眷属たちの後を追って君たちの世界にやってきたんだバ。
どうにか異世界を渡ってきた俺っちたちは、ダイカルアの連中が付け狙った理由が納得いったバ。この世界の存在する書物には多く魔法についての記述が為されているバ。しかも、書物だけに飽き足らず、電気系統の魔法により、自動的に絵を動かす術まで実現させていたバ。しかも、映し出していた内容は俺っちたちと同じく魔法で戦う戦士たちの英雄譚だったバ」
えっと、話の後半に出てきたのは明らかにテレビだよね。それ、魔法じゃなくて科学だから。しかも、映っていたのは現実の出来事じゃなくて、魔法を題材にした冒険アニメだろう。ファンタジーな物語が蔓延しているって点では、魔法と親和性が高いって評価になるのかな。
「それだけじゃないバ。ダイカルアの眷属たちは邪神復活のエネルギーを集めているバが、具体的に何がエネルギーになっているか分かるかバ」
「ご飯じゃないの。腹が減っては戦ができないって言うし」
華怜が言っているのは、ご飯はご飯でも白米のことだろうな。剣道の練習の後とか、おいしそうにおにぎり頬張ってるもん。
「もっと抽象的なものだバ。こんなところでクイズをやっても埒が明かないから答えを言うバ。邪神が糧にしているのは負の感情だバ」
「また随分あやふやなものを餌にしてるね」
思わず呟いてしまった。負の感情というと、怒りとか悲しみとかの嫌な気持ちってことかな。
「そうだバ。魔力に親和性がありながら、実際に魔法に直面したことがない君たちは、魔法によって襲われた際、多大な恐怖心を煽られるバ。ダイカルアの攻撃によって恐慌が起きる度、感情のエネルギーはそのまま邪神復活の礎になってしまうんだバ」
無差別に破壊しているだけかと思っていたけど、一応大義名分はあったんだ。はた迷惑すぎるけど。
「奴らを止めたくても、故郷で戦った際に魔力をほとんど失ってしまったバ。だから、こちらの世界の人間に眠る魔力を覚醒し、変身させることでダイカルアの野望を止めてもらおうとしたんだバ」
「じゃあ、この宝石って私たちに眠る魔力を引き出すもの」
「ご明察だバ」
「なら、私が変身しなくても、この石を使えば誰でも変身できるじゃん」
「そうはいかないんだバ。眠っている魔力には大幅に個人差があるバ。そんじょそこらの人間に宝石を渡しても変身することはできないバ。君たち二人は常人と比べて並外れた魔力を持っている。だから、変身することができたんだバ」
人並み外れた力を持っていると言われて悪い気はしないけど、実感はないな。体力テストとかで測れるものじゃないんでしょ。おそらく、異世界の生物であるバンティーにしか分からないから、鵜呑みにするしかない。
「付け加えておくと、君がダイヤモンドの宝石を使ったところでヴァルダイヤモンドになれるわけでもないバ。魔力の質には個人差があって、君はルビィの持つ情熱の力との親和性が認められてヴァルルビィになったんだバ。まあ、あそこまで近距離特化の色物になるなんて予想外だったバがね」
「余計なことを言うのはこの口かしら」
「イタタタタタタ! 引っ張るなバ!」
華怜がバンティーの両頬を思い切り広げている。かわいそうだからそこらへんでやめておこうね。