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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第十一話「センチピードカルアを討伐せよ! 出撃マジカルロボ」
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メデューサ伝承と抗体

「マサッキーがよく分かっていないみたいだから説明してあげよう。メデューサって知ってるかい」

「えっと、髪の毛が蛇になっていて、相手を石にする化け物だっけ」

「その通り」

 アタック25の名司会者の真似をしながら講釈を続ける。拘束されたままだから威厳が台無しだけどね。

「かつてペルセウスがメデューサを倒した際、盾を介して直接見ないようにして首を搔っ攫ったって言われてるんだ。そこから派生したのか、石化攻撃をしてくる相手には鏡を使って自滅させる戦法が一般的になっている。ここまで言えば、ぼくが何をしたか分かるよね」

 さすがに彼女の戦法が推測できた。センチピードカルアがエメラルドに執着している隙に、トパーズが魔法でゲームの液晶画面を鏡に変換。そして、エメラルドの合図に従い、怪物との間に鏡を仕向ける。鏡に映し出された自分自身の姿を見たセンチピードカルアは、石化魔法を反射されて自滅してしまったというわけだ。


 ダイカルアの幹部級にしては間抜けな幕切れだった。エメラルドの作戦勝ちともいえる。

「すばるん、ずっと捕まっているのも飽きたから、そろそろ解放させてよ」

「めんどくさいけど、承知した」

 気だるげに自前のおもちゃのショットガン(十八ニンシューターという十八ニンジャ―の基本装備)に再生創造リクレイレイションを施し、本物の拳銃へと変化させた。ガンマンよろしく一回転させると、エメラルドを拘束している触手を撃ち抜いた。


 ようやく自由の身になったエメラルドは大きく伸びをする。そして、全身硬直しているセンチピードカルアと対面した。動くことはないとはいえ、その巨体の威圧感は健在だ。

「さて、こいつをどうしてくれようか。好き勝手やられたから、落書きくらいしてもいいよね。すばるん、油性ペン持ってる」

「うん」

 油性を指定してくるあたりが悪質だな。おまけに、持っているのか。ペンを受け取り、さっそく額に「肉」と書こうとする。やっぱり落書きするならまずはそれだよね。


 意気揚々と「内」まで書き終える。だが、いけないお習字が完了しようとしている時、

「危ない!」

 いきなりトパーズがエメラルドを突き飛ばした。不平を顕わにするエメラルドだけど、すぐに絶句する羽目になった。


 エメラルドにタックルを仕掛けようと飛びかかった姿勢のままトパーズが固まってしまっているのだ。録画したビデオを一時停止しないと再現できない、あまりにも不自然なポーズである。無論、彼女が意図的にそんな恰好をしているわけがあるまい。第三者によって強制的にポーズを取らされているとした方が自然である。

 恐る恐るトパーズに触れてみるものの、全く反応がない。頬をつねってみても一言も発することがないのだ。認めたくはないが、一つの可能性を承認する他ない。

「まさか、昴はセンチピードカルアの魔法にかかったのか」

「そうかもしれない」

 絶対にありえない。センチピードカルアは自滅して石化しているはずでしょ。なのに、どうして昴を硬直させられるんだ。


「どうやら勝ったつもりでいるようですが、詰めが甘いですね」

 ざわめいていると、不気味な声が聞こえた。まさかと思い、怪物の方を見遣る。

 すると、非情に緩慢な動きでセンチピードカルアが前進してきた。そんなバカな。あいつが動けるはずがない。

「センチピードカルア。お前、なぜ動けるんだよ」

「自分自身の毒でやられるなんて、そんな間抜けを犯すとでも思っていたのですか。猛毒の蛇が己の毒で死なないのと同じ理屈ですよ」

 口腔から唾液を滴り落としつつ、更に迫ってくる。毒蛇が自滅しない理由って関係があるのか。しかし、エメラルドは思い当たったのか口を半開きにしている。


「やられた。あいつ、抗体を持っていたんだ」

「抗体だって」

「毒蛇は自分自身の毒でやられないように、自分の毒を打ち消せる抗体を体内に持っているって聞いたことがある。おそらく、あいつも石化魔法を打ち消せる手段を持っていたんだよ」

「その通りです。私めも同じく石化魔法に対抗する術を体内に刻みこんであります。魔法を跳ね返されることぐらいは予習済みですからね。ましてや、ダイヤモンドは反射魔法を使うというではないですか。彼女との戦いを想定しておいて正解でしたよ」

 こちらの戦力を分析してきているなんて、変態のくせに抜かりがない。トパーズまでもが脱落したことで、エメラルドとボクしか戦える者がいなくなった。こうなったら、変身を躊躇している場合ではない。


「昴、一か八かだけどボクも変身する。問題ないよね」

「ダイヤモンドの力を借りずに勝ちたかったけど、四の五の言ってられなくなっちゃったからね。でも、気を付けてよ。あいつ、アホのくせに強いから」

 エメラルドとアイコンタクトをすると、ボクはダイヤモンドを手に一歩一歩着実に進み出た。


「残ったあなたも魔法少女の仲間というわけですか。まあ、ダイヤモンドにでも変身しないとこの状況は打開できませんがね」

 この変態、盛大にフラグを立てているな。ならば、お望み通りに変身してやろう。

「センチピードカルア。好き勝手にボクの仲間を弄んでくれたようだけど、もう許さないぞ。このボクが成敗してやる。アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーダイヤモンド!」

「なんですと!? 本当にヴァルダイヤモンドだったのですか」

 白銀の光に包まれ、ボクの全身に魔法少女の衣装が装着される。くるりと一回転し、堂々と指を突きたてた。

「清廉潔白! 我、すべてを統べる戦士! ヴァルダイヤモンド」

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