ルビィの愛刀ディザスカリバー
「準備は整ったか。さっさとぶちのめさせてもらうぞ」
律儀にヴァルルビィを待っていたベアカルア。挑発されたことで、ルビィもまた構えなおす。
「残るはあんただけのようね。このまま押し切らせてもらうわ」
「ほざけ。ダイカルアの魔力を思い知らせてやる」
互いに地面を蹴り、一気に間合いを詰める。ベアカルアの爪による一閃を回避し、胸へと拳を叩きつける。しかし、厚い胸板に阻まれろくにダメージが入らない。
両手で挟まれそうになるが、ルビィは咄嗟に後退する。しかし、逃げ切れずに爪先が腕をかすってしまう。
やばい、あれは痛そうだ。クマに殴られたら大量出血は免れない。
しかし、ルビィは腕を切り裂かれているものの、ちょっと顔をしかめただけだった。あれ? 痛くないのかな。
「危なかったバね。魔法少女に変身している間は肉体の治癒能力が大幅に上昇しているバ。炎とか雷を飛ばしてくる相手に対抗するには当然の処置だバ」
「へえ、それはありがたいわね」
さらっと流されたけど、とんでもないことを口走ったよね。ダイカルアの中にはそんなとんでもない攻撃をしてくるやつがいるってわけ。目の前のクマさんが可愛く思えてきた。
徒手空拳でベアカルアに挑んでいるものの、相手も体術を得意としているらしく戦況は拮抗していた。クマとまともに戦える女子中学生という時点で異常だけど。
「ちょこざいな。ならば魔法を試すまでだ。内に秘めし闘気よ、今こそ顕現し我が拳に集え! 激滅剛拳」
ベアカルアが腕をクロスさせると、丸太のような腕が更に膨張する。そこだけが異様に盛り上がったせいで、クマというかゴリラみたいになっている。
「まずいバ。あいつ、腕力を上昇させる魔法を使ったバ」
「そういうことだ。覚悟しやがれ」
威嚇のためか地面を拳で殴る。すると、派手な音とともに亀裂が入った。魔法少女の加護を以てしても大怪我は免れないだろう。
果敢に攻めていたルビィも慎重にならざるを得なくなる。矢継ぎ早に繰り出される拳を右へ左へと避けていく。回避に専念する他ないというのが痛手だった。でも、あんなのに対抗できる手段なんてあるわけないよ。
「バンティー、お願いがあるんだけど」
ベアカルアから距離を置くとバンティーへと語りかける。
「何か細長いものって持ってない」
「細長いもの。電〇かバ」
今、とてつもなく卑猥な道具の名前が飛び出しましたよね。細長いものでどうしてそれが真っ先に思い浮かぶんだよ。そもそも、中学校にそんなものあるわけないでしょ。
バンティーはあてにできないと判断したのか、ルビィは自分で目当ての物を探す。すると、中庭に転がっていた竹箒を見つけ出した。おお、魔法少女に箒。これこそ王道の組み合わせ。空を飛んであいつを惑わせるつもりだね。
しかし、ルビィは箒の柄を両手で握ると、穂先を相手の喉元に合わせるように構える。左足を引き、ゆっくりと息を吐く。その姿勢は剣道での中段の構えそのものだった。うん、嫌な予感しかしない。
「邪を裂く聖剣よ! 尊大なる御霊を我が手中に宿せ! 聖剣変化」
新たに魔法を唱えると、構えていた箒が光に包まれる。ボサボサだった穂先が統一され、鋭利な切っ先になる。柄の部分も黄金色に装飾され、仰々しい鋼の剣へと変化した。
「魔法界に伝わる伝説の名刀ディザスカリバー。人間界にある形質の似た物質を分解して再構築することで呼び出すことができる魔法の剣だバ」
「頭に浮かんだから使ってみたけど、武器を作り出すなんていい魔法ね。しかも、おあつらえむきに剣じゃない。これならあのクマにも勝てそうね」
すごくしっくりしているようだけどさ、素直に箒で空を飛べばいいんじゃないの。わざわざ剣に変換してしまうというのが華怜らしいというか何というか。
とにかく、剣を得たルビィはまさに鬼に金棒だった。ベアカルアは唸りをあげて爪を振るうも、ルビィは素早く一太刀をお見舞いする。すると、自慢の爪が一刀両断されたのだ。
「あんたの爪は物騒だからね。ちゃんと切ってあげたわよ」
「ガァア~、爪が、爪がぁぁぁぁぁ」
滅びの呪文を唱えられた天空城の王みたいになってるぞ。そして、相手が怯んだ隙に袈裟懸けに剣を振るう。異様な腕力を誇っていてもベアカルアは防戦一方となっていた。
「それじゃあ、そろそろトドメといくわよ。大地を穿つ大剣よ、鋭利なる刃を以て貫け! 斬撃一貫」
再び中段にディザスカリバーを構えると、柄から先が肥大化していく。ロングソードなんてレベルじゃない。ルビィの頭身の二倍以上に成長しているのだ。
一蹴りでベアカルアの頭上以上に跳び上がると上段へと構えを移行する。そして、呆然としているベアカルアへ唐竹割を喰らわせたのだ。
頭から一刀両断されたベアカルアはけたたましい悲鳴とともに仰向けに倒れる。巨体は徐々に霧散していき、残されたのは三白眼の不良だけであった。
不良と野次馬が死屍累々としている中、ヴァルルビィはディザスカリバーを鞘に納めるように帯刀する。魔法が解けたのか、元の箒へと戻っていた。
「見事だバ。魔力が尽きたことで、怪物に変身する能力は失ったバ」
「じゃあ、こいつらが化け物になることはないってわけね」
箒をその場に置くと、ルビィは不良の前で仁王立ちする。かろうじて意識のあったリーダー格は悔しそうに呻いていた。
どうにか危機的状況は脱したようだった。それにしても華怜が新しく魔法少女になるなんて。おまけにけっこう強かったし。よかった。これならボクが魔法少女にならなくてもこの町の平和は守られるよね。
でも、安堵するのは早計だった。
「おいおいおい、情けねえな。ダイカルアの一員ともあろうものが、こんなとこで寝てんじゃねえぞ」
空間が歪んだ。そんな不可思議現象を巻き起こしながら大層な格好の男が乱入してきたのだ。