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1話 不良君

「ふ、ふぅ、疲れた……」

「はは、お疲れ様」

「は、はるはるなんでそんなに余裕そうなの……!?」

そりゃあ、玲音のその足の速さじゃあ、ね。

と言ったら確実に怒られかねないので、心の奥にしまっておきつつ、彼女の手を離す。

「だって、まだ時間全然余裕だもん」

「え!?だってさっき遅刻しちゃうって……あ、走ったからか!」

もちろん本当に遅刻しそうだったら彼女の足では間に合わないだろう。

けれど「ふふ、私も高校生になったから体力ついたのかも~」とにこにこする彼女を見ると、とてもそんな事は言えない。

「ふぅ、落ち着いたよ。よしはるはる、行こう……な、なんか、妙に校門の方騒がしくない?」

「そうだね、何かあったのかな」

人混みの隙間から校門の様子を伺うと、何やら言い合いが繰り広げられていた。

「だぁかぁらぁ、これは開けられたの、俺の意思じゃねぇんだって!!」

「そんな事関係ありません。ピアスを開けるのは校則で禁止されていますから、中に入れさせませんよ」

「ねーねーはるはる、何が起きてるの?」

身長のせいで人混みの隙間を見つけられず、横で飛び跳ねている玲音に向かって説明する。

「なにやら、不良っぽい子と風紀委員が揉めてるみたい」

ぎゃーぎゃー喚く生徒は金髪にピアスを開け、鋭い目で相手を睨みつけている、いかにも不良、というような男子だった。

その睨む先にいて、その生徒に冷静に注意しているのは、制服をかちっと着こなし、腕に「風紀委員」と書かれた腕章を付けた、いかにも真面目、というような女子。

そんな全く正反対な男女が言い合いを続けていた。

「誰か止めようとしないのかねぇ、どっちか折れたらいいのに。言い合いを聞くからに不良君、彼が悪いんじゃん。大人しく帰ってピアス閉じてまた来たらいいのに」

「……」

「はるはる?」

「なんとなく、なんとなくだけど、あの男子の言ってる事、本当じゃないかなって……思う……」

さっきは睨んでるように見えた彼の瞳は、今は「信じて欲しい」と必死に訴えかけているように見える。

本当に、なにか事情があって「開けさせられた」ように。

「うーん、でも風紀委員さん?彼女、絶対信じないと思うけど」

「そう……だよね、どうしたら……」

「その辺にしない?」

ふと静寂が流れる。

言い合いをしている2人を仲裁するように掛けられた声。

確かにその声には聞き覚えがあった。

「金髪君、その、ピアスを開けさせられたって言うのは、俺の目を見ても言える?」

「……はい、もちろん」

「そうか、だったらいいんだ、ようこそ、私立夢花学園へ」

「で、でも、生徒会長……!」

生徒会長、と呼ばれたその人は、風紀委員の子ににこりと微笑むと

「俺は生徒の代表、生徒会長なんだから、生徒の言うことは信じてあげないと。大丈夫、彼はこう見えてもかなり成績も行動もいい、優等生だと聞いているからね」

諭すように、言い聞かせるように、甘い声でそう告げた。

周りから飛ぶ黄色い声。

「流石、生徒会長の水無月仁(みなづきじん)先輩……ううん、「ワイルドワールド」のボーカル、Jin……素敵……」

「文化祭にはWW(ダブリューダブリュー)のメンバーも来て、唄ってくれるんでしょ!?」

「え、そうなの!?すごい……」

そう、この学園の生徒会長は、大人気バンドのボーカルを務めている、水無月仁先輩だった。

「ははは、はるはる、今、いるの……?」

「うん、いるよ」

「お願い、いなくなるまで匿って……」

「わかった、僕の後ろに隠れといてね」

その存在を恐れるたった1名、そして知り合いである僕を除き、その場にいた全員が彼に見惚れている。

彼は風紀委員の子になにやら囁いた後、僕達に微笑んで去っていった。

風紀委員の子も生徒会長の言葉にやっと折れたようで、不良君を学園の中に入れてあげていた。

「さ、玲音、もう大丈夫だよ。クラス発表、見に行こうか」

「……うん!」

笑顔でそう言う彼女に微笑んで、僕達はクラス発表が掲示されている場所へと向かった。

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