本当の話だけを書こう、と並木青年は言った。
寄稿、という形になる。
妹もあれで長く筆をとってきたはずなのだが、今作の第一章を(半ば無理矢理)読まされたところ、ノンフィクションと銘打つにはあまりに現実と乖離しており、このままにしておいていいものかとひどく悩まされた。
少なくとも僕は女性に手をあげる類の人間ではないし、いかに若かりし頃とはいえ、あのような粗野な振る舞いはしなかった、と思う。なんの因果か、最近になってまたメディアに露出させられる羽目になったが、まぁ、ご覧いただいたとおりの紳士なのだ。そう自負している。ここまでの話は嘘ばかりで、大目に見てやってもハーフフィクションというのが関の山だろう。
だから、せめて僕は本当の話だけを書こう。
事実ゆえに、ここから先には多々恥ずかしい場面がある。笑って読み流してほしい。正直、自分の昔の話なんて適当な冗談でまとめてしまいたくなるが、それだけはできないのだ。なぜって、あれだけ大々的な宣伝が打たれたこの伝記が、よもやまるで売れないということになったなら……ああ、想像するだけで怖ろしい。かといって、あの破天荒というだけではあまりに業が深い妹の半生など、僕にはとてもじゃないが書ける気がしない。なので結局、ここでは彼女と出会うまでの話を選んだ。正直に過去と向きあい、実際にあった事柄を真摯に書くつもりだ。それにより、このあともまだまだつづく物語の裾野をちょっとでも広げられれば幸いである。
では、まずは僕、並木葛生の生い立ちからはじめよう。
あれは一九九九年のことだった。