表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

003[換わりの幸せ「2」end]

[換わりの幸せ「2」end]


所変ところかわって、こちらはトキノネ堂・・・

今日も、ドアベルを鳴らして

他の女と結婚しながらも、彼女を愛し続けている彼が

彼女を取り戻すため、彼女が交換こうかんに出した彼女の欠片かけらさがしにやって来る


私は、彼が求めている物のまった箱から出て

金色にも見えるひとみ飴色あめいろかみの少女と一緒に『いらっしゃっませ』と

彼に声を掛けた。


彼は私を見て、ほっとした様な顔をして

『君を見ていると自分が間違まちがっていないって自信がいて来るよ

僕は絶対に、彼女を取り戻さなきゃいけないんだ』と言い

目尻めじりなみだにじませる


「そりゃそうだろう…」

私は心の中で、そのわけ反芻はんすう

『今日は何をお求めですか?』と、箱の場所まで彼を案内した。


彼はレジの方から

貴方あなたの事をきに来た人がいましたよぉ~

タイムリミットは、もう直ぐです…記憶の中から捜し出せましたか?

彼女がてた気持ちを見付けられると良いですねぇ~』と

飴色の髪の少女に声を掛けられる


彼は眉間みけんしわを寄せ、だまって箱の中をのぞき込んだ


そして、私に彼女との思い出をポツリポツリと話しながら

時間を掛けて品物を探し出し

今日も妻から渡された小遣こづかいの範囲内はんいないで、外れ商品を購入して帰って行った。


ドアベルが鳴り、扉が閉まる

私はショウウインドウから見える外の景色けしきから

彼が消えてしまうまで見送り、箱の方へと戻る


飴色の髪の少女が片手で自分の髪の毛先をつまみ、もてあそびながら

『そんなに好きなら、教えてあげたら良いのに』と言った。


私は首を横に振る

『嫌よ、それだけは嫌…それに、私は彼を好きなだけじゃないの

同時にすごにくんでもいるのよ』


『そうなんだ』と、少女は何故なぜかそれだけで納得した様子で

『じゃ仕方無いね』と、素気そっけなく言う


私は何故かソレを不服に感じ

『だってさ…お父さんがお母さんを捨てたから

お母さんが流産して、私は生まれて来る事が出来なかったのよ』と語る


少女は話しに興味きょうみを持ったのか?

『そっか、アナタは私とは少し違って

生まれて来る事が出来なかったタイプの子供だったのよね…

ソレはソレでつらいよね』と、身を乗り出し

カウンターにひじをつき、両頬りょうほほ頬杖ほおづえをつく


私達は意外な共通点を見付け、友達みたいに仲良くなって

閉店時間まで色々話をした。


開店時間少し前・・・

折角せっかく、仲良くなったのに…今日でお別れなんだね』

少女が私を抱締だきしめ別れをしんでくれたのは、ついさっきの事

彼があきらめる為のタイムリミットがやってきた


店に入ろうとした彼は・・・

彼の妻が引き連れてきた男友達によって、店の前で彼を取り押さえられ

地面に押さえつけられた状態で夫婦喧嘩ふうふげんかをしている


少女は溜息ためいきき、私と目を合わせ・・・

私達は『営業妨害甚えいぎょうぼうがうはなはだしいね』と笑い合い

私は『あの人達全員、逮捕たいほされて刑務所けいむしょに…とかなったら良いのにな』とこぼ


地味じみにリアルな…そんな「設定せってい何処どこから引張って来たんですか?』

今日は特別な日なので・・・

白い着流しを着用した、白い髪の店長さんが店に一緒に出て来ていた。


地面に押し倒された彼の前を私の元となったモノを生み出した女性が

夫と共に横切り、トキノネ堂の扉を開ける


彼が悲痛なさけび声を上げ

自分よりガタイの良い男達を押し退けて必死で立ち上ろうとし

『待ってくれ!』と、精一杯叫せいいっぱいさけんだが

カランカランカランとドアベルが鳴りひびき、彼の声をき消した。


『いらっしゃいませ!』少女と店長さんの声だけが重なった

私は、少女が店長さんにたのんで手配してくれていた

私そっくりな赤ちゃんの人形の中へと閉じ込められ、声を出す事も出来なかった


私は少女の胸元でかさねられた手の中

少女の綺麗きれいで細いゆび隙間すきまから、一部始終いちぶしじゅうを見る事となるのだった。


自分の妻を品良くエスコートする、本物の紳士しんしの様な

私の母になるはずだった女性の夫は『注文していた物を出して欲しい』と言って

ドールハウスにかざる「赤ちゃん用品」を彼女に見せ

『コレをプレゼントする代わりに、ちょっとたのみたい事がある』と言う


彼は女性の返事を待たずゆか片膝かたひざをつき、自分の妻の両手に

新品の愛らしい母子手帳カバーと、新品の小さな白い靴下くつしたを手渡し

『私は君を心から愛している、流産を経験して苦しんだ事がある事も知っている

でもどうか、出来るならば…私との子供を産んではくれないだろうか?』と

結婚してから最初のプロポーズを決行した。


私を産む事に失敗した女性は、なみだをポロポロこぼ

『はい』とだけ答えた


良い答えをもらう事に成功した彼女の夫は満面まんめんの笑みをたた

『ありがとう!

これからは良き親に成れる様に、2人で力を合わせて生きて行こう』と

2人の会話をくくった。


女性と・・・

その女性との新生活を捨て、仕事を続ける為に他の女と結婚したおろかな男をつな

運命の糸が完全に切れた


それと同時に・・・

私と、私が産まれる事を楽しみにしていた女性の時間の象徴しょうちょうであった

母子手帳カバーとのえんが、千切ちぎれてはなれて行った


愚かな男が見落としたのは、自分が生まれて初めてしたプロポーズの切っ掛け

『私、子供が欲しいの!女は何時いつまでも子供を産む事が出来るわけではないの!

2人の近い未来に「その予定」が無いなら、別れて下さい』と言う

決意を込めた涙ながらの女性言葉と


いそがしい仕事と、結婚と新生活の準備で見落とした

婚前から始めた妊娠活動によるその結果であった。


父親に胎児たいじとして存在した可能性すら見付けて貰えなかった私は溜息を吐く

少女はそんな私に、こっそりと・・・

『生れ変って、私の事を思い出したら…トキノネ堂まで、会いに来てね』とささや


『おめでとうございます』と、御祝おいわいの言葉を発し

『コレは出産祝いの前渡しです』と

私の魂を閉じ込めた、ドールハウス用の赤ちゃんの人形を夫婦に手渡す


そして『ドールハウスの人形共々、幸せを気付いて下さい』と店長

少女は少し目尻に涙をにじませ

『私の御友達をよろしくお願いします、幸せにしてやって下さい』と、言ってくれた。


アレから数年が経過けいかした

私はトキノネ堂の扉を開く、カランカランカランとドアベルがひび

あの時の少女があの時のまま姿をあらわした


『おかえり』と、少女が私に向けて微笑ほほえんでくれた

『ただいま』

私は母親の形見かたみの、変色し罅割ひびわれた飾り・・・

元は小さな白いうろこを1枚、透明なハートに閉じ込めた物を所持して

少しれ笑い気味に微笑みながら店内に入る


店長さんもそのままの姿で姿を現し

私がかかえた荷物、ドールハウスを見て苦笑いを浮かべる

『2人の愛は、失敗したのですね』

私も店長さんの言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。


捨てられて傷付き、うばわれると言う恐怖きょうふを知る女と

愛しぎて相手をこわすほどに愛してしまう男のたがが外れた夫婦生活は

悲惨ひさんなモノだった


裏切らず「キスとハグとゆるし」をあたえ合う

多くを求めず相手が側に居るだけで満足する約束の契約結婚けいやくけっこんと言う

箍が外れた男の愛は際限さいげんが無く


受け入れる側が負荷ふたんえきれず

結婚生活と言うどうをバラバラに分解してしまい

結局けっきょくまた、男は妻を亡きモノにしてしまったのだ


私は・・・

『お父さんが「次のわりの幸せを御願いします。」だって』とつた

ドールハウスと「お父さんの分と私の分」2人分の料金を店長さんに手渡した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ