3、日常
「なぁ、新八」
「何か?」
「すっげぇ暇なんだけど」
「俺に言われてもねぇ」
壬生村八木邸。浪士組の滞在場所となっている。
試衛館一同、芹沢派一同は一つ屋根の下。
一触即発の空気の中、生活している。
しかし、龍也だけは何にも囚われず、自由気ままな生活を送っていた。
土方をからかったり、沖田と遊んだり、芹沢と話したりといったように、この上なく自由に、何も考えずに日々を送っていた。
「新八〜。かまえ〜。遊べ〜」
「やれやれ、うるさいお子様だこと」
「誰がお子様だ、誰が」
「龍也以外に誰が居るって?」
縁側に並んで座っている、身長差の激しい二人。
小さい方は龍也、大きいほうは永倉新八だった。
気さくな永倉は、なにか文句を言いながらもいつも龍也の話し相手になっている。
穏やかにやんわりと話を受け止め、何気なく返事をする。
そんな永倉の喋り方が、龍也は大好きだった。
「暇だなぁ。稽古……も面倒くさいし」
「これこれ。そんなこと言うもんじゃないよ」
「土方では遊び飽きたし」
「お前、いい加減にしてやらないと、土方さんの胃に穴開くからな」
「総司が居ればなぁ」
「あぁ、お前等同い年だっけねぇ」
実際のところは龍也の方が一つ上だ。
しかし、そんな大した差がある訳でもなく、何より龍也本人が面倒くさいので、あえて訂正したりはしない。
年の差なんか関係ない。全て生き方次第。
それが龍也の自論でもあった。
「暇だな〜っと。左之及び平助発見!おぉい!左之!!平助!!」
「何だ何だぁ?でっけー声出しやがってよぉ」
「何?何かあったの?」
「暇だ!!かまえ!!」
「はあぁ?お前なぁ……」
「なるほど、龍也らしいな」
原田は呆れ顔、藤堂は何か納得したような顔で龍也を見た。
原田左之助は豪気な頼れる兄貴分。
腹に切腹の後があるので「死そこないの左之」という異名も持った、血気盛んな人物である。
藤堂平助は中途半端に幼い容姿の、でもお笑い要素を含んだ何かと楽しい人物だった。
この三人は皆、試衛館からの気の知れた仲間である。
いつも笑いを取り巻いていて、均衡のとれた三人組だった。
弟分の藤堂に、豪快な原田、気さくな永倉。
そこに龍也が混ざれば、ある意味ではもう誰にもとめられない集団ということで有名だった。
剣の腕も中々のもので、龍也はよく手合わせを願い出ていた。
原田は槍術の達人で、これについても稀に龍也は稽古をつけてもらっている。
「ほら、暇じゃんか。何かしよーぜー」
「そうは言うけどよ」
「何にもすることが無いからねぇ」
「だってさぁ」
龍也の意見を永倉を原田でことごとく否定する。
藤堂は笑いながらのほほん、とその光景を眺めていた。
「じゃ、龍也、俺様の槍術の稽古をつけてやろうか?」
「えぇー。それはそれで面倒くさい」
「だろぉ?俺だってめんどくせぇの。つまり、今日みたいな日は動かないに限るってこったよ」
「そういうこと。龍也。僕も左之の意見に賛成」
「と、言うことで俺は寝る」
そういうが早いか、左之は縁側の柱に寄りかかって早速寝息を立て始めてた。
永倉を藤堂は目を合わせては、くすくすと笑いあっている。
左之は結構いつも寝ている。
起きているときはなんとも豪快だが、寝ているときはそれでも静かなものだな、と永倉は思う。
それでもやはり、いびきをかいているので、完全に静かだとは言いにくいものがあるのだが。
「さて、左之は寝ちゃったけど」
「どうしたものかねぇ」
「……混ざるか」
「……だな」
「だね」
「あれ、皆さん気持ち良さそうですね。僕が買い物に言ってる間に皆は寝てるなんて。それじゃ僕が可哀想じゃないですかぁ。……この光景、見てると真面目に仕事やってるのが馬鹿みたいに思えてくるなぁ」
沖田は近藤に買い物を頼まれていたのだ。
帰ってきて目に入ったものは、龍也、永倉、原田、藤堂の四人で、それぞれがそれぞれに寄りかかったり、足をのせたりして、気持ち良さそうに寝ている図であった。
「えーい、僕も混ざっちゃえ!」
「……む、やっべ、本気で寝てた……って、アレ?何この状況」
目を覚ました龍也の周りに広がっていた光景。
それは十数人の浪士組のものが、ごったがえして縁側に寝ている状況だった。
これが、日常。
これが、きっと幸せな日常。