1、始まり
「近藤さん!!京に行くって本当か!?」
試衛館道場。
そこで稽古の掛け声にも負けない大声が響く。
「落ち着け、龍也」
「これが落ち着いてられっかよ! で、どうなんだ!?本当なのか!?」
「あぁ、近々浪士組、と言うものが結成されるそうでな。我等試衛館一同、志願しようと思っとるんだ。なぁ、トシ?」
「そういうことだ」
文久二年。
浪士組募集の知らせが入った。
江戸幕府将軍・徳川家茂の上洛により、その警護のための浪士組を結成させる。
将軍様をお守りするため、京の都で名を上げるため、近藤達は諸手を挙げた。
「京……ですか。どうせ僕は子供だからって連れて行ってくれないんでしょうね」
「なにいってる、総司。お前も行くんだぞ」
「本当ですか!!行っていいんですか!?」
「あぁ、お前も大切な試衛館の一員だ」
「僕、姉上に知らせてきます!!有難う、近藤さん!」
いつも子供扱いされていた総司には、この上なく嬉しいことだったに違いない。
いくら剣の腕が良いとはいっても、未成年。
酒の席などではどうしようも無いことなのだが、やはり疎外感を感じていたのだろう。
やっと自分を認めてくれた。そんな風に思えるのも無理ないことだ。
しかし、総司も試衛館の門下生。
此処で総司を置いて行けるほど、近藤は野暮ではない。
言ってしまえば、近藤は沖田に甘いのだ。
近藤だけではない。
土方だろうが、山南だろうが、龍也も原田も永倉も藤堂も沖田に甘い。
ついつい甘やかしたくなってしまう。沖田はそんな雰囲気を持った少年だった。
「さて、山南さん」
「はい」
「新八」
「はいは〜い」
「左之」
「おう!」
「平助」
「なんだい」
「龍也」
「はいよ」
「……トシ」
「……あぁ」
「行くぞ!!京の都へ!!我等試衛、尽忠報国の志の下、将軍様のためにこの身を捧げようではないか!!」
彼等の物語は、始まったばかりである。