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ハートビート

作者: 城田 直

 


 レースのカーテンから零れ落ちる朝の日差しの粒。メイに贈ったエンゲージリングの周り


 に散りばめたダイヤモンドと見紛うかのようだ。


 僕たちはまだベッドの中で、まどろみながら、互いの体の温もりを確かめ合っている。


「もう、どこにも行ったらダメだからね。ずっとお兄ちゃんの腕の中に居ろ」

 

 そう言っている僕の瞳の中をじっと見つめて、メイはわらう。


「どこにも行かないよ…」

 

 腕の中のメイの淡褐色の瞳が煌めき、僕はすっかり安心して再び眠りに陥る。

 

 再び僕らは巡り会えた。この幸せを僕は宇宙に感謝する。 決して消えない絆。僕の最愛のジュリ



 5年前の夏、忘れもしない7月15日、その日はジュリの20回目のバースデーだった。僕はたったひとり


 の妹の誕生日を祝うためだけに、大学病院の医局長に休みを半ば強引にもらった。

 

 僕は内科の医局では割と可愛いがられていたから、医局長もダメとは言わない。ただし、妹の誕生日


 ごときで休みを取るとは、ひどいシスターコンプレックスだな…と揶揄されはしたが。


 かまうもんか。


 僕らの母親は早くに亡くなった。僕が八歳で妹はまだ一歳にもならない赤ん坊だった。



 僕はベビーベッドで眠っているジュリを守らなければならないという使命感に燃えていた。


 最愛の家族。ちいさな人形のようないたいけな妹。



 そのジュリが一瞬で帰らぬ人となったあの日の夕方、僕らは誕生日のディナーを用意すべく


 キッチンに立っていた。僕は肉を焼き、ジュリはサラダのレタスをちぎってボウルに入れる。


 ね…少し、暗くない?

 

 別に暗くないよ。まだ、17時前だし…僕がそう言った、次の瞬間、ジュリの手元がブレた。


 アタマが痛いの、横になりたい…ジュリはそう言いながらリビングのソファに倒れ込んだ。


 ジュリ、どうした?


 くも膜下出血だった。救急車で病院に運ばれたときはすでに脳死状態だった。


 そのときくらい、自分が医師だったことを呪ったことはない。


 僕は、何もできなかった。しかし、僕はとっさに、じゅりの言葉を思い出した。

   

「もしも、あたしが先に死ぬようなことがあって、何かまだ誰かの役に立てるなら、あたしの体の臓器


 の使えるところすべて、提供してね。そして、心臓を提供した人には、あたしのスピリチュアル


 が宿るはずだから、きっとまた、戻ってくるからね…男でも女でも、その人の心臓がわたしのだってす 

 ぐわかるからね…」


 そして僕はメイに会って気がついた。メイのハートを刻んでいるビートがジュリのものだって。


 メイのブログにこうあったんだ。わたしは5年前の7月15日が再びの誕生日です。幼い頃から拡張型心


 筋症のわたしは、心臓移植しかなくて、誰かの命を頂いて、わたしは再び生きる喜びを与えられまし  た。

 感謝してます、と。



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