三年前(4)
三年前の駅前
男性が女性にアプローチをかけた時、断られたら退散する。初動で声を掛けた時の反応とその後の会話で、女性が笑顔で笑えば上手く行く。
松岡はそう考えている。粘り強さは女性を引かせて怖がらせる。
だが時に人は相手を思うあまりにさらに粘り強さを見せる時がある。押し出しとでもいうのだろうか?気持ちの勝利か?松岡は疑問に思う恋を見るときがあった。まあだいたいはジブンには興味のない関係のないことだ、松岡はそこでいつも考えるのをやめる。
しかし……
この後輩ジローは違った。
先にあげたプロセスをすべて飛ばし、階段を下から上へたった一回足を出しただけで登り切るようなそんな感覚でジローはプロポーズに走った。
おそらく勢いが余りすぎてのことだと思うのだが…
その若さが羨ましい気持ちも松岡にはした。
頭を下げ、たまたま話しかけた目の前の女性に深く頭を下げたままのジロー、それをポカンと見つめる女性。
「ご、ごめんなさい。…でも友達ならいいですよ」
泡を食いながらも、ジローにそう発した彼女も凄いのかもしれないと松岡は思った。なんだか心から優しい目の前の女性に、ジブンが恋をしそうになる松岡だった。
そして胸を強調したその服装にも…
いかん!松岡は思わず後輩、しかもジローの前で我を忘れそうになる。
そう考えたところで、ジローをみてみる。彼はしっかりと女性を見据えていた。
「嬉しいです」
ジローは笑った。それを見て松岡はあきれる。女性はそのジローの笑顔を訝しげに覗き込む仕草をした。松岡は思わずその彼女の胸元に目が行きハッとした。
「…あの~もしかして高橋さん…ですか?」
女性はジローの顔を見ながらいった。
「え?はい!そうですが…」
少しジローは悩んだ後、そう答えた。
「アタシです。同じ学部の桐崎です。桐崎杏子
講義でお会いましたよね」
ジローに向かって喋るキリザキアンズと言うらしい女性を松岡はジッと見てしまう。
「……ああ~あの桐崎さんですか?!倫理の講義で」
ジローは少し彼女の顔を覗きこむと言った。鼻の下がのびている、とはこういうことなのかと松岡は納得する。
「覚えていてくれたんですね~嬉しい」
杏子は言った。ジローも嬉しそうだ。女性の嬉しいは、強力だ。
「ところで何をされてたんですか?」
杏子の当たり前のようにされたその質問にジローと松岡はギクリとした。まさかナンパの練習とは言えまい。松岡の位置から堤と山下がニヤニヤとしてるのが見えた。それを見てなんだか腹が立つ。
「実は…」
ジローが理由を話そうと口をモゴモゴと動かした。松岡はジローを止めるべきかを考える。
「センパイとこれから飲みに行く所なんですよ!」
松岡の堤の太いが後ろから響いた。
「そうそう~センパイが奢ってくれるんだあ」
山下が後ろから加勢する。細い声だ。いつのまに2人は松岡とジローの背後に立っていた。2人の顔はニヤニヤしている。
「そうなんですか?日曜のこんな昼間から?今お昼の2時前ですよ」
杏子の声に松岡はギクリとする。
「そ、そうだよ!これから飲んで日頃のストレス発散だ~…月曜に持ち越さないように…全部俺が面倒見る予定だ」
松岡はぎこちなくいった。
「いっしょにど?」
気楽に言ったつもりだ。
「せっかくなんですけどまた今度。バイトがあるので」
杏子はサらっと言うとその場を去ろうと歩き出した。そりゃそうだ。
「あ、あの今度の休み、遊園地でもいきませんか?講義の話でもしながら」
ジローの声がまた聞こえた。松岡はため息をついた。オマエはメチャクチャだ。
杏子はこちらを振り返った。ああ、後ろ姿が綺麗だな、松岡は感じた。見慣れてる誰かの背中が頭に浮かんだ。
「いいですよ、やっぱりナンパだったんですね」
杏子
「へへへじゃあ今度の休み」
ジロー
へへへじゃないし、なんだかトントンと進む会話に松岡は呆れた。連絡先を交換すると杏子と別れた。
「えへへへセンパイありがとう」
ジロー
「なにもしてないただのキューピットやないか~」
松岡は言った。
「でも心配だから遊園地は山下と堤もついてきてくれよお」
ジロー
「いいのか」
堤
「オレは仕事」
山下
松岡は目的がわからなくなってきた。
「なら頼む堤~」
「いいけどオレ彼女のこととっちゃうよ」ニヤニヤ言う堤。
「デブには無理だ」
山下は言った。
「うるせいな!つきそってやるよジロー」
「任せた」
ジローは言った。
「さてそろそろ帰るか?なんかナンパできた人いるし、とりあえず服買いいけよジロー」
松岡は言った。
「センパイお酒」
たくましい後輩達だ。
「ああそうだった。」
渋々松岡は歩き出した。
「あと焼き肉」
「奢らねーぞ、飲ませるからアルコールで我慢しろや」
松岡センパイの威厳は弱いよな~つくづく思った。
だか自分の頬の筋肉が緩むのを感じた。