現在(4)
ジローとユウコは街中を歩く
『ウハハハハハハ~
今、オレ様はミホちゃんと一緒に「テンカ」ってラーメン屋にいるぞ!ここのラーメンは旨い!おまえも来いよ。まあフットワークの重いジローには来れないけどな~ウハハハハ~
羨ましい?羨ましい?羨ましい?羨ましい?
グハハハハハハ』
根岸からのメールの文章はそこで終わり、ラーメン屋「テンカ」の店内と思われる写真がそのメールには添付されていた。ジローはため息をついた。何がしたいのかわからない…
そもそも根岸とミホちゃんのカップルはジロー達が入学当初から有名なカップルだった。よく笑う根岸、それを嬉しそうに眺めるミホちゃん…
不思議だ
そう考えると、ジローは焼き肉店の前から歩き出した。後から会計を済ましてきたユウコはお店の前から、小走りでポニーテールをなびかせながら、歩き出したジローの横に急いだ。手にはお店で貰ったキャンディが握られている。
「またメール?」
ユウコがジローに追いつくと訪ねた。
「まあね」
ジローはパタンと携帯を閉じた。スマートフォンに切り替える勇気がジローにはまだない。
「デザート美味しかったよ」
ユウコは笑顔だ。笑うとでるその八重歯にジローは弱い。
「どういたしまして」ジローも笑った。俺はバカなのかもしれない、ジローはジブンを少し疑ってみる。
答えなし…かな?
「ねぇ?」ユウコは言った。
「うん?」
ジロー
「松岡さんってどんな人だったの?」
ユウコは訪ねた。
「いい人だよ。俺に大切なこと教えてくれたんだ」
「ふ~ん。そうなんだ。なにを教えてもらったの?」
まるで子供が欲しいものをねだるような、そんな雰囲気でユウコは訪ねた。
「…う~ん難しいな~あえて言うなら『想像力』かな~?」
ジローは空をみてみる。雲はあるが空は青い。
「なにそれ~?」
ユウコがそう言った瞬間、ジローは目の前の駅前の広場で足を止めた。今も昔もと変わらない時計台といくつか並べられたベンチ、やんちゃに友と走り回った日々が浮かんできた。少しだけ時計台の土台がズレ傾いている。けジローは過去の地震の凄まじさに恐怖を覚える。
しかしその時計は時を刻み続けているようだ。それを確認するとジローはなんだか安心する。
変わったといえば駅に隣接する8階建てほどのデバートの壁に、巨大なスクリーンが備え付けられあり、テレビの情報番組を絶えず流し続けているぐらいだ。歩く人びとが時折、足を止め、そのスクリーンを眺めている。
「ねえ?あれ見て」
ユウコがジローの肩に手を掛け、頭上のスクリーンを指さした。心なしかユウコの顔は哀しそうだ。ジローはその指先の奥にある物を眺めた。
どこかのテレビ局のオフィスだろう。画面が激しく動いたと思うと、オフィスで働いていた人たちが一斉に机の下に隠れたり、その場に踏ん張ったりしている。本棚が倒れ、頭上から物が落ちる。様々な物が散乱した室内、画面が揺れの収まった室内を静かに映し出す。
東京の機能は一時的に麻痺し、帰宅できない人が路上で一夜をあかす
はっきりしない政府の対応
電力会社
ネットに飛び交う様々な情報
思わずフォローしてしまうような情報
呟かなくてもいいような情報
正しい情報
本物はどれ?
混乱
ジローはスクリーンに映し出された映像を見て当時の事が脳裏に浮かんでいくのがわかった。
スクリーンを見ずにその前をただ横切る人、足を止め携帯を開きチラッと頭上のスクリーンを見る人、思わず足を止める人、楽しそうに歩く人、どれも正しい、ジローは思う。ジブンもそうだ。時には忘れないとやっていけないこともあると思う。
いいわけかなのかな?ジローは考えた。
「ねえねえあれってさ?」
ユウコがジローの肩を叩いた。もう片方の手で指をさす。指をささない、なんて言おうかとジローは考えたが彼女の指先が指す方を見ると思考がそちらの方に傾いた。
「根岸?」
ジローは名前を呟いた。それを知ってか知らずか根岸はジロー達の方をみるとニヤリと笑い近づいてきた。できれば関わりたくない今は!ジローの心の叫びとは裏腹に、ズボンから垂れ下がった不快なチェーンをジャラジャラと鳴らしながら根岸がジローの元に近づいてきた。根岸に腕組みをしている ミホちゃんも一緒に…
先刻からのメールのせいか、妙に2人の存在をリアルに感じられジローは苦笑いをするしかなかった。指を指すポーズのまま一緒にいるユウコも苦笑いをするしかなかった。