現在(2)
飲食店でのジローとユウコ。
そして電話、
そして…
松岡が亡くなった?その言葉を聞いた後、静香は風の噂だけどね、そう念を押すと彼女は、
「2人とも仲良くね!お似合いよ」
そう言い残し、ジローとユウコの前から去っていった。
「……」
ジローは思わぬ不意打ち言葉が出ない。静香の一言はジローを黙らせるには十分だった。
「ジローくん?大丈夫」
ユウコがジローの顔を覗きこんだ。
「…ああ、ご飯どこいこうか?」
「大丈夫なの?」
「平気だよ」
ジローは言った。
「ご飯どこで食べようか?なんか俺ガッツリ食べたいなあ~」
「…そうだね~お腹減ったね」
「ユウコちゃん…実は焼き肉食べたいんだけど?臭いうつるかもしれないけどいい?」
ジローは控えめに言った。
「フフ、いいよ行こう」
ユウコは微笑んだ。2人は歩き出した。
焼き肉か…松岡さんが好きだった。焼き肉といえば堤、なんとなくだが、お店の席で待ちながらジローは彼に電話をかけてみた。ユウコは向かいでチョコンとおとなしく待っている。
『もしもし~』
ダルそうな声が聞こえてきた。
「おう!今ナニしてんだ」
『杏子の家だ』
「そうか」
杏子はジローと同じサークルで、堤の彼女。ショートカットのまあなんと言うか胸が大きい、そしてそれを武器にしているのか、確信犯なのか、それを強調した格好をいつもしている。いつもジローは出会うとドキリとしてしまう。
『なんだ?どこ遊びにでも行くか?』
堤が少し期待を込めた声で言った。
「いやちょっと聞きたいことがあってな」
『なんだよ急に~杏子は俺の彼女だよ』
堤は言う。
「いや別にそれはいいんだけどさ…」
電話の音の後ろから、何々?と杏子の声がした。
『ああ』
「松岡さんって今どうしてるんだ?」
『はあ?何行ってんだよ』
呆れた感じで堤が行った。
「いやさ、今ユウコと焼き肉屋にいるんだけど、そしたら松岡さんのこと思い出してさ~どうしてるっけ?」
ユウコが箸と皿を自分の前に置いてくれた。ジローはすまないという仕草をする。
『う~んそういわれれば…大手の企業に就職したんじゃないかな確か?』
堤ははっきりとは答えられない。
「そうか?亡くなったってことはありえる?」
恐る恐る聞いてみる。
『そうなのか?!』
堤が動揺した。
「だよなあ~驚くよな~気にするな噂だ」
『なんなんだよ~一体~…うわっ?』
堤の声がそこで途切れた。
『もしもしジロー君かしら?』
杏子の声だ。
「あれ?杏子」
『そうよ。松岡さんのことだけど…』
威勢の良い声だ。
「うん」
『確か海外に留学したのよ。親のコネ使って』
「そうなのか?」
『噂だけどね』
噂か…またか、ジローは思った。
『コラ!オッパイを触らない。まずは痩せなさい』
杏子が叫ぶとゴスっと言う音がした。多分、悪さをしようとした堤を携帯で殴ったのだろう。イチャイチャしたいよお~
と嘆く堤の声が電話口で聞こえた。ジローは苦笑してしまい、運ばれてきた肉を焼き始めたユウコの胸元を見てしまう。
「い、いやなんでも」
ジローは目を反らした。
「視線がいやらしいんですけど?」
ユウコは可愛らしい笑顔だが刺すような目でジローをみた。
「な、なんでもないよ」
『どうしたの?』
杏子の心配そうな声がした。まったく男って奴は!…ああ、俺も男かとジローは思う。
「いやこっちの話。じゃあ堤に早くまた痩せろって言っといて」
『ふふわかった。じゃあね』
電話は切れた。
「どうだった?」
ユウコ
「あんまりわからなかった。みんな勝手に想像してる。風の噂は怖いなあ」
ジローは噛みしめるように言った。
「そう。焼けたよ」
そういうとトングでジローの皿に肉を盛りつけてくれた。
「お?サンキュ!……旨いなやっぱり~うんコレ、カルビ?」
「上カルビ。ジロー君の奢りね」
ユウコは笑顔で言った。八重歯が覗く。
「お金ないよ~」
ジローはお手上げだ。
「嘘だよ。頼んだのアタシだから奢る。この前たくさん働いたから今月バイト代多めなんだ」
ユウコはパスタ屋で店員のアルバイトをしている。あそこではいろいろあったとジローは思った。
「ゴチになります」
ジローは目の前で手を合わせた。
しばらくすると再びジローの携帯がなった。メールだ。開いてみる。
『ウハハハハハハハ』
書き出しはやはりこうだ。根岸だ。ジローはため息がでた。
『ウハハハハハハ~グハハハハハハハ~
俺様は今、駅前でミホちゃんと歩いてるぞ~手を繋いで~ラブラブさあ~
ウハハハハハハハハ
羨ましい?羨ましい?羨ましい?
』
そしてメールにはやはり写真が添付されていた。駅前の噴水の前でポーズを取る根岸と、文面からさっするに、ミホちゃんが写っていた。
「わざわざだれかにとって貰ったのか?」
ジローはメールを見ながら、思わず声にでてしまう。
「どうしたの?バイト?」
ユウコが心配そうに言った。
「いやなんでもないデザートは俺が奢るよ」
「あら!嬉しい」
ユウコが笑った。