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3年前(1)

 三年前、お酒の席



「…どうすれば口下手が治りますか?」




松岡まつおかは目の前の後輩の質問に困惑した。ザワザワとするこの居酒屋でも通る声での質問だ。松岡のジョッキビールを飲む手が止まる。テーブルを挟んで反対側に座る後輩の真剣な質問に答えが見つからず、彼は視線で助けを求めた。



「どうすれば上手く話せますか?」



いかにも垢抜けない風貌の坊主頭の高橋伸治郎タカハシシンジロウはさらに語尾を強めた。ジローと仲間からは言われているらしい。松岡はジョッキをテーブルに置くと、ジローの隣に座る彼の友人、ツツミに視線で助けを求めた。ポッチャリとしたその体格は痛々しい。



「……」

 堤は皮から剥いたばかりの枝豆をムシャムシャと食べながら試合のレフリーのように事の経緯を見守っている。


「先輩、ジローにアドバイスお願いします」

堤は言った。

そんな堤の態度に松岡は舌打ちをしたくなった。



「…どうすれば女の子と仲良くなれますか?」

視線を反らさず、後輩は続けた。


……ああ~そういうことね、松岡は、最後の質問に彼の疑問、いや願望のすべてが詰まっている気がしてならなかった。所詮は大学一年生だ。

 無意識に、自分の後ろの方で酔いつぶれ眠っている自分のカノジョの方を見た。最近、うまくいかず、会う度に喧嘩ばかりの日々だ。松岡は浮気ぐせのある自分の責任なのは自覚している。 そして、そのカノジョになぜか肩を貸しながら眠っているのはやはりジローの友人、山下ヤマシタだった。後輩の割にはしっかり者だ。その彼も酔いつぶれ壁に押しつけられ眠っている。細身の山下には肩をかす行為は苦痛に見える。 彼が苦悶の顔を浮かべてはいるが、松岡もなんだかそっちに加わりたくて仕方がなかった。というより、それは俺の仕事だ。松岡は思った。



「深く考えない方がいいと思うよ。そういうのってある程度は、自然と身につくものだとおもうから…」

松岡は後輩の方へ体を向き直すと言った。在り来たりなアドバイスに自分でも呆れてしまう。



「なるほどお…」


ジローはなんともマジメな顔で首を振った。一語一語噛みしめるように。松岡は今、自分のしゃべる言葉は、彼の将来に絶大な影響を与えているような…そんな気がしてならない。



「う~…そうだ!…聞き上手、目指そうぜ!」


松岡は重い空気を跳ね返そうと陽気に言ってみる。恥ずかしい…


枝豆を食べる堤が、明後日の方向を向きながら、堤が鼻で笑ったのがわかった。松岡はイラッとするのを堪える。あとで飲ませて酔い潰す!松岡は密かに後輩討伐の決意を固める。お酒には強いのだ。




「僕、聞き上手だからそこは問題ないと思います」

真剣な返事か返ってきた。



「…ああそうですか…」


松岡はそう言うしかなかった。攻守のバランスが悪いのか?そう聞きたかった。


「うまく話せません。特に女性と…でも僕、聞き上手だからコツさえ掴めばできると思うんです」

真剣な眼差しが松岡を見る。そんな目で見るなよ…




「じゃあさ、実践で鍛えない。今からワタシと話しましょう」

静香しずかが会話に割り込んできた。松岡と同学年で、気配りができる笑顔が素敵な女性、そう松岡は認識している。さっきまで違うテーブルでお酒を飲んでいたが、話す話題もつきて、こちらにきたのだろう。



「おお、シズちゃん。頼むよ~どうだい?高橋くん、慣れだよ慣れ!」

松岡は光明が見えた。

「いいっすよ」

ジローは静香の方に向き直った。


松岡と堤は2人を見守った。


「…じゃあさ、気楽に話しましょうよ。出身はどこなの?」

静香


「千葉です。静香先輩はどこ出身なんですか?」

ジロー


「東京よ。東京っていっても都会からは離れてるげとね」



「でもいいですね。東京スカイツリーとか気軽に行けるじゃないですか?」



「まあね…」

静香は笑顔だ


言うほど喋れないわけじゃないようだ、松岡は2人をみる。



「あの先輩?」

ジローは言った。


「うん?なに?」

静香は素っ頓狂な声をだす。

 松岡もジローが何か言いたそうなのがわかった。なんとなくだか彼の動く口元に目がいった。




…す




す?


松岡は口を窄めた。




「好きです。僕のカノジョになってください」




「はい?」

静香は言った。


「はい?」

松岡が言った。



「告白?」

堤は言った。




静香は静かになった。

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