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ハレの日のハプニング

作者: ルーバラン

 きょ、今日こそは、彼にアタックするんだから!

 桜が満開なこの季節、あたしは十字路の交差点で、彼が通り過ぎるのを待っていた。私の高校の王子様、大野陽介さん。

 すらりとした体、180cmの高い身長、気品あふれる顔立ち、きりりとした眉、それでいて笑った時の横顔はとてもさわやかで……はぁ、思い出しただけでもため息が出ちゃう。

 頭もよくて、運動神経もよくて……ああ、テニスをしているときの陽介さんはまるで蝶が羽ばたいているよう……かっこいい。

 今までは遠くで見ているだけだったけど、話をしたい、もっとお近づきになりたい。そんな気持ちがむくむくと膨らんできてしまった。

 

 彼とお近づきになるにはどんな方法があるか一生懸命考えた……引っ込み思案なあたしが思いつくことができたのは、たまたま交差点でぶつかっちゃったりして、そこから登校を一緒にするって事だけ。


「あまりに平凡すぎる思いつきだけど……」


 漫画ではよく見かける、ありふれた方法だけど、それくらいしか思いつかなかった。学校の中で話しかけるなんてこと、あたしには無理だ。

 準備は万端だ……必ず陽介さんは土曜日の朝6時頃のこの時間帯に、テニスの部活に行くためにこの道を通るということは、友達から聞いて知っている。格好も自然な雰囲気を醸し出さないと。パンを口にくわえ、リボンはあえてだらしなく締めて、ボタンも1個外して、慌てている雰囲気を出す。そんな風な格好をしておけば、きっとあたしがわざとぶつかりに行ったなんてこと、気づきもしないだろう。

 そのまま、カバンの中に準備していたあたしの手作りの桜餅を出して、一緒に食べちゃったり、『この桜餅を食べながら、花見でもしませんか?』なーんて、なーんて!

 はぁ……楽しい想像がどんどん膨らんでくる。

 そろそろ陽介さんがこの交差点を通る頃……ちらりと交差点の角から顔を出して頭を見ると、学生服を着た陽介さんがテニスバッグを抱えながらこちらに歩いてきているのが見えた。


「……いよいよ、一世一代の大勝負よ。頑張れ、さくら、まけるな、さくら。女は度胸よ」


 あたしは自分の名前を誰にも聞こえないような小さな声でぼそぼそとつぶやきながら、自分自身を勇気づけた。徐々に陽介さんがこちらに向かって歩いてくるのを感じる……。


 よしっ、今だ!


「ち、ち、ちこくちこくー! きゃっ!」


 そう叫びながら、タイミングを見計らってあたしは飛び出した。


「わっ!? ふぎゃっ!?」


 どしん、交差点を通ろうとした人影にアタックをかけた。よろめきながら、そのまま2人そろって道路倒れこむ。


「ご、ご、ごめんなさい! あ、あのあたし! 二宮さくらって言います! 一緒に桜餅食べませんか!?」


 あたしは彼にたおれこんで起き上がらない格好のまま、適当なことばかりを言ってしまった。

 ……な、何言ってるんだあたしは!? ぶつかっていきなり桜餅とか!?


「いつつつ、だ、誰だよ突然……交差点で突然飛び出してくるんじゃねえよ」


 ……あ、あれ? 陽介さんの声ってこんなに野太かったかな? 何か変なような……。

 慌てて体を起こしてぶつかった人を見る。あれ? 陽介さんに比べたら、背もなんだか小さいような……顔も角ばっているような……ずんぐりむっくりのげじげじ眉毛……ぎょろりと大きな目玉……服装も学生服じゃなくてお店屋さんの板前さんみたいな格好のような……。

 どこからどうみても陽介さんじゃない。


「誰ですかあなた!?」


「俺のセリフだよ!? お前こそ誰だよ!?」


「あたしの陽介さんをどこにやった!?」


「俺は大吾だよ!? 意味が分からないよ!?」


 こ、こんなわけのわからない人にかまっている場合じゃない! よ、陽介さんはどこに行った!?

 きょろきょろと左右を見てみると、すでに陽介さんは交差点を通り過ぎていた。そのままちらちらとあたしともう一人の事を、危ない人を見るかのような目で、ちらちらと見ている。


「ち、ちが……こ、これは何かの……」


 違う! 言いたかったけど、声がかすれてしまって、陽介さんのところまでは届かなかった。

 ゆ、夢であって……間違えただけなの! ぶつかるつもりだったのはこの人じゃないの! あなたなの!

 そんな事を思いながら、すがるように陽介さんを見ていたけれど、こちらを見るのをやめた後は陽介さんは足早に立ち去ってしまった。


「終わった……なにもかも終わった……さよなら、あたしの初恋」


「さよならじゃねえよ! なんなんだよあんたは!?」


 先ほど間違えてぶつかってしまった大吾と名乗った男の人がなにかぎゃーぎゃーと怒鳴ってきた。

 ……なによあんた、振られる前に終わってしまったあたしの恋心の事を少しくらい考えてよ。うちひしがれて落ち込んでるんだから、話しかけないでよ。


「ええと、クーラーボックスクーラーボックス……って、ああああ!? さ、さかながあ!?」


 ……何叫んでんのよ。魚ごときで女々しい。

 あたしは立ち上がって、スカートについてしまったほこりをはたいて落とした。倒れたときに吹っ飛んでしまったカバンも拾って……はぁ、今日はもう何もする気にならない……家に帰ろうかな。


「おい、ちょっと待てい!」


 そのまま家に帰ろうと歩き出そうと思ったその時、先ほどの男の人が話しかけてきた。

 めんどくさいなあと思いながらも振り返って男の人を見ると、手に魚を抱えて鬼の形相であたしの事をにらみつけている。


「お前! この鯛どうしてくれんだよ!」


 ……何を言っているんだろう? はぁ、落ち込んでるのにからまれて、まさに泣きっ面に蜂って感じ。


「鯛だよ鯛! あああ、今日のメイン料理だってのに! 道路に削られて傷だらけになっちまって」


 ……鯛? へぇ、これが鯛なんだあ。

 大吾と名乗る男の人がなぜ怒っているのかわからず、あたしはただぼけっと鯛を見つめていた。


「今日、俺の親友の結婚式なんだよ!」


「それはめで『たい』」


「ふざけてんじゃねえ! そうだよめでたいんだよ! だからこそ、盛大に祝ってやろうと思って、一番いい鯛を買ってきたってのに。この時期の鯛って言うのは産卵期で脂も乗っててめちゃくちゃうまい鯛なんだ! 春の祝い事にはこれ、というほど縁起物の鯛で、この時期の鯛を特別に桜鯛って言うんだよ! そんな縁起のいい鯛だってのに、こんなに傷だらけじゃ逆に縁起悪いじゃねえか!」


 ……あれ? も、もしかしてあたしは今、かなりまずいことをしてしまったんじゃ……。

 確かにところどころに道路にひきずって傷がついている感じがする。素人のあたしが見ても気づくくらいなんだからよっぽどだと思う。ようやくあたしはすこしずつ悪いことをしてしまった気持ちが芽生えてきていた。


「あああ、どうすんだよ。……今から市場に戻っても、もういい鯛は置いてないだろうし。メイン料理がない結婚式の料理なんて……くそっ、あきらとまこにうまいもんを食わせてやろうと思ってたのに……」


 えっと……えっと、あ、あたしのせいだよねこれ。ど、どうにかしないと。

 今からあたしが代わりの鯛を……ってそんなのあたしどの鯛がいいかなんて知らないし、魚の良し悪しの見分け方なんてわかりっこない。


「ご、ごめんなさい……」


 何も思いつかなくってただ頭を落として謝った。

 ひとしきり怒鳴って、はぁはぁと息していた大吾さんは、少し落ち着いたみたいで、いくらか声の調子が柔らかになって返事をした。


「あ、ああ……いいよ。俺も見ず知らずのあんたについカッとしちゃったよ。制服って事は高校生だろ? 大の大人が高校生に怒鳴ったりしたらいかんよな、悪かった。それより、何か代わりの物を考えないと……鯛の代わりかあ、なにがあっかなあ」


「あ、あたしも一緒に考えます!」


「ん? いいや、別にいいよ。気持ちだけ受け取っとく。ありがとな」


 そう言って、クーラーボックスを抱え立ち去ろうとする大吾さんという男の人。

 そんな訳にはいかない。もとはと言えばあたしがぶつかっていったせいだ。慌ててあたしは離されないように大吾さんの後ろをついていく。

 後ろに付いてきてるのに気付いているのかいないのか、大吾さんは後ろを歩いているあたしの事は気にもせず、『ううん』とか『あああ』とうめいている。

 桜鯛に変わるものを考えるってとっても大変なんだ……。


「だ、大吾さん。今どこに向かっているんですか?」


 ただただ後ろをついてくのも気まずくなって、あたしは大吾さんに声をかけた。

 大吾さんは後ろをちらっと振り返ってあたしの事を見た後、また前を向いてあたしの質問に答えた。


「その親友の披露宴が行われるホテルだよ。他の食材は全部ホテルに届いてるし、厨房に立ってから、料理を考えるのもありかなと思って。……しかし、メインの食材だけはどうしても俺が選びたいって言って、市場に買いに行ったんだけど……まさかこうなるとはなあ。っていうかお前、別についてこなくてもいいぞ」


 『はぁ』と大きなため息をついて、大吾さんはとぼとぼと歩く……あたし、ものすごく悪いことをしてしまった。大吾さんという人、とても落ち込んでいる。けど、鯛のかわりなんて、何がいいんだろう? 大吾さんの寂しそうな背中を見ると、どうにかお手伝いできないか考えるのだけど……やっぱりだめ、全然思いつかない。





 結局何も思いつかないまま、披露宴の会場までついてしまった。

 大吾さんはエプロンをつけて、黙々と準備を開始している。けれど、やっぱりその顔はどこか暗い顔をしたままだ。大吾さんも桜鯛に変わるメイン料理が思いついてないみたい。

 何かあたしも手伝おうと思ったけれど、大吾さんの手際の良さに何も手を出せなくなってしまった。

 駄目だ、このままじゃあたし、足手まといのままだ。なんでもいいから桜鯛に変わるものを考えて、大吾さんに元気になってもらわないと。落ち込ませた原因を作ったのはあたしなんだから。

 桜鯛に変わる、何かヒントになるものでもいいから、もしかしたら何かがあたしのカバンの中に入っているかもと、あたしは何かないかとごそごそとカバンの中を探りはじめた。

 ヘアピン、ゴム、ストラップ、手鏡に櫛……その他小物グッズが盛りだくさん。駄目だ、こんなもの料理には全く関係ない。全部役に立たない。

 さらに何かないかとカバンの奥の方の物に手を伸ばした。


「あっ、大吾さん大吾さん! 桜鯛に変わるものとして、これはどうですか!?」


 たまたまカバンの奥に入っていたものを取り出して、大吾さんに見せる。


「んあ、突然声を出したりしてなんなんだ? ……生徒手帳みたいだが、それがどうかしたのか?」


「学校名をよく見てください!」


「……『桜台高等学校』」


「桜台、さくらだい、桜鯛! どうですか!? 桜台中学校の生徒手帳もあります!」


「あほか! それでどうしろっていうんだ!」


 ……やっぱりだめかな。実は桜第一小学校の生徒手帳も持ってたりするんだけど。


「それじゃ次はこれでどうです!?」


 そう言ってあたしは手帳をしまい、新たに別の物を出した。


「……なんだそれ」


「タイツです!」


「そんなん出してどうするよ」


「桜色のタイツです! 『桜色のタイツ』『桜タイツ』『桜タイッ』」


「どっかいけよ!? 邪魔するなら帰れ! ってかなんでそんなん持ってんだよ」


 今日の花見で何か陽介さんに色仕掛け出来ないかと……と、今は陽介さんの事より、大吾さんの事を考えないと。


「こうなったら、あたし……脱ぐしか」


「意味が分からないよ!」


「あたしの名前、さくらって言うんです! 『さくらの裸体』。さくらたい!」


「もう出てけー!」


 そう怒鳴られて、厨房から追い出されてしまった。

 もう一度中に入ろうとしたけれど、内側から鍵を掛けられてしまったようで、押しても引いても全くびくともしない。

 諦めて近くにあったソファに腰を下ろす。色々なものを出したカバンの中には、花見の時に食べれたらいいなと思っていた桜餅が4つ、ぽつねんとさびしそうに入っている。


「はぁ……あたしってば、何やってるんだろ……」


 怒られて当然だ。せっかくのハレの日、大吾さんが親友の為に精いっぱいのもてなしをしようとしたのを台無しにして。フォローしようとして一生懸命考えたのに、思いつくのはオヤジかと思うようなギャグのような内容ばかり。結局大吾さんを元気づけるどころか逆に怒らせちゃって……何もかもが空回りして、悪いほう悪いほうに向かってる感じがする。

 なんだか、陽介さんにぶつかろうとしたことが、遠い昔の事みたい……。

 ぽろぽろと自分の目から涙が零れ落ちてきた。駄目だ、悪いのは自分なんだ、自分なんかが泣く資格ないんだ、泣いてちゃだめだ。そう思えば思うほど、逆に涙がどんどんとあふれてきてしまう。


「おいおい、まこ! そんなに急ぐと、せっかくのドレスが崩れちゃうぞ。そんなにあわてなくても、時間は逃げてかないって!」


「なによー! 時間は逃げていくのよ! こんな大事な時間、一分一秒も無駄にしちゃもったいないじゃない! あきらも早く早く!」


 ……誰だろう。涙をぬぐって、ふと目を上げると、スーツ姿の男性と、ウェディングドレス姿の女性の姿が目に入った。

 あ、そう言えば、あきらさんとまこさんって、今日大吾さんが言ってた結婚式の2人だ。あたしのおちこんだ気分とは違って、すごくうれしそうにしてて……大吾さんも、きっとすっごいお祝いをしたかったよね、腕によりをかけたお祝いにしたかったんだよね。

 そう思うと、また目に涙がたまってきた。駄目駄目、せっかくのハレの日に泣き顔なんて、新郎新婦さんに見せちゃいけない。


「……ねえ、あなた。どうかしたの?」


 顔を伏せて、泣き顔を見せないようにしていたら、まこさんと呼ばれていた新婦さんが声をかけてきた。

 目を上げると、まこさんの顔が目の前にあった。とてもきれいな顔、そしてとても優しそうな顔……きっと今のあたしの顔とは大違い。


「ごめんね、突然話しかけたりして。でも何か悲しい顔をしてたから」


「おいおいまこ。一分一秒も惜しいとか言ってなかったか――っていってえ!? そんなハイヒールで足踏むなよ!?」


「空気の読めないあきらが悪い」


 ……いいな。ほんとに幸せそうで。


「あ、あたしになんて構わないでください……大吾さんにたくさん迷惑かけて……2人のお祝い台無しにしちゃって」


「なんの事? あなた、大吾の知り合いなの? 別に時間なんてたくさんあるんだから、のんびり話してみてよ。私たちの友達が原因で泣いてるなんて聞いたら気になってしょうがないじゃない」


 ……そんな風に笑いながら話しかけてくれる新婦さんを見ていると、あたしはだんだんとこみあげてきてしまった。初めて会う人に自分の馬鹿なことを話すなんて普段だったら考えられないけど、新婦さんの笑顔を見ていると、この時はなんだかすべてを正直に話してしまいたくなった。


「ご、ごめんなさい!」


 一言目が出ると、せきを切ったように話し続けた。しゃくりあげながら、私は今日あったことをすべて新郎新婦の2人に告白した。

 陽介さんにぶつかろうとして間違えて大吾さんにぶつかってしまったこと。

 大吾さんにぶつかった拍子に、鯛がクーラーボックスから飛び出して傷だらけになってしまったこと。

 大吾さんを手伝おうとして生徒手帳とタイツを出して、追い出されたこと。

 カバンの中に残った桜餅を見てたら悲しくなって、ソファに座って泣いてたこと。

 2人は黙りながら、きっと早く披露宴に向かいたいって気持ちもあると思うのに、じっと聞いてくれてた。


「ほんとにごめんなさい! あたしがバカなことしたばっかりに」


 全部話した後に、あたしは深々と頭を下げた。

 怒声や罵りが飛んでくることを覚悟しながら、びくびくと頭を下げて待っていた。

 けれど、とんできたのは冷たい怒声なんかじゃなくて、ぽんぽんとやさしく頭を撫でられる、あたたかな人の手だった。

 おそるおそる、頭を上げてみると、にこやかに笑っている新郎のあきらさんと新婦のまこさんがいた。


「……怒らないんですか?」


「いやいや、こんなうれしい日なのに、そんな事で怒ってちゃもったいないだろ? むしろ見ず知らずの人のはずの結婚式に、そんなに一生懸命考えてくれたさくらちゃんにありがとって感じかな」


 ……絶対怒られると思ってた。俺たちの結婚式を台無しにしやがって! そうののしられるのは覚悟してたのに。


「桜色のタイツも、桜台中学校の生徒手帳も、よかったら俺たちにくれないか? 引き出物って事で。あ、ちょっと厚かましいかもしれないけど、お祝いって事でさくらちゃんが作った桜餅も食べれたらうれしいかも」


 あ、はい。と言いながらあたしは生徒手帳とタイツを手渡した。

 い、いいのかな? 結婚式にこんな変なもの渡しちゃって。


「バカ、引き出物は私たちが送るものでしょ。もらうものは違う言葉」


「あ、そうだったそうだった。もらう側だったらご祝儀でいいのかな? それよりそうと、なあお前、今度、この桜色のタイツはかないか?」


「このバーカ!」


 あははっと笑いながら、あたしの失敗を全く起ころうとしない新郎新婦の2人。

 ……よかった、2人ともきっとメインの料理が駄目になったって聞いてさびしいに違いないのに、そんなことをおくびにも出さない。


「と、いう訳で実は聞こえてるだろ大吾? もうこのお嬢さんを許してやりなよ。そんな事で怒ってないで、もっと俺たちを祝ってほしいな」


「……」


 ガチャリと厨房のドアが開いた。気まずそうに、ぶすっとした顔をして大吾さんが立っている。


「俺はただ……」


「分かってる分かってる。大吾の気持ちなんてよーく分かってるって。ありがとなー大吾」


「……」


 あきらさんの一言で、大吾さんは耳を書きながらそっぽを向いた。まだあたしの事怒ってるのかなとびくびくしてたけど、『あれは照れてる様子だよ』ってまこさんがこそっと耳打ちして教えてくれた。『余計なこと言うな』って大吾さんがボソッとつぶやいてるのが聞こえたけど、その声は確かにさっきまで見たいな怒った成分は含まれてないみたいだった。


「大吾、そんなぶすっとするなって。メインの料理の代わりに、さくらちゃんが作った桜餅がある」


 どういうつながりがあるんだよ……そういう目で大吾さんがあきらさんを見てる。

 うん……あたしの桜餅と大吾さんが作ろうとしてた桜鯛の料理なんて比べられるはずもない、あたしの料理の腕前なんてそんなすごい物じゃないし、食べてもらうのはすごくうれしいけど、食べてがっかりしたりしないかな。


「桜餅だって十分縁起物だぞ。という訳でさくらちゃん、さっそくいただきまーす」


 そう言ってあきらさんがあたしの手元にあった桜餅をぱくっと口に頬張った。

 「うんっ! うまい!」そう言って喜んでくれるあきらさんを見て、ホッとした気分になる。


「……けど、メイン料理の桜鯛がないっていうのはなあ」


「いやいや、何言ってるんだよ大吾。桜鯛もちゃんとあるぞ」


 あきらさんの答えに、どこにだよ、とぼそっと大吾さんがつぶやいた。

 そう、桜鯛はあたしが駄目にしてしまった。桜鯛なんてどこにあるんだろう。


「さくらちゃんと大吾。2人が合わされば、ほら、さくらだい! おお、お似合いお似合い!」


 その言葉を聞いた瞬間、あたしは盛大にこけてしまった。その発想あたしと同レベルですよ!


「お前もかよ!? そう言うギャグもういいから!」 


「いやあ、俺としては、さくらちゃんと大吾って結構お似合いだと思うけどなあ。大吾にはこういう年下が似合うって。それに何より一途だし。大吾も自営業やってると出会いがないだろ? どんな出会いでも出会いは出会い。間違えられただけでも、いいじゃないか。そんな出会いも大事にしなくちゃだめだぞー。桜鯛が結んだ、新たな出会いってね」


 なんなんですか、いいこと言ったつもりですかあきらさん!?


「俺28! 高校生に手を出すとか犯罪だから!」


「そ、そうですよ! あたしまだ16ですよ! 大吾さんみたいな大人の方とはきっと釣り合わないですよ!」


「だいじょぶだいじょぶ。大吾奥手だから、付き合ったことないぞ。恋愛成績は中学生並。十分釣り合うって」


 何が大丈夫か意味不明ですあきらさん! あたしと大吾さんは一生懸命抵抗してたけど、いつのまにやらあたしの携帯電話には大吾さんの電話番号とメールアドレスが。



 ……間違いだらけで、失敗だらけな1日だったけど、結婚式もみんな笑顔で終わったし、大吾さんとも仲直りできたし……終わりよければすべてよし、間違えてぶつかったことも、今日が終わって振り返ればいい思い出。

 この後、あたし、さくらと大吾さんが付き合うことになるかどうか、それはまた、これからのあたしたち次第、かなっ!


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