第一章 初めての旅。そして海⑨
俺のそんな予想は外れ、夕方になってもリルムは戻ってこなかった。
クライスとクーナは探しに行っているが、それでも見つからないらしい。
当の俺はと言うと、キサラギに気を使って、ビーチで彼女と一緒にいた。
「キサラギ。悪いな。せっかく遊んでたのに」
「いや。それよりもお前は探しに行かなくていいのか?」
「だけど………」
「私のことなど放っておけばいい。変に気を使うな」
「ああ………」
キサラギはそういうと俺の元を離れていく。
「今日は結構楽しかった」
そう言って彼女は帰って行った。
ここは彼女の心遣いに甘えるとしよう。
その背中を見送った後、俺はリルムを探しに飛び出していた。
クライスは街のほうを探してくれている。クーナは彼女が戻ってきたときのために
ホテルで待機している。
俺は人が少なくなった砂浜を探していた。
昼間の陽光が嘘の様に辺りは暗くなっている。
人が居なくなるにつれて、海岸は静かになっていた。
「まったく、どこにいるんだよ!?」
俺は走る。なんでこんなに本気で走っているのかは自分でも分からなかった。
――――某時刻、砂浜にて
「あ~あ。なんで所にいるんだろう………」
私は岩場でひとり座っていた。こんなことなければ
今頃は美味しいご飯を食べている頃なのに。
ロイちゃんとサラちゃんが仲良くしていて、その姿を見ていると
なんだか我慢できなくなって。
「なんでサラちゃんにあんなことしちゃったんだろ」
私は彼女とも仲良くなりたかったはずなのに。
今頃みんな何をしているんだろう?
ご飯を食べているのだろうか?
「もう、戻っちゃおうかな………」
でも、彼にはなんて言えばいいんだろう?
サラちゃんもあんなことしてきっと怒っているだろうし。
「私。考えろ。きっといい案が浮かぶはずだ」
頭を悩ますが、この状況を自然に打破できる案は浮かばなかった。
俺は岩場を探していると、
一人なにかを呟いている声を聞いた。
この声はまさか………
「おい!」
「ひゃっ!?」
そこにいた桃髪はびっくりした様子で振り向く。
「ろ、ロイちゃん!」
「探したぞ、まったく」
俺はリルムのいる岩場へと、飛び移り、隣へと腰を降ろした。
「あの、ロイちゃん………」
彼女の言葉が出る前に、俺は言った。
「帰るぞ、二人とも心配してるぜ」
「う、うん――――クシュン………」
クシャミ。それもそうだろう夏とは言えど海風により気温は低い。
水着一枚じゃ寒いに決まっている。
「そんな恰好でいたら風邪ひくぞ」
俺は羽織っていた上着を彼女へとかける。
その時に触れた彼女の肩は冷たかった。
「あったかい………」
リルムは上着を抱きしめるように着る。その仕草を見て
俺は不意に可愛いと思ってしまった。認めたくはないが…………
「じゃあ、行くぞ」
俺は先に岩から浜へと飛び移ると、彼女へ向って手を差し伸べた。
リルムはその手を取り、立ち上がろうとした。
だが濡れた足場にサンダルを取られ彼女の身体はバランスを崩す。
「危ない!!」
俺は彼女の手を咄嗟に引き、自分の背中で砂浜へと着地する。
「いててて………」
「ごめん。足滑っちゃった」
「ああ………」
それはいいのだが今の状態がまずい。
俺はリルムに乗られた状態なのだ。
抱きつかれることは慣れっこだが、水着という薄着でのこの密着度はヤバい。
彼女の生に近い感触が………って、俺。そんなことを考えちゃダメだ。
俺の理性が崩壊する前にリルムはガバッと身体を離した。
彼女が離れた後でも俺の心臓はドキドキしっぱなしである。
「ロイちゃん。本当にごめんね」
「いや、いいって…………」
ヤバい。恥ずかしすぎて彼女の顔を見れない。俺は自分の感情を
押し殺すように後ろを向く。
「ほら帰るぞ」
「あっ、待って」
俺は足早に宿を目指した。
その後ろからリルムが追ってくると思うと気が気ではなかった。