第一章 初めての旅。そして海⑧
海の家でお昼を食べる。
う~む、海の家で食べる焼きソバはなぜこんなにウマいのだろうか?
俺の席の正面の彼女は先ほどから一言もしゃべらないで食事を進めている。
「なあ、キサラギってどこのクラスなんだ?」
「B組」
「何か趣味あるのか?」
「別に」
先ほどから、こんな感じで会話のキャッチボールが続かない。
俺がボールを投げても彼女はそのボールを地面に叩きつけている感じだ。
「えっと、じゃあ………」
「私、食事は静かに食べる主義なの」
「あっ、はい。すみません」
俺は黙って食事を進めることにした。だが彼女は分かってない。
このメンバーで静かに食事をすることなど無理なのだ!
「サラちゃ~ん!!」
「なんだ?」
背中から飛びつかれても彼女は冷静だった。
「サラちゃ~ん。おしゃべりしようよ~」
「断る」
「じゃあ、わたしから質問ね」
「おい、耳でも悪いのか? それとも頭か?」
「え~っ? いつも私のほうが成績良いのに」
「むっ………」
リルムさん、それ地雷ですよ。
俺はそんなことを思いながらテーブルを移し、食事を進めた。
思った通り背後のテーブルからは喧騒が聞こえてきた。
そんな騒ぎを気にせずに俺は食事を頂く。
それにしても海の家で食べる焼きソバはなぜこんなに――――
食事を終え、休憩を終えると、午後の時間が始まる。
キサラギをメンバーに加え、午前の引き続きビーチバレーをすることにした。
「じゃあ、コインでチーム分けを……」
「ちょっと待った」
キサラギは俺の言葉を止める。
「私、リルムとはチーム組む気はないから」
う~む、先ほどのやり取りで完全にヘソを曲げてしまったみたいだ。
「しょうがないな」
俺はそのこと配慮しながら、チームを分ける。
その結果、俺とキサラギが組むことになり、相手はリルムとクライスだ。
ちなみにクーナはお休み兼審判。
さて、先ほど手も足も出なかった秀才チーム相手にどう戦うか………
なんせキサラギの能力は未知数だ。
「おい、どう攻める?」
俺はキサラギへと声をかける。
「リルムの息の根を止める」
「ああ、わかった」
とりあえず相槌を打っておく。
物騒な言葉が聞こえたのは、俺の勘違いだろう。
「いくよ~!!」
リルムがサーブ権を持ち、試合が始まる。
「どりゃあああああ!!」
気合の入ったサーブはキサラギへと飛んでいく。
鋭いボールにもかかわらず彼女は身体全身を使いうまくトスを上げる。
俺はそれをキサラギのほうへとまた上げる。
「ふっ!!
」
キサラギは飛翔する。その姿はまるでトビウオ………
俺が見とれているうちに、彼女は相手コートへとボールを叩き込む。
リルムは反応できずに失点を許してしまう。
「キサラギ。ナイススパイク」
「ああ、ロイもいいトスだったぞ」
それからも俺たちは華麗なるコンビネーションを決め、得点を重ねていく。
点を取るたびにハイタッチする俺らを見てリルムは徐々に機嫌を悪くしていった。
「も~。なんでそんなに楽しそうなのロイちゃん!!」
リルムが爆発し、試合が中断する。
「いや、そりゃ勝ててりゃ楽しいだろ」
「もう、そういうことじゃな~い!!」
リルムの怒りに疑問を覚えながら、俺たちはビーチバレーを続行した。
そしてゲームセット。
みごと勝利した俺たちはシートでくつろいでいた。敗者の2人は買出しだ。
「キサラギ、結構やるなぁ」
「あなたこそ」
その勝利はいつのまにか俺たちの溝を埋めてくれていた。
やはりスポーツはいいものだ。
「はいジュース。買ってきた」
「おっ、サンキュー」
俺らはそのジュースを受け取る。しかし………
「リルム。これは喧嘩を売ってるのか?」
キサラギに渡されたのは、「おしるこ」であった。それも熱々の。
「おい、リルム。負けて機嫌が悪いからって――」
「ふん」
彼女は明らかにおかしい。いつものリルムらしくない。
だけど、そんな彼女より、キサラギの機嫌を損ねたくない。
その程度のいたずらでリルムを嫌ってほしくないのだ。
「キサラギ。俺のと交換するよ」
「いいのか?」
「ああ、おしるこ飲みたいって思ってたんだ」
俺がカップを交換すると、リルムは急に立ち上がって叫んだ。
「もう、なんでそんなに優しくするのよ!!」
「おいっ!?」
リルムはそんな言葉を残し、砂浜を駆けていく。
あっけに取られて俺は動けなくなってしまった。
「お兄ちゃん。追わなくていいの?」
クーナは心配そうな目で俺のことを見てくる。
「あいつもガキじゃないんだ。そのうち帰ってくるだろう」
今はヘソを曲げてるだけ。
時間が経てば、また、うるさいぐらいの元気を取り戻すだろう。