第一章 初めての旅。そして海⑦
岩場まで来ると、嫌がる彼女の手を離してやった。
「なんで止めた!!」
「おいおい、助けてやったのに、そんなに怒らなくても」
怒りを露にする彼女をなだめる。
「助ける? あんな男たち――」
「知ってる? 殺傷目的で攻撃魔法を放つと犯罪になるんだぜ」
「…………」
「あんな目立つ場所で魔法を放っていたら今頃、警察のお世話になってるぜ」
彼女は俺が諭すと急に静かになった。
「悪かった………」
彼女はボソッと反省の言葉を口にした。
「だが、私のために殴られるなんて――」
「まあ、そこは気にするなよ」
俺は持っていたジュースを飲む。
「ほら。飲めよ」
俺は手に抱えていたコーラを彼女に渡す。ちなみにクライスのだ。
彼女は恐る恐る、コップを受け取り、それを口にした。
「それよりさ、なんであんな男たちに絡まれたの?」
俺は興味本位に彼女にそんな質問をする。
「ナンパされたの。うるさかったから」
「誰かと一緒じゃないのか? 彼氏とか?」
「女ひとりで海に来ちゃだめなの?」
「いや、そうじゃないけど……」
こんな美女が海に一人でいたらそりゃ、ナンパもされるだろう。
「ありがとうね。私、そろそろ行くから」
彼女は岩からピョンと飛び降り、砂地へと降り立った。
だが彼女ひとりにすれば先ほどと同じ状況に陥りそうで心配だ。
やっぱり俺って心配症なのか?
「おい。折角だから一緒に遊んでかないか?」
俺の言葉に彼女は立ち止る。
「それってナンパ?」
「いや、そうじゃないけど、また一人でいると男に絡まれるぞ。
さっきの男たちもまだ居るだろうし」
俺の顔を彼女はじっと見てくる。
美形少女ということでつい目線をそらしてしまう俺。
「借りを作るのも嫌だし……いいわ」
それでも彼女はあっさりとオーケーを出してくれた。
俺は彼女を連れて仲間のもとに戻る。
「ロイちゃん! 遅過ぎだよ!」
シートに近づくや否や、リルムが怒声をあげてくる。
「悪い、悪い」
「で、ジュースは?」
リルムは手をこちらに出して、飲み物をねだってきた。
「あっ、悪い。途中で地面にぶちまけた」
「ロイちゃ~ん!」
彼女は拳をグーにして怒りのオーラを身体に纏わせる。
「あれ? お兄ちゃん。後ろの人は?」
クーナはキョトンとして俺の後ろを覗きこんだ。
「ああ、ひと騒動あってな――――」
「もしかしてナンパしてて遅れたの?」
クライスは俺にそんな質問を投げかける。
「ロイちゃ~ん……私というモノがいるというのにぃ」
クライスの言葉が起爆剤となりリルムはさらにヒートアップ。
「そんなんじゃないって……」
リルムをなだめながら、後ろの彼女の方を見た。
彼女は少し困った顔をして、立ち尽くしている。
「ねえ、私、本当に居てもいいの?」
彼女はそんな俺の様子を気遣ったのか、そんなことを聞いてきた。
「ああ、こんなのいつものことだし――」
「というか、よく見れば、サラちゃんじゃん」
リルムは彼女に近づくと、そんなセリフを言う。
なんでリルムが彼女のことを知っているんだ?
「騒がしい奴だと思ったらリルム・ウォースカイ、君か」
俺は向かい合う2人を交互に見る。嬉しそうにするリルムに対して、
サラと呼ばれる少女は厄介そうな顔をする。
俺はそんな二人を見て、クライスに耳打ちをした。
「おい、クライス。彼女ってもしかして」
「うん、僕らと同学年のサラ・キサラギさんだよ」
「リルムと仲悪そうだけど………」
「うん。キサラギさん。学年でいつも2位だから……」
そんな因縁が。
もしかして俺はとんでもない人を連れてきてしまったのでは……
「というか、お兄ちゃん。相手が誰とも分からずに連れてきちゃったの?」
「まあ、そういうことになるな…………」
確かにちょっと軽率だったかもしれない。
「あー、じゃあ改めて自己紹介するわ。俺はロイ。魔法学校の4年生だ」
「ロイ――――? ああ、リルムの彼氏さんね」
「ぶっ!?」
俺は思わず、吹いてしまう。
「いや、ただの幼馴染なんだけど…………」
「そうなの?」
彼女はニコニコするリルムの方を向く。
「ちなみにそこのクライスとも」
クライスの方を指さす。
「へぇ。それは初耳だわ」
「言ってなかったからね」
クライスはニコニコしながらいつもの調子で言う。
「というか2人とも知り合い?」
クライスの口調からそんな感じがする。
「ええ。少しね」
サラは静かにそう言う。
2人の様子からして仲はそんなに悪くなさそうだ。
「私はロイの妹のクーナです。魔法学校1年です」
最後にクーナがそう言って自己紹介をする。
「それじゃあ、自己紹介も終わったところで――」
「ちょっと待った~!!」
俺の言葉をリルムが遮る。
「私の紹介が終わってないよ!!」
リルムは不服そうな顔をして俺を睨みつける。
「知り合いなんだから自己紹介も何もいらないんじゃ?」
「ダメ~!!」
俺の静止は全く意味がないようだ。この際好きにさせてやるか………
「リルムです。魔法学校4年、好きな食べ物はロイちゃんの作ったハンバーグです。
それから――」
「じゃあ、長くなりそうだし、飯にでもしようぜ」
俺は海の家の方へと向かって歩いて行く。
「そうね」
サラもそれに続く。
「ああ、でもカレーも捨てがたいなぁ……」
「クーナちゃん。僕らも行こうか」
「そうですね。あっ、シート畳まないと」
「僕も手伝うよ」
リルムのことを差し置いて、俺たちはそれぞれ行動を開始していった。