第三章 混迷? 美男美女コンテスト⑮
校舎裏に俺は歩いて行く。その足取りはなんだか軽快だ。
まるで彼女に会うのを楽しみにしているかのように……
だが、ふと思った。
リルムは校舎裏なんかに用があるのだろうかと。
ただでさえ騒がしい事好きな彼女にとって、
人気のない校舎裏なんて無縁な所なはずだ。
そのことだけが、俺の頭の中に引っかかっていた。
特別教室棟の角を曲がると、すぐにリルムのことを発見できた。
しかし、彼女は一人ではなかった。
こっちから顔は見えないが男と一緒にいる。
男の方は真剣にリルムへと何かを言っているようだ。
遠目でよくは分からないが、リルムは少し困った表情をしているようにも見える。
ここでピンときた。校舎裏で男と女が二人っきり。
そして今日のコンテスト――――
それはまさしく告白というものであった。
その事実を知った時、俺の頭の中には何か煮え切らないような黒い感情が渦巻いた。
(――って、何を焦っているんだ!? リルムが誰に告白されようと自由じゃないか!)
俺は冷静に居ようと頭を鎮静させるが、
拳は固く握られ、その男のことを校舎の影から睨みつけている。
男は彼女へ向って頭を下げる――――
(リルム……どうするんだ!?)
俺は乗り出しそうになる気持ちを抑えながら、見守る。
リルムは男に向かって頭を下げる――――
男は彼女の言動を見て、その場から立ち去る。
その背中からは敗北の色が滲み出ている気がした。
どうやら、リルムは断ったらしい。
男の背中を見るとなんだか罪悪感でいっぱいになる。
なんで自分がこんな気持ちになるのかは分からないけど。
そして、俺はリルムがこっちを向いていることに気が付く。
「ロイちゃん……だよね?」
リルムは躊躇なく俺の方へと近付いてきた。どうやら覗いていたことがバレていたらしい。
「ご、ごめん。覗くつもりじゃ――――」
俺は素直に頭を下げる。偶然とはいえ告白のシーンを見てしまったのだ。
彼女は快く思ってないはずだ。
「ううん。いいの。私もごめんね。変なとこ見せちゃって」
「いや……それよりも断ったのか?」
俺はそう聞いてみる。
「うん」
彼女の短い返事を聞いて、俺はホッとしてしまう。
「コンテストが終わるとね。いつもこうなんだよ」
彼女はまるでいつものことのように、ハハハと笑った。
「そうなんだ……」
リルムは人気者だ。彼女が告白されたという噂はよく聞く。
なのになんで俺は今更こんなに焦っているのだろうか?
「ロイちゃんもコンテストに出たんだから、告白されるかもね」
「えっ……いや、それはないと思うけど――――」
何となく歯切れが悪い答えを出してしまう。
俺が告白されることを彼女はどうも思わないのだろうか?
「えっと……それで、何か用かな?」
「あー、特には無いんだけど……会いたいなって思って……な」
「フフ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。ロイちゃんの癖に」
彼女は指先で俺の鼻を小突いてくる。
「な、なんだよ!! せっかく来たのに!!」
「ごめん、ごめん――――さぁ、食堂にでも行こう!!」
彼女はいつもの調子で元気良く振舞っている。だが告白を見てしまったせいか
俺の中にはいままで感じたことのない感情の波が押し寄せていた。