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第三章 混迷? 美男美女コンテスト⑪

教室内には誰もいない。

いや、曇りガラスでできた衝立(ついたて)の向こうに誰かが居るらしい。


「えっと、手紙もらってきたんだけど…………」


少し照れくさそうにしながら、俺はそんな言葉を発する。

内心、死にそうなぐらいドキドキしていた。


そしてその人物は俺の前へとゆっくり姿を現した。


「えっ…………」


俺は、ふとそんな間抜けな声を漏らしてしまう。

純白のドレスに身を包んだその女性に目を取られてしまったのだ。


「ごめんね、急に呼び出したりして」

「あ、ああ…………」


言葉が出なかった。


そうか、そうだよな。

クーナがあんな手紙を他人から渡してくれって頼まれたら、もっと慌てているはずだ…………

すべては俺の勘違いで――――


でもそんなことはどうでもいい。

彼女の姿を見てしまうと、そう思えた。


「ロイちゃん…………そんなに見つめられると恥ずかしいかも……」

「あ、ああ……」


そう言いながらも俺はリルムの姿を見つめてしまう。

純白のウェディングドレスを纏った彼女は女神のようであった。

その顔は化粧でもしているか、いつもより格段に美しく見える。


「えっとね……最初に見てほしかったの。ロイちゃんに……」

「えっ……?」

「え、えっと! 変な意味じゃなくて、その―― あっ、あれ!

 ロイちゃん、いつも私を馬鹿にするから、悔しがらせてやろうと思って!」


彼女は継ぎ足したように言葉を棒読みする。


「そ、そうか……」


俺も人のことを言えないほど不自然な声が出ている。


「で――――えっと……」

「あっ――――似合ってる。うん。すげえ可愛い――――ぞ…………」


彼女が感想を求めてきたことに気が付いて、聞かれる前に俺は慌てて答える。


「ほ、本当に!?」

「あ、ああ……ホントウだ……」


なんだろうこの円滑に進まない会話は…………

いつも通りでいいのに…………いつも通りで…………


「ええっと、ありがと……」


彼女は本気で恥ずかしがっているように見える。

俺の褒め言葉を聞き耳まで紅く染めている。

でも俺の顔も同じぐらい紅いのではないだろうか?

顔、いや身体全体が熱い。頭で考え事をしていないと何をするかも分からない。


「ロイちゃん、ちょっと来て」


彼女は手招きするように俺を呼ぶ。

俺はギクシャクと足を動かし、彼女へと一歩一歩近づく。

そして手が届く距離まで迫る。


いつもならば、どうってことない距離なのに、

この距離でどうしても足が止まってしまった。


(何、緊張してんだ!? リルムだぞ。目の前にいるのは――――)



リルムはそこから一歩、近づく。


「お、おい、リルム!?」


彼女は俺の制止も聞かずに身体を接着してくる。


「わ、私、なんか変……この服のせいかな……?

 どうしてもロイちゃんとこうしたくなって――――」


リルムは俺の腰に手を回してくる。

意識しないでも女の子特有の身体の柔らかさを自分の胸で味わってしまう。


どうにかなりそうだ。本当に――――

この心臓の音は自分のなのか、彼女のなのか――?


「リルムっ――やばいって…………」


俺は自制が聞かなくなることを恐れ、彼女を引き離そうとした。

しかしその手に力は入らない。むしろ彼女の腰に手を回していることに気が付いた。


「ロイちゃん――――」


彼女は上目使いで俺のほうを見る。目が離せない。

まるで彼女の瞳の奥の引力に引き寄せられるかのように……

そして彼女は目を瞑る。その仕草に俺の心臓は一段と高鳴る。



この状況――――鈍い俺でも分かる。


こ、ここ、これは―― キスしろってことだよな!? な!?

って誰に聞いてるんだ!?


俺は半ば暴走しながら、リルムの表情を確認する。

彼女は待ち切れないかのように身体を小さく震わせている。




俺は覚悟を決め――――彼女に顔を近づけた。


俺の顔が近づいた気配を感じ取り、リルムはいっそう身体を震わせた。

そんな彼女を見てしまうと罪悪感の念がこみ上げてしまう。


いいのだろうか? 本当にしても?


だけど、この状況でこの感情を抑えられるほどの男ではなかった。


あと数ミリ…………紅色の境界線(くちびる)が近づく――――





――ドンドンっ!!


――ドキッ!!


俺はその音に一瞬で彼女から飛びのける。

彼女も同じようだ。俺の身体を半ば押し飛ばすように後ろへと下がった。


「リルムさん。そろそろお時間です」

「っ!! はいっ!!」


いつもよりワントーン高い声でリルムは返事をする。



廊下にはその声が聞こえたようで、また室内には沈黙が広がる。

だけど先ほどのムードと一変し、その静けさは気まずさを増大するだけだ。


俺はリルムに何か声を掛けようとしたが何も見つからなかった。

彼女もモジモジして俺の顔を見ることすらしない。


「えっと……行かなくていいのか?」

「あっ、そうだね……」


歯切れの悪い挨拶を言い残して、俺とリルムは別れた。

正直、キスできなかったのは残念だ。


残念だがどこかホッとしている自分がいる。

あそこでリルムとしてしまえば、

自分の抱いている感情を抑えることが出来そうもなかったから。


リルムは幼馴染としてイイヤツだ。今の関係でも十分に楽しい。

だからこれ以上のことは望まなくてもいいのだ…………と。


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