第三章 混迷? 美男美女コンテスト⑩
席に戻ってみると、そこにはクライスの姿がなかった。
「あれ? クライスは?」
「ああ、クライス先輩はファンの方に見つかってしまいまして――――」
「ああ、ご愁傷様」
二人で苦笑してしまう。
コンテストに出たとなればそのぐらいの誘拐劇があってもおかしくない。
基本誰でも拒まないやつだし。
「で、お兄ちゃんは誰かから、迫られたりしなかったの?」
クーナは目を煌かせて俺の顔を見る。
「いや、残念ながらないな」
「そっか…………落ち込まないでね、お兄ちゃん!!」
「べ、別に落ち込んでなんてないし!!」
うん。そうだ、落ち込んでない。
落ち込んでなんか…………
「そんなお兄ちゃんにお手紙です」
クーナは一通の便箋を俺に手渡した。
そのピンク色に思わずドキリとする。
ま、まさか…………これはラヴレターというものでは……!?
いや、まさか、ないよな……
「ん? どうしたの? 席なんて立ち上がっちゃって?」
「いや、トイレ。ハハハ…………トイレさ」
俺はそれを理由に席を立つ。
だがそんなの建前でしかない。
この場ではニヤニヤしてしまうこと間違いなしだ。
そんな顔を大衆に晒したくない。
「んー? じゃあ私もそろそろ行くね。友達の応援しなきゃ」
「おう」
クーナに手を振りながら、俺はトイレへとダッシュするのであった。
個室に入るや否や、便箋の封を丁寧に開ける。
そこには一通の手紙が入っていた。
「昼休み1-C教室で待ってます」
手紙にはそうとだけ書いてあった。
差出人の名前すら書いてない。
「イタズラじゃないだろうな…………?」
少し警戒しながらも俺の脚は教室に向かおうとしていた。
1年教室はコンテストの準備のために厳戒態勢が敷かれていた。
なんでも毎年コンテスト出場者の女子を覗こうとする輩が出没するらしい。
そのために実行委員会は各学年の生え抜き部隊を結成するらしい。
というか男子は芋煮のように詰められたひとつの教室で着替えたのに、女子はこの待遇――――
「なんなんだろうな…………この差は?」
ともかく俺は教室へと向かう。一つの教室の前を通過するたびに警備の視線が痛い…………
俺ってそんなに危ない人に見えるのか!?
少し傷ついたかも…………
そしてやっと1-C教室についにたどり着く。
「えっと…………ここに呼び出しされたんだけど…………」
「少し待っていてください」
警備についていたイカツイ――――失礼、強そうな女子の一人が中へと入っていく。
もう一人は俺をすごい形相で睨んでくる。
怖いから早くこの場を離れたい…………そんなことを思ってしまう…………
数十秒後、教室から彼女が出てくる。
「入室する際のボディチェックをさせてもらいますが、よろしいでしょうか?」
「あっ、はい…………」
カメラなどがないか確認された後で
やっと俺は教室へと入ることが許可された。