第一章 初めての旅。そして海③
腹が満たされたところで俺たちはホテルへと戻った。
そして食後に清潔なシーツのフカフカベッドで寝る。
はぁ――これを至福と言わずになんと言うのだろうか。
「どりゃああああああああ!!」
突然、ベッドに寝ていた俺にリルムがフライングタックルを仕掛けてくる。
「うわああああああああ!!」
それを紙一重で避け、俺は部屋の床へと転がる。
「て、敵襲!?」
クライスはガバッとベッドのほうを振り向く。
「なんだ。リルか。脅かさないでよ」
彼が何を敵と思っているのかは知らないが。
「おい、リルムいきなりなんだ!?」
俺は床から起き上がると、リルムのほうを睨む。
「フフフ。フライングタックル → トランプ の流れだよ」
「いや、前者はいらないだろ」
「んなことはないのだよ。それに背中がお留守なのではないのかね?」
後ろから殺気を感じる……これはまさか……!?
「おりゃああああああああ!!」
「ぐはあああああ!!」
背中からの衝撃に耐えられず、俺の身体は吹き飛ぶ。
「あははは。リルムは囮で本命はクーちゃんでした」
「てへ♪」
「いや、テヘ♪ じゃないから」
背中に張り付いたままのクーナに睨みを利かせる。
「あれ? お兄ちゃん……怒っちゃった?」
「当たり前だ!! 後ろからタックルされて平然としていられるか!!」
「ご、ごめんんさい……」
クーナは少し泣きそうな目で俺を見てくる。
「いや…………分かればいいよ」
慌てて、クーナの頭を撫で、なだめる。
「まったく、クーちゃんには甘いんだから……
せっかく私が奥義を伝授したのに……」
「お前は後で百叩きな」
「ね~。クライスちゃん。この差、酷いと思いません?」
「さあ、僕にはなんとも」
まったくトランプするのに、このやり取りは何なんだろう?
そしてトランプ大会が始まる。別名、リルムをやっつけろ大会だ。
ちなみにネーミングしたのはクライスだ。
断じて俺ではないことを言っておこう。
まずはババ抜き。リルム完全記憶能力を有しているから、ほとんどババを引かないのだ。
クライスはクライスでポーカーフェイスと巧みな戦術により、上位を譲らない。
残るは俺たち兄妹の骨肉の戦いだ。
「こっち……かな――やった!」
クーナは俺の手札からハートの3を引き抜き、歓喜する。
「くそっ……また負けた」
俺は3回連続ビリになってしまった。
「あはは。ロイちゃん、弱すぎ」
「くそぉ……見てろよ」
俺が負けすぎるということでゲームの内容を変えて勝負を挑む。
次は7並べ。ちなみにパス3でドボン。
「もう! クライスちゃん。10止めないでよ」
「リル、あと一回でアウトだよね?」
「うっ……パス……」
7並べに関してはクライスが断然たる勝利を収めるのであった。
さすが戦術ゲームのプロである。
次に選んだのはスピードだ。これは俺のチョイス。
「うあらららららららら!!」
さすがにこういう反射神経では負けれないので、俺が勝利を収める。
「ロイちゃん。女の子に本気出すなんてサイテーだよ」
「うるせ。俺、神経衰弱で0対52で負けたんだぞ!! このぐらい頑張らせろよ」
そう大人気ないとか言っている場合ではない。これは戦争なのだよ。
そしてクーナがチョイスしたのは………
「ロイちゃん、そーっと、だよ」
「話しかけるな。集中しているんだから……」
2枚のカードを集中して立てかける。
「ふう…… 2段目完成」
俺たちは部屋で黙々とトランプタワーを建設していた。
制限時間内に高く立てたほうが勝ちだ。
俺はリルムとチームを組み、隣のチームの様子を観察しながら試合を進めていた。
「クーナちゃん。慎重にね」
「はい」
クーナは丁寧だがスピードが遅い。
ふふふ、この勝負はもらった!!
その勝利への焦りが俺の手元を狂わせた。
「あっ」
一番上に乗せたトランプがバランスを崩し、瞬く間に夢の塔は陥落してしまった。
「ロイちゃ~ん!!」
「ふっ、トランプが崩れても俺たちの友情は崩れないさ」
「んなわけあるか!!」
バキィ、という音と頬に衝撃が走る。
「いきなり、グーないだろ、せめてパーで……」
「うるさ~い!!」
仲間割れを始める俺たちを尻目にクーナはトランプを着々と積み重ねていった。
「ふう、なんだかんだあったけど。楽しかったぁ」
リルムとクーナは満足そうな笑みを浮かべ、部屋へと戻っていく。
「じゃあな、明日、寝坊するなよ」
「お兄ちゃんじゃないんだから、そんなことしません」
クーナの声が廊下に響く。まったく手厳しい……