第三章 混迷? 美男美女コンテスト⑦
服装が決まらないまま、コンテストが近づき、
俺は少々焦りを感じ始めていた。
嫌々参加の俺だが、
適当なことをしてイベントを盛り下げるほど空気が読めない男ではない。
なので今日もひとり、服屋へと買い物に来ていた。
だがその行動が意外な人物と俺とを会わせることになる。
「あれ? キサラギ」
服屋の中で出会った彼女につい声を掛けてしまう。
「ロイか。なんだ?」
彼女は一瞬手を止めたものの、そのまま服選びを続行している。
「キサラギは何しているんだ?」
「服屋に服を買いに来る以外に用途はあるのか?」
うむ…………彼女らしい答えだ。
彼女は大人の女性が着るような服を手に取り、吟味する。
リルムは可愛い系の服装がメインなので
「うん。いいかも」
と、独り言が飛び出してしまうほどだ。
「ん?」
「いや、なんでもない」
彼女は俺の態度を怪しみながらも、服の物色を続ける。
その手つきは慣れている。
どうやら彼女は着ることに関しては人並みの興味を持っているようだ。
そこで俺の脳裏にはあるアイディアが思いついてしまった。
「なあ、キサラギ。頼みがあるんだけど…………」
「断る」
「おいおい、まだ何も言ってないんだけど…………」
「その顔を見れば、いいことを考えてないってわかるから」
「そんなことないって!!」
俺は大げさなリアクションを取って彼女の気を引いてみせる。
「俺さぁ、コンテストに出ることになっちゃったんだよ」
「知ってる。まさか出れるとは思ってなかったけど」
「うるさいな…………俺も好きで参加したわけではないぞ!!」
「物好きもいるものだな」
一言一言のダメージがでかい。
だが、ここで引き下がるわけには行かない――――
「でさ、着る服が決まらないんだけど――――
キサラギってそういうの得意そうだろ?俺の服を選んでくれないか?」
ダメ元で俺は頭を下げてみる。
彼女は少し考える素振りを見せると、
「少し高くなるかもしれないけど大丈夫か?」
そう俺へと言葉を掛けた。
ここまですんなりと行くとは思っていなかったので少し驚いてしまったが、
すぐに我を取り戻し、俺は肯定の返事をするのであった。