第三章 混迷? 美男美女コンテスト⑤
リルムが中心となり、歩くので、
俺の服はなかなか選んでもらえなかった。
日が落ちてきて、女子生徒がいなくなったころにやっと俺のターンが回ってきた。
「じゃあ、ロイちゃんお待たせ」
リルムは男性専門店に俺を押し込む。
気力がもう底を尽きた俺は黙って、店の中へと入った。
リルムは片っ端から、俺に試着をさせる。
彼女のセンスは確かで、リルムズチョイスは確かに的を得ている。
カジュアルなものから、マニアックなものまで、
まるで着せ替え人形のように次々と、服を着せられた。
しかし、結局は決まらず、タイムオーバー。
必然的に服選びは、後日ということになった。
「ごめんね。付き合わせたのに決められなくて」
「ああ、いいよ。別に」
リルムと俺は二人っきりで帰り道を歩いている。
「ロイちゃん、疲れてる?」
彼女は俺の顔を覗き込みながら、そんなことを零す。
「ああ、振り回されたからな…………」
「買い物楽しくなかった?」
「いや、楽しかったけど…………」
そんな寂しそうな顔で質問するのは、
卑怯だ…………
ノーとは言えなくなるじゃないか。
「そか。よかった!!」
俺の答えを聞いて、リルムは笑顔になった。
こんなふうに表情をコロコロ変えるのがリルムの可愛いところでもある。
「あれ~?いま、私のこと可愛いと思ったでしょ?」
こういう所がなければ、もっとかわいいのだが。
「あのね、ロイちゃん」
「ん?」
「コンテストで一位取ったら、何か、お願い聞いてくれる?」
「はぁ? なんで?」
彼女の唐突な質問に俺は驚いてしまう。
「ほ、ほら。目標があったほうがやる気が出るかな~。なんて…………」
「う~ん…………」
何をお願いされるのかは怖いが、彼女のヤル気をへし折るのも悪い。
「お願いの内容にもよるかな」
「じゃあ――――」
彼女は、立ち止まり、少し俯く。
そんな仕草に俺もなんとなしに構えてしまう。
「キス――――」
「えっ!?」
「あっ!? いやいや、今のなんでもない!!」
「ああ?」
彼女が何を言ったのかは分からないが、リルムの顔は真っ赤だ。
「どうした?」
「え、ええっと、ああ、そう。また買い物付き合って!!」
「そんなことで良いのか?」
小さな望みに拍子抜けしてしまう。
「あっ、えっと…………」
彼女はさっきよりも俯いてしまう。
いつも、はっきり言うリルムがこんな態度を取るのは珍しい。
「じゃあ、デート一回ってことでどうだ?」
俺はこんなことを何故口走ったのかは分からない。
ノリと言えばそれまでなのだが…………
短期間でデートネタでのお礼を言う、俺はなんなんだろう?
飢えているのか? 自問自答する。
「えっ!? ええええええ!?」
だが、思いのほかリルムは激しいリアクションを見せてくれる。
「えっと、それじゃ、ご褒美にならないか?」
ブンブンと彼女は顔を横に振る。
そんな態度を見ていると、
半ば冗談で言った言葉なのに俺まで恥ずかしくなってしまう。
「や、約束だよ?」
「あ、ああ…………」
しまった…………
かなり変な空気になってしまっている。
軽々しく言葉を使ってしまった罪悪感を抱えながら、
俺は帰路へと付いていった。