第三章 混迷? 美男美女コンテスト④
その日の翌日から俺の周りに変化が現れたのだ。
休み時間になるたびに、ウチの教室へと生徒が集まってくる。
彼らの目的は明確だ。今年のコンテストに出る人物の視察だ。
リルムいわく、コンテストまでの1週間は歩く見世物になるらしい。
「いやぁ、気合い入りますなぁ!!」
リルムはその視線を心地よいと感じているのだろうが、
俺にとっては苦痛でしかない。
廊下を歩くたびに後ろ指を指されているようで…………
「クライスはよく耐えられるな………」
共に視線を受けながら、俺たちは廊下を歩く。
「まあ4回目だからね」
苦笑するクライス。
「でも、僕よりみんな、ロイのことを見てるんだと思うよ」
「そうなのか?」
確かに、俺のことを見ているような気がする。
それを知ったとたん、さっきの倍以上の緊張感を感じる。
ああ…………聞かなければよかったと後悔する俺であった。
気疲れをし、教室に戻るとリルムが女子生徒に囲まれていた。
なかなか珍しい光景だ。
外野から彼女らの話を聞くと、今日の放課後一緒に買い物へ行く話らしい。
「あっ、ロイちゃんも買い物行く?」
俺の姿を見つけたリルムがそう言って来る。
「買い物? パスだな」
「え~」
彼女はブスくれた顔をする。
そんな仕草も可愛いのが恨めしい。
とにかく俺は疲れているのだ。
今日は部屋に篭って、気力を回復したい。
「だけどさ、コンテストに出るんだから、何を着るか考えたほうが良いんじゃない?」
「ああ、そうだな――――って服装とか決めなくちゃいけないのか!?」
「うん。そりゃあ、服装は大事だよ」
コンテストに出ることは決まっていたが、
ルールや、やり方は見ていなかった。
リルムに渡され、詳細の書いてある紙を見る。
服装自由で1分間のアピールとある…………
「ロイちゃん、服のセンスないんだから、誰かに見てもらったほうがいいんじゃない?」
「うっ…………」
リルムは痛いところを突いてくる。確かにセンスになんて自信がない。
「まあ、クライスにでも…………」
「あれで?」
クライスはリルムが集めたぐらい、周りに女子を集めている。
その光景はまるで人間マグネット。
どうやら彼と買い物に行くのは無理そうだ。
「どう、これでも買い物行きたくない?」
勝ち誇った笑みのリルム。
「一緒についていきます」
結局自分の負けを認め、俺は女子に囲まれながら駅前の服屋を歩き回っていた。
ハーレム状態で出歩けるのは嬉しいのだが。
問題がある…………
「ロイちゃん。次はこのランジェリーショップに入りま~す」
「いやいや、ここは男子禁制みたいな…………」
「ダメダメ、入るの!!」
周りの女子も恥ずかしがる、俺を玩具のように扱いやがる。
俺は逃げ場をなくし、強制的に入店させられるのだ。
こういう店に入ると女子はテンションアップする。
だが俺は目のやり場に苦労するだけではなく、
湧き上がる妄想と戦う運命が定められている。
「リルちゃん、こんなの似合うんじゃない?」
「きゃっ!? 黒の下着とか、せくしー!」
女子はリルムを中心に騒ぎ立てている。
「ほらほら、ロイちゃん。こんなの好き?」
ピンクのブラを手に持ち、リルムは俺に質問してくる。
笑顔で悪気がないだけ、性質が悪い…………
女子たちは俺の回答に耳を傾けてやがるし…………
「か、かわいいとおもうぞ」
「やった!!」
リルムはそれを持ち、試着室に駆け込む。
「ロイちゃんに一番に見せてあげる!!」
「おいっ!?」
「冗談だよ、じょーだん」
くそぅ、リルムの些細なジョークに反応してしまう自分の不甲斐なさが
腹立たしい。
「ふむふむ、ロイくんはピンクが好きか…………」
「ああ、今夜辺り、リルムちゃんとロイ君の熱い熱い…………」
周りの女子の視線を受けながら、俺は店の隅でただただ時間が過ぎるのを待つのであった。