第一章 初めての旅。そして海②
休憩を挟みながら、線路を歩き、俺たちは目的の駅へとたどり着いた。
ちなみに本来の時刻からは3時間以上の遅れである。
宿にチェックインした時には空は夕焼け色に染まっていた。
「あちゃ~。今日は泳げないね」
クライスはフロントにクーラーボックスを置くと、残念そうに言う。
「まあ、無事宿に着いたんですし」
クーナはそう言う。彼女も少し疲れた様子であった。
「え~!? 泳がないの!?」
疲れていない例外が一人。
リルムだけがこの時間の海に繰り出そうとしていたらしい。
それを残った力を振り絞って阻止する俺であった。
フロントで部屋の鍵を二つ受け取る。予約通り二人部屋を二つ分だ。
「じゃあ部屋は2つだから、俺とクライス、クーナとリルムで」
「ちょっと待った~!!」
俺の台詞を聞いた途端、リルムは異議を唱えてくる。
「なんで勝手に決めてるの!? 部屋割りは旅行の醍醐味でしょ」
この桃髪は何を言っているんだ!?
俺は首を傾げる。
「というか、その組み合わせはどう決めたの!? 10文字以内で答えなさい!!」
「男と女」
「あっ……そうよね。クーナちゃんいるもんね」
俺の答えでリルム容易く引き下がってしまうリルム。
「というかリルムのカテゴリーって女じゃないならなんなんだよ」
「さぁ?」
クライスはニコニコしながら、アハハと笑う。
クーナも困ったように苦笑していた。
ロビーでの立ち話を終え、俺たちは2階の部屋へと上がっていた。
部屋の中はベッド、クローゼット、バスが付いており、
デザインもシンプルで清潔感がある。
中でもバルコニーから見える海は最高であった。
「すげえ……水平線が見えるぞ」
クライスを呼び寄せて、一緒に夕日を眺める。
それは隣にいるのが男であることを差し引いても感動的な眺めであった。
「ロイ。いま酷いこと考えてなかった?」
「気のせいだ」
「わぁ……すごぉい!!」
隣から響いてきた声。振り向くと、そこには先ほどまで一緒だった2人の姿があった。
「お兄ちゃん。キレイだね」
クーナもリルムも大はしゃぎだ。
この夕日を見るだけでもこの旅行に来た意味があるといえよう。
夕日が完全に海の彼方へと沈むまで俺たちは黙ってそれを眺めていた。
「さってと。ご飯だね」
夕日が沈み、闇がやってくると共に、リルムは話題を飯に切り替えた。
もっと余韻を味わえと言いたかったが、敢えて言わなかった。
なぜなら俺も腹が減っていたから――――
食事は宿のすぐそばにある、小さなレストランで食べた。
海が近いということで俺たちの住んでいる地方では食べられないような食材がテーブルには並んだ。
クーナは魚介類のリゾット。リルムは海鮮カレー。俺は貝のパスタ。
そしてクライスは………
「お待たせしました。激辛ブラックイカスミパスタです」
それがテーブルに運ばれてきた瞬間に、
俺たちは食事をしていることも忘れ、その物体に見入ってしまった。
「ねえ、クライスちゃん……これ」
「うん。僕の大好物」
「ここまで来てそれを頼むのか……」
その運ばれたパスタは食堂で食べたものよりも
毒々しい黒色で凄まじい瘴気を放っているようだった。
「というか、メニューにも載ってなかった気がするんだが……」
「うん。ここのまかない飯で裏メニューらしいからね」
これを毎回まかなわれるここの店員って……
客の注文を受ける小柄なおねえさんを見る。
あの人もこれが好きなのかなぁ……
正直俺には理解できなかった。
「うん。さすが本場の味。おいしい」
クライスは引きつった顔の3人の前でパスタをきれいに平らげてしまった。
まあ、本人が美味しいといっているのだから、いいのだろうけど……