第二章 夏空と宿題⑨
「終わった~!!」
俺は宿題が済んだ、ノートを閉じ、机へと突っ伏した。
「えらい。えらい」
その頭をリルムは撫でてくる。
「いや~。リルム、ありがとうな。分かり易かったよ」
「ほんと!?」
「ああ」
「そっか~。苦労した甲斐があったよ」
俺はリルムの努力を知っていた。
勉強中に彼女の教科書を覗いたのだが、
そこにはアンダーラインや書き込みがしてあった。
彼女は教科書をそんな風には使わない。
すべては俺のためにしてくれたのだ。
「なんか、埋め合わせしないとな」
これだけ、教えてもらったのだ。何か一つぐらいしても罰は当たらないだろう。
「別にいいよ~。好きでやったんだし…………あっ!?
ロイちゃんのことが好きってことじゃなくて…………
いや、ロイちゃんが嫌いな訳でもなくって!!」
なんだかリルムは慌てているのだが?
「でもさ、何かしないと悪いって」
「そうかな~?」
う~ん。悩む。そこで俺は思いついたアイディアを咄嗟に口にしてみる。
「デート1回は?」
「ええええええええええええええ!?」
リルムは勢いよく、立ち上がり、奇声を発した。
「だ、ダメダメダメ!!」
赤面全力で拒否された。ちょっとショックだ。
「あっ、悪い悪い。冗談だよ」
「だ、だよねぇ………」
リルムは肩を落とし、席に着いた。なんだろう?
悪いことをしたのか?
「じゃあさ………」
落ち着きを取り戻したリルムは俺の目を見てこう言った。
「私に魔法を教えて!!」
それはつい最近聞いた台詞であった。
「あのな~。リルム、お前は魔法なんて十分――――」
「十分じゃないんだよ!!」
リルムは真剣に答える。
「この前、サージ・スレグスが来たとき、私は何の役にも立てなかったんだよ?」
「それはしかたないだろ?」
「でも、ロイちゃんがいなかったら、私も死んでたんだよ」
「リルム………」
「私も、力になりたいの」
リルムはいつにもなく真剣だった。この瞳に偽りの色は見えない。
こんな彼女を見たら、断るなんてことは絶対にできないだろう。
「わかった…………」
俺はそう答えるのであった。