第二章 夏空と宿題⑧
「いただきま~す」
食事の挨拶をした時、突然上のほうから足音がした。
「とぉ!! 真打登場だぁ~!!」
リルムが現れた。何が真打なのだか。
「おや、リルムちゃん。おはよう。食事食べておいき」
ばあちゃんは慣れた対応で、リルムをテーブルへと着かせる。
「どうも恐縮です」
リルムはそういって、遠慮なしに箸をおかずへと伸ばしていく。
コイツ、恐縮って言葉の意味知らないだろ…………
「ふふふ。いいの。いいの。リルムちゃんはそのうち家族になるんだから」
ばあちゃんは俺の顔を見てニヤニヤしてくる。
「ば、ばあちゃん!!」
その言葉に講義するように、俺は声をあげる。
「うん。そうだね。さっきのこともあるし」
クーナからもそんな一発をもらう。
はぁ…………
何でこんなことになってるんだろ。
ばあちゃん特性お手製スープを啜りながら、俺は心の中で嘆くのであった。
「じゃ、ロイちゃん。食後のお楽しみいっとく?」
「おやおや、お盛んだね」
「ば、ばあちゃん!!」
リルムの一言を聞いて、ばあちゃんは笑う。
「えっ? えっ?」
クーナはその意味をよく理解してないらしい。
「じゃあ、ロイちゃん借りて行きます」
俺はリルムに引っ張られ、階段を登っていった。
「じゃあ、座って」
俺は机へと座らされ、その隣にリルムが腰掛ける。
「リルム、これから何をするんだ?」
「そりゃあ、勉強でしょ」
なるほど、なるほど。
「俺、疲れたから今日は――――」
「ダメダメ!!」
リルムはベットに逃げようとする俺を捕まえ、椅子へと縛りつける。
これは強制イベントらしい。
まあ、今日は勉強していないんだし、つきあってやるか。
そう思い、俺はペンを取る。
いつもの勉強会、だが今回は何かが違った。
分かるのだ!! リルムの説明が。
「ここの公式はこういう場面で使うから――――」
リルムは今までとは対照的に易しい説明をしてくれる。
どう考えても俺のレベルに合わせて解説してくれている。
そのおかげで、俺の宿題は思った以上に、はかどった。
「ロイちゃん、痛い…………もっと優しく…………」
「このぐらいか?」
「あっ!! うん。すごく、気持ちいい…………」
「じゃあ、どんどん行くぞ」
「あぅ…………変な声出ちゃう……」
「…………あのな、リルム。誤解される言動はやめてくれ」
俺は、リルムの肩を手で揉みながら、言う。
「だって~。ロイちゃんのマッサージ、きもっちいいんだもん」
リルムは恍惚な表情で、部屋の一点を見つめている。
「たくっ………」
休憩時間に肩もみを要求してきたと思ったら、これだ…………
外で聞かれていたら誤解されるぞ。
「ロイちゃん。もっと~」
「ちょっと、飲み物取ってくる」
「あっ、そんな…………」
名残惜しそうなリルムの声を無視して、俺はドアに手をかける。
「きゃっ!?」
ドアの外に人がいたらしい。
「おっ、クーナか」
「わあああああ!? お、お兄ちゃん!?」
クーナはとても慌てた様子であった。
「わ、わわわたし、お菓子を運んできただけだから!!」
なるほど、その言葉通り、
クーナはトレイに乗ったカップとお菓子を持っている。
だけど、俺の部屋の前でなぜに座っているんだ?
「クーナ、顔赤いけど、熱でもあるのか?」
「だ、だっだいじょうぶ!!」
クーナはトレイを俺に押し付けると、顔を手で覆いながら、階段を下りていった。
「ロイちゃん、どうしたの?」
リルムは自分で肩を叩きながら、出てくる。
「いや、クーナの様子がおかしかった」
「ふ~ん。なんでだろう?」
「さあ」
その疑問を抱えたまま、俺たちは休憩時間は過ぎていった。