第二章 夏空と宿題⑤
学校へ着くと、俺はある場所へと向かった。
そこは校舎奥にある魔法訓練所。
その前にキサラギは居た。
「悪い、待ったか?」
「いや……… 何かあったのか? 顔色悪いぞ」
「ああ、少しな」
俺の様子を見てか、彼女はそれ以上質問してこなかった。
所内に入ると、キサラギは管理人の先生に許可証を見せる。
詳しいことは知らないのだが、
この施設は安全上のことを考慮して一部の生徒にしか解放されていないらしい。
魔法を自由に使える区域は少ないために、上級魔導師などを目指す人のためには
欠かせない場所だった。
ちなみに俺も許可証を持っている。
これはこの前の戦闘で特例として学校から発布されたものだった。
大方、師匠の差し金だろう。
有事のための鍛錬は、やっておけってことか。
所内は強力な防壁で覆われており、部屋毎に遮蔽されている。
その部屋の中にあるターゲットを狙い魔法を放つのが一般的な使用方法である。
「じゃあ、少し、実力を見せてくれ」
俺はイスに腰をかけ、彼女の実力を見ることにした。
「なんでもいいから魔法を使用してくれ」
「わかった」
彼女はターゲットを狙い、詠唱を始める。
そして、先にある魔法人形に向かい、火球が飛んでゆく。
これは以前、リルムも使ったことがある炎の中級魔法であった。
火球はみごとにターゲットに当たり魔法人形を粉々にする。
「おお、すごいな」
俺は驚く。まさか同学年に、ここまで魔法に長けた奴が2人もいるなんて。
「どうだ?」
彼女は感想を聞いているようだった。俺はそれに応える。
「少し、詠唱にブレがあるな。ターゲットに集中し過ぎなんだと思う」
俺は大まかなアドバイスを彼女へと言うと、
キサラギはそれをメモ帳のような物へと書いていく。
「で、俺は何を教えればいいんだ?」
俺は彼女へと質問する。
「攻撃魔法全般だ」
その答えに俺は正直、困惑した。
もしかしたら甘く考えていたのかもしれない。
補助魔法などを教わるりたいと、
勝手に想像していたのだ。
「あのなキサラギ。攻撃魔法なんて覚えても――――」
「教えてくれ!!」
彼女は本気らしい。その目にある物――――
これは何度も見たことがある。
「あのな、人を傷つけるために使うんだったら、絶対に教えられないぞ」
「………」
その言葉に彼女は沈黙してしまう。まさかのビンゴとは…………
彼女が瞳に秘めたもの。
それは復讐とか憎悪であった。
戦場で仲間を失ったものは、大抵、絶望か、悲しみか、憎悪をその身に宿す。
そんな人を何人も俺は見ている。
「何か事情があるなら、聞くぜ」
「ああ………」
彼女は口を割らない。
「まあ無理に聞こうなんて思ってないけどさ」
「どうしても駄目なのか?」
彼女は諦めきれていない様子だった。
「あのさ、俺はある人から魔法を教えてもらった。
けどそれは復讐のためじゃない。自分を守るためなんだ」
「復讐…………」
彼女はポツリとその言葉を呟く。
「だからさ、他人に不用意に教えることはできないんだよ」
「そうか………」
彼女は肩を落とす。余程、攻撃魔法を修得したい気持ちがあったんだろう。
俺はため息をつき、彼女へと一言こう言った。
「攻撃以外の魔法ならば教えてやるよ」
「…………本当か?」
「ああ」
彼女は少し考える素振りを見せ、
「お願いしていいか」
そう一言答えた。