第二章 夏空と宿題④
「ただいま~」
俺は約束を漕ぎつけた満足感を胸に家へと帰る。
だが何か忘れているような………
「ロイちゃ~ん!!」
「おにいちゃ~ん!!」
家に入った瞬間に俺はレディ二人の歓迎を受けた。
だが彼女らはご立腹の様子だ。
「何で逃げたの? 怒らないから言ってみなさい」
リルムさん、その笑顔がものすごい怖いのですが………
「お兄ちゃんが逃げたから、私がしごかれたんだから!!」
その後、俺は2人に挟まれ、説教をされるのであった。
夕食後、部屋で寝ていると、下からクーナが呼ぶ声が聞こえる。
「おに~ちゃ~ん!!電話~!!」
誰だろう?
俺の電話番号を知ってる奴なんてそうそういないはずだが………
「はい、もしもし。ロイです」
「あっ、ロイ。私」
私って言われても。俺は思い当たる節がない。
でもこの凛とした声は聞いたことがあるような………
「もしかしてPUBのおねーさん? 以前はお世話になりました――――」
「は? 何を言っているんだ? サラだ」
さら、サラ………
「あっ!! キサラギか」
「まったく、誰だと思ったんだか………」
「そうか、番号交換しといたもんな」
今日の出来事なんのに忘れる俺って…………
「こんな時間に悪いんだが、明日、さっそく教えてもらいたいのだが」
「いきなりだな」
「すまない…………でも」
「ああ、別に暇だし。大丈夫だよ」
電話越しで分からないが、彼女は彼女なりの何か理由があるのだろう。
約束をしてしまった手前、断るのも悪い。俺は快くオーケーをした。
「じゃあ、また明日」
そう言って、彼女は電話を切った。
「で、お兄ちゃん。どんな内容の話?」
後ろで気配がすると思ったら、クーナがそこには居た。
「おい。立ち聞きなんて良い趣味じゃないな」
「違うもん。スパイ活動だもん!!」
そう言って、クーナは地団太を踏む。
どちらも盗み聞きには変わりないと思うのだが。
「で、キサラギさんからだよね」
「ああ」
クーナはいつもに増して、言い寄ってくる。
「別に大したことじゃないよ。勉強教えてもらう約束しただけだ」
「えっ? リルムさんはいいの?」
クーナは少し、俺のことを睨んでくる。
「あいつといると、頭が付いて行かないんだよ………」
「それは分かるけど…………」
クーナは少し複雑な表情をする。
「お兄ちゃんって鈍感――――」
「えっ?」
彼女の言った言葉を聞き取れなかった。聞き返して見るがクーナは答えてくれず、
不機嫌にその場を後にした。
朝、家を出る。キサラギとの約束のために俺は学校へ向う。
だが、そんな俺の前に桃髪少女が飛び出してくる。
「おっ、リルム。おはよ」
「…………」
彼女はなんだか不機嫌だ。昨日のことまだ引きずってるのか?
「サラちゃんの所に行くの?」
何故リルムが知っているんだ…………スパイの仕業か。
「ああ、そうだけど」
俺の返事を聞き、リルムは俺の目の前まで近づいてくる。
「なんで!? 私でいいじゃない。勉強するなら」
なんでこんなに彼女は怒っているのだろうか?
「お前の教え方だと、悪いけど付いていけないんだよ」
「なんで!?」
なんでと言われても、分からないものは分からないのだ。
「私がこんなに教えようとしているのに…………」
「ああ、その気持ちはありがたい。でも理解できなかったら元も子もないだろ?」
「それは理解できない、ロイちゃんが悪いんじゃない!!」
その言葉に俺もヒートアップして行く。
「しょうがないだろ、俺だって理解したいさ。
ならもっと分かりやすくやってくれよ!!」
「なんで? 私の教え方は間違ってないんだよ!?」
俺たちの喧嘩は続いた。
「ロイちゃんは…………サラちゃんの方がいいんだよね?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ!!」
どうしてここでキサラギの名前が出てくるのかが分からない。
「もういいよ!!」
そう言ってリルムは俺の進行方向とは逆に走って行ってしまった。
「あっ」
止めることもできずに俺は学校へと向かうしかなかった。
ここまでリルムと喧嘩になったのは久しぶりな気がする。
子供のころ、大ゲンカしたことがあったよな…………
内容は覚えてないけど。