第二章 夏空と宿題①
「じゃあどうぞ~」
俺はリルムの部屋に招き入れられる。
寮での彼女の部屋に入ることはあったが、実家の部屋は相当久しぶりだ。
窓越しから見える部屋の様子とは違い、
隅にはぬいぐるみなどがいっぱい置いてある。
「これ、何のぬいぐるみだ?」
「あっ、それ、バジリスク。そっちはバルログだよ」
なんでこんな禍々しいモノばっかりなんだろう?
ユニコーンとかヒッポグリフとか、
可愛いのが売っているというのに…………
「可愛いでしょ」
デカイ悪魔のぬいぐるみを抱えながらリルムは笑みを送ってくる。
ぬいぐるみを抱える彼女の仕草は可愛い。それは認めよう。
だがその手の中にあるものを見ると滅入ってしまう。
まあ他人の趣味をとやかく言うのは止めておこう。
「じゃあ、勉強を始めようか」
彼女は床の上に机を引っ張り出すと、そこに俺を座らせた。
そしてリルムは俺の隣へと、座るのだった。
「ちょっと、なんで隣なんだ?」
「こっちのほうが教えやすいでしょ?」
「うっ………」
暑さのせいで彼女は薄着だ。少し目線をあげれば、
見えてしまうじゃないか………
くそぉ、夏の暑さが恨めしいぜ!!
俺は自分の煩悩と宿題のサイドアタックを受けているのだ。
何故こんなときに他の2人がいてくれないんだろう?
「2人とも、友達にプレゼント渡すって言って、帰ってこないねぇ」
「今日は来ないんじゃないか?」
「まさか!?」
リルムが立ち上がる。彼女は何を思いついたと言うのだ?
「クーちゃん×クライスちゃんでデート!?」
「うおっい!!」
どんな妄想してるんだ、コイツは………
クーナはまだ幼いし、俺の妹だ。クライスとクーナが付き合ったら。
「ロイ義兄さん」
俺を兄と呼ぶクライスを想像する。
ありえない、ありえない………
「クーちゃんもあんな容姿で可愛いからねぇ。つい、うっかりってこともあるかも」
そんなまさか………
「クライスちゃん、下級生にも優しくするからねぇ。もしかしてロリコンなのかも」
「うぉおぉおおおおお!!」
俺は雄たけびを上げ立ち上がる。
「おお、ロイちゃんが奮起した!!」
その時、部屋にノック音がし、クーナが顔を出した。
「こんにちは、リルムさん」
「うおおおおお!!クーナ早まるなぁ!!」
俺はクーナの肩を掴み、ブンブンと前後に振る。
「な、なに?お兄ちゃん!?」
「いやぁ~。お兄ちゃんとしての嫉妬ですかの~」
「はい!?」
「クーナ。誰とも付き合ってないんだよな!?」
「い、いきなり何を言ってるの!?」
俺は冷静さを失い、クーナを尋問する。
それを横でリルムは楽しそうに傍観するのであった。