第一章 初めての旅。そして海①
暑い……
夏は暑いのは周知の事実だ。
だが今の状況は………
電車内で俺を含む4人は熱さでノックアウト寸前であった。
動いている電車ならば、窓から入ってくる風で丁度よい気温が保たれるが
止まったまま、しかも空調なしの電車内はまるでサウナのようであった。
「ロイちゃん………暑いよぉ………」
俺の横の桃髪の少女が俺の方へと倒れこんでくる。
いつもならばドキドキするこのシチュエーションも、
この暑さのせいでイライラするだけだ。
「リルム、暑い。離れろ」
力なく、彼女の頭を膝から窓の方へと押し戻す。
「ふう、それにしても困ったもんだね」
俺の向かいの席の金髪男子は手の甲でパタパタと自分の顔を仰ぎながら、
そんなことを零す。
言っていることの割に表情にはまだまだ余裕がある。
「余裕そうだな、クライス」
「そんなことないよ」
とか言ってるが笑顔を崩さないこいつには敬意を表したい――――今の状況では。
斜め向かいに目をやる。
茶髪ツインテールの少女はぐったりとシートに、もたれかかっている。
「クーナ、大丈夫か?」
「う、うん………」
こっちを見る気力もないのか、クーナは窓の外をぼーっと眺めている。
「はぁ……… 電車が止まるなんてついてないなぁ」
電車が不良のために止ったのは約30分前のことだ。
夏休み前の休日ということもあり電車にはかなりの数の乗客がいる。
それが災いして、電車内の温度は瞬く間に上がっていってしまったのだ。
「ただいま車両点検のため――――」
電車内に車掌のアナウンスが流れる。
これで同じことを10回は繰り返しているだろうか。
さすがにイライラしてくる。
「あー!! 暑い!!」
リルムは耐えきれなくなってスカートの裾を持ち、バサバサと扇ぐ。
「ちょっと、リルムさん!! 見えますって……! お兄ちゃんも見ないの!」
クーナの一言でハッと目を逸らす。
いつの間にやらリルムから目が離せなくなっている自分がいた。
「もう。ロイちゃんはえっちだなぁ」
リルムはクスッと笑い、頬っぺたをツンツンしてくる。
クライスもいるのに何故、俺だけ…………
そう言おうかと思ったがやめた。
これ以上体力は消費したくない。
「車両点検が終了しました――――」
いままでとは違うアナウンスに賑わっていた車両の中が静まり返る。
これでみんな解放されたと喜んでいるのだろう。
だがスピーカーから聞こえて来たのは運転再開の合図ではなかった。
「12kmか……結構遠いな」
俺たちは電車を降り、線路の上にいた。
なんでもブレーキ部の故障で、
運転再開までかなりの時間がかかるので急ぎのお客様は降りろってことらしい。
別に急いではないのだが、あのサウナ地獄にいるよりは
歩くということをメンバーの満場一致で決めたのであった。
俺らと同様にあの電車内から逃げ出した人が線路に群れをなしていた。
電車に残ったのは幼い子供を連れているものか、大荷物を持っているものであった。
鉄道職員らしい男は乗客の人数を数えると、
「それじゃあ、出発します」
そう言って、先頭に立って線路を歩き始めた。
人々は、その後に続く。
「じゃあ、私たちも行こうか」
リルムの言葉をスイッチに俺たちも歩き出した。
線路は海に程近いところを走っており、少し先には大海原が見える。
「おおっ! いい眺め~!!」
リルムはいつも以上に高いテンションではしゃぎ回る。
「元気だねぇ」
俺はリルムの分とクーナの分の荷物を持っているためにそんな元気は無かった。
ちなみにクライスはクーラーボックスを持っているので
レディの荷物を俺が持っている寸法だ。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
「元気が無いように見えるか?」
「リルムさんと比べちゃうとね」
「まあ、あいつと比べれば誰でも鬱に見えるよ……」
まったく、あの元気を分けてもらいたいものだ。