第1話 異世界転生!そして捨て子スタート
やあ、俺はナイスガイだ。
何やかんやあってトラックに轢かれて死んだ。 いやーあっさりだった。人生一度も彼女が出来ず、友達はいたけど大学生になってからはずっと1人だったなぁ。アニメばっかり見てたせいかな?トラックに轢かれた俺の死を悲しむ家族がいなかっただけ不幸中の幸いか。
え?何でそんなに淡々としてるかって?
いやだって、もう死んだし。今さら「うわあああ!」ってなってもどうにもならんだろ。パニック起こしたところで誰も助けてくれないし、そもそも助ける対象がもういない。
じゃあ何でそんなに自分語りしてるのかって?
――暇なんだよ。
いやマジで。
訳あって喋れないし、動けないし、やることがない。脳内で独り言でもしてないと時間が溶けるどころか、固まる。
理由?
簡単だ。
俺は今――赤ちゃんだからだ。
「……あう」
さっきからこれしか言ってねぇ。ていうか言えない。
頭の中では普通に会話できるけど。なんか、口が追いつかない。
「あー……う」
ほらな?
だが、嘆いてても仕方ない。暇なんだし、やれることはやる。
まずは現状確認だ。
――トラックに轢かれて、気づいたらここにいた。
うん、改めて考えても意味わからん。でも異世界転生ってそういうもんだろ?
で、今の俺は――
布に巻かれている。
ぐるぐるだ。ミノムシみたいだ。
いや、でもこれ……意外とあったかいな。ちょっと安心する。動けないけど。
問題はそこじゃない。
周りに、人がいない。
……あれ?
さっきまで誰かいなかったっけ?
黒髪の女の人。俺を抱いてたやつ。あれ夢か? いや、さすがにそれはない……よな?
視界をぐるっと動かそうとする。
動かない。
首、まだ使えないんだった。
じゃあ目だけで確認する。
上。木の天井。
横。壁。木。
反対側。……壁。
誰もいない。
……よし。
泣いてみるか?
選択肢それしかないしな。
とにかく泣いてみる。それが赤ちゃんの最強スキル「泣く」だ。
問題は――出せるかどうかだ。
「あ……あ……」
喉に力を入れる。息を吸って、吐く。
もっと強く、もっと――
「――ああああああああああああああああ!!」
出た。
出た出た出た出た!!
これだこれだ! これが赤ちゃんボイス!
さっきまでの「あう」とはレベルが違う。音量、持続力、そして何より――うるさい。うるせぇ!
自分でびっくりするくらいうるさい。
いやこれ近所迷惑とかないのか? まあ異世界だし知らんけど!
とにかく泣く。泣き続ける。
理由? ない。
いやあるけど説明できない。
とりあえず泣く。
すると――
――ぎぃ。
ドアの開く音。
来た。
「……っ!」
足音。急ぎ気味。
誰かが入ってくる。
視界の端に影。
そして――
黒髪の女性。
……あ、さっきの人だ。
間違いない。
顔がちゃんと見える。
貴方が俺のママ?整った顔立ちをしている。いわゆる美人ってやつだ。……この女性が俺のママなら、俺は相当なイケメンだな。前世はブ男だったからなぁ
今世は将来安泰かもしれん。
そんなことを考えている間にも、女性は俺を抱き上げて――
口を開いた。
「・-・・・-・・-・-・--・・」
……。
…………。
何言ってんだ?
今の何?
音としてはちゃんと聞こえてるんだよ。ちゃんと“言葉っぽいリズム”もある。けど――
意味が一切入ってこない。
「・-・・・-・・-・-・--・・」
もう一回言った。
うん、やっぱり分からん。
英語じゃない。日本語でもない。そもそも地球の言語じゃない感じがする。発音が独特すぎる。
……ああ。
これが――異世界の言葉か。
初めて聞いた。
いや、正確にはさっきから聞いてたのかもしれないけど、こうして意識して「言語」として認識したのは今が初めてだ。
「・-・・・-・・-・-」
優しく、ゆっくり。たぶん俺に話しかけてる。
分かるのはそれだけだ。
「あーう」
とりあえず返事してみるか。
当然、意味はない。
だが女性は少し目を細めて、安心したように頷いた。
「……ルクス」
……ルクス?
俺の名前か?
いや、たぶんそうだな。さっきからやたらこの音だけは繰り返されてるし。
ルクス、ルクス。
……。
変な響きだな。
いや、悪くはないよ? 悪くはないけどさ。
もっとあっただろ。こう、あるじゃん。
カッコいいやつ。
レオとか、レオンとか、アレスとかさ。
もうちょい主人公っぽいやつ。
なんでルクスなんだよ。
なんかこう――
優等生モブっぽい。
いや、モブってほどでもないか? 中堅くらい? サブ主人公ポジ?
……いやいや、何冷静にランク付けしてんだ俺。
「あーう」
とりあえず抗議の声を出す。
意味はない。
だが気持ちは込めた。
もうちょいカッコいいのにしません?
すると女性は、少しだけ首をかしげた。
「……ルクス?」
通じてねぇ。
そりゃそうだ。
「あう……」
諦めて弱めに鳴く。
すると女性は、今度は少し微笑んで――
「ルクス」
さっきよりも、はっきり。
ゆっくり。
まるで刻み込むみたいに。
……あー。
これ、決定だな。俺の名前、ルクスで確定。
変更不可。キャラメイク終了。やり直し不可。
いやまあいい。
名前なんてそのうち慣れる。
……そう自分に言い聞かせた、その時。
女性が俺を――ひょい、と抱き上げた。
おお、来た。
「……!」
視界が一気に上がる。
さっきまで天井しか見えなかったのに、今はこの人の顔が真正面だ。
近い。
近い近い。
「……ルクス」
優しく名前を呼びながら、にこっと笑う。
……いやちょっと待て。
うお、抱っこされるなんていつぶりだ?
記憶を辿る。
……ないな。
少なくとも大学生になってからはゼロだ。
むしろ人生で数えるレベルじゃないか?
それが今――当たり前のように抱っこされている。
なんだこの状況。
バグか?
「……」
で、改めて見る。
この女性。
黒髪。整った顔立ち。目元は少し柔らかくて、どこか安心感がある。
……。
マジで美人だな。
いやさっきも思ったけど、距離が近いと破壊力が違う。
肌きれいだし、目も綺麗だし、普通にレベル高い。
前世でこんな近距離で女性の顔見たことあったか?
……ないな。
「あーう」
とりあえず声が出る。
意味はない。ただの感想だ。
すると女性は、またふっと笑った。
……この人、よく笑うな。
いい人そうだ。
で。
ここで、俺はある重大なことに気づく。
ちょっと待てよ?
今の状況を整理する。
俺=赤子。
この女性=たぶん保護者。ほぼ確で母親。
つまり――俺はこの人に育てられる。
うん。ここまではいい。
で、赤ちゃんの成長に必要なものといえば?
そう。
栄養。
そしてその供給方法は?
「……」
……。
…………。
母乳か?
「あーう!?」
思わずちょっと大きめの声が出る。
いや待て待て待て。冷静に考えろ。
これは自然なことだ。
赤ちゃんにとっては当たり前。
何もおかしくない。
それが俺の食事になる可能性は大いにある。
「……ルクス?」
女性が少し不思議そうに俺を見る。
あ、やばい。
変な反応したのバレたか?
いやバレるわけねぇか。
細かいことは後で考えよう。
今は――
生きるのが最優先だ。
「あーう」
……とりあえず飯、頼む。
「あーう」
タイミングよく鳴いてみる。
伝わるかは知らんが、赤ちゃんの「腹減った」はたぶんこれでいいはずだ。
すると女性は、少しだけ俺の顔を覗き込んで――
何かを判断したように
「……ルクス」
名前を呼んでから、抱え直す。
腕の位置が変わる。さっきよりしっかり支えられてる感じだ。
次の瞬間。
女性はそのまま、くるりと向きを変えて――
扉の方へ歩き出した。
――ぎぃ。
さっき開いたドアを、そのままくぐる。
おお。
部屋出るのか。
視界が揺れる。
木の廊下を数歩進んで――
そのまま、さらにもう一つの扉へ。
「……」
外、か?
なんとなく空気が違う。
少し冷たい。湿った感じもある。
扉に手をかけて――
――きぃ。
開けた。
次の瞬間。
ふわっと、空気が変わる。
外だ。外に出た。
「あ……」
思わず声が漏れる。
視界が一気に開ける。
屋根も壁もない。
広い。
空が見える。
……が。
曇りだ。
どんよりとした灰色の空。
太陽は見えない。
風が吹いて、ひやっと頬を撫でる。
「あーう……」
ちょっと寒い。
さっきまでの部屋の中とは全然違う。
彼女はそんな俺を見て、少しだけ布を引き上げてくれた。顔の横まで覆われる。
……あ、あったかい。
「……ルクス」
優しく名前を呼びながら、外を見渡す。
その表情は――少しだけ、硬い。
……あれ?
さっきまでより、ちょっと雰囲気違うな。
「あう?」
小さく鳴く。
彼女は一瞬だけ俺を見て、それからまた前を向いた。
ゆっくりと歩き出す。
外は草が少し生えてる。
周りには同じような木や石の家がいくつか見える。
街……っぽいな。
でも、人影は少ない。
時間帯か?
それとも――
「あー……」
空を見る。重たい雲。今にも降りそうな色。
……あー。
これ、雨降るのか?
重たい雲がゆっくり流れてる。
風も少し強くなってきた気がするし、空気も湿ってる。完全に“来る前”のやつだな。
「あーう」
小さく鳴いてみる。
すると彼女は、ちらっと空を見上げて――
ほんの少しだけ、歩く速度を上げた。やっぱりな。
雨が来るのが分かってる。
で、そのまま。そんなに急ぎの用事なのか?
彼女は俺を抱えたまま、石の道を進んでいく。
家と家の間を抜けて、少し広めの道に出て、
さらに奥へ。
「……」
……結構歩くな。
さっきの家から、明らかに離れてる。
「あう?」
思わず疑問の声。
するとミラは軽く視線を落として、俺を見る。
「……ルクス」
優しい声。でもやっぱり、どこか急いでる感じがある。
……で。
俺は考える。
どこ行くんだ?
普通に考えたら――別の家だよな?
「あー……」
いやでも待て。
もしかして。
これ。
家二つあるのか?
「……」
……え?
ちょっと待て。
もしそうだとしたら、貴族じゃね?
「あーう!?」
思わずちょっとテンション上がる。
いやいやいや。
あるぞ?
異世界転生あるある。
気づいたら実はいいとこの子でしたパターン。
さっきの家は仮住まいで、
今向かってるのが本宅とか。
でっかい屋敷とか。
使用人とかいるやつ。メイドも居るのかも!
「あーう!あーう!」
テンション上がって無駄に鳴く。
彼女はちょっと驚いた顔をする。
「……ルクス?」
あ、ごめん。
今のは完全に俺の都合。
でもさ、もし貴族だったらさ、
……人生イージーモード確定じゃね?
前世の俺とは真逆だぞ。
努力無しで、身分は高く、金は大量。
ついでに――
「あーう……」
絶対なんかあるだろ。
魔法の才能とか。
いやむしろ、ない方がおかしい。
異世界転生だぞ?トラックだぞ?
ここまでテンプレ踏んどいて、凡人とか許されるか?
「……」
いやないな。それはない。絶対。
チート持ちだ。
「あーう……ふふ」
思わず変な声が漏れる。
いや、にやけるだろ普通。
だってこれだぞ?
生まれ直し。
貴族(仮)。美人の母。
ここまで揃ってて――
魔法ゴミでした、はない。
ないない。
「……あーう」
才能SSSで魔力量無限で属性全部使えますとか?
いやもういっそ――
神の加護持ち。
「……ふふ」
やばい、止まらん。
で、そのまま成長して――
剣も魔法も最強。
学院とか行ってさ。
「……あーう!」
可愛い幼馴染とか絶対いるな。
しかも最初はちょっと生意気で、
でもだんだんデレてくるタイプ。
はい来た王道。
さらに――
「……あーう!」
仲間も増える。
クールな女剣士。
元気系魔法少女。
ミステリアスなエルフ。
はい、完成。
パーティー兼ハーレム。
「……あーう……あーう……」
やばい。
未来が明るすぎる。
眩しい。前世の俺が泣いてる。
いや泣いてないか。誰も悲しまなかったし。
……いや今はいい。
今世だ。
ここからだ。
「……あーう……ふふ」
にやけが止まらん。
完全に勝ち組ルート入った。
そう思っていた――その時。
――ざっ。
彼女の足が、ぴたりと止まった。
「……?」
ん?
なんだ?
顔を上げる(上げられてないけど気持ち的に)。
視界の先。さっきの家とは明らかに違う建物。
大きい。木だけじゃなく、石も使われてる。
扉もしっかりしてる。――でけぇ。
今まで見えてた家とは、明らかに格が違う。
壁は分厚い石造り。扉は重厚で、木に金属の補強が入ってる。いかにも「守るための建物」って感じだ。
「あーう!?」
テンション爆上がり。
いやいやいやいや。
これもう確定だろ。貴族の屋敷か、それに準ずる何かだ。
勝った。人生、勝った。
「……あーう!あーう!」
思わず鳴きながら、彼女の顔を見る。
ねぇママ!これうち!?
すごくない!?俺んち!?
……と、そこで。
違和感。
「……?」
彼女の顔。さっきまでと違う。笑ってないどころか――
「……」
……泣いてる?
ぽたり、と。
雫が一つ、頬を伝って落ちた。
「……あ?」
いや、なんで?
嬉し泣き?いやいやいや、違うだろ。
そんな顔じゃない。なんていうか――
追い詰められてる、みたいな。
「あーう……?」
小さく鳴く。
すると彼女は、はっとしたように俺を見る。
そして――
ぎゅっ、と。
少しだけ、強く抱きしめた。
「……ルクス」
震えてる。声が、わずかに。
……え、ちょっと待て。
空気おかしいよ奥さん。
さっきまで俺の脳内ハーレム会議やってたのに、一気に現実に引き戻されたんだが?
で。次の瞬間。
彼女は、ゆっくりとしゃがみ込んで――
俺を。
地面に、置いた。
「……え?」
いやいやいやいや。
待て待て待て待て。なんで?
「あーう?」
軽く鳴く。まあ、あれだろ。腕疲れたんだ。
赤ちゃんって意外と重いしな。分かる分かる。
ちょっと休憩だよな?
うんうん。
うんうん――
……じゃねぇ。
「……?」
一拍。
ほんの、一拍だけの沈黙。
その次の瞬間。
――ばっ。
彼女が、走り出した。
「あ?」
え?
いやいやいやいやいやいや――
「――あああああああああああああああああああああああああ!!??」
待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
どこ行くねーーーーーーん!!!?
何してんだよォォォォォォォォォォ!!!
まともに動けない赤子を!!
外に!!置いて!!
走って行くんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「――あああああああああああああああああああああああ!!!」
全力絶叫。肺活量MAX。
魂のシャウト。
だが――
彼女は、止まらなかった。振り返らない。
ただ、涙をこぼしながら。
そのまま、建物の奥へと消えていった。
「……あ」
静かになる。
いや、静かじゃない。
風の音と雨の音。
そして――
俺の泣き声だけが、やけに響く。
「あー……あーう……」
……マジで?
置いてかれた?ガチで?
「あーう……?」
視界の端に、さっきの扉。
閉まってる。開く気配もゼロ。
足音も、もう聞こえない。
……あー。なるほどね?
「……あーう……」
さっき泣いてた理由。
これか。そういうことか。
理解した。
理解しちまった。
「……あーう……」
……いや。
いやいやいやいやいや。
納得できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「――あああああああああああああああああああああああ!!!」
泣きたいのはこっちだわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
なんだこのハードモードスタートォォォォォォ!!!
「――あああああああああああああああああああああああ!!!」
――ぽつ。
「あ?」
頬に、何かが当たった。冷たい。
一瞬遅れて、理解する。
――ぽつ、ぽつ、ぽつ。
空から落ちてくる、水。
「あー……」
いや、まあそうだよな。あの空だもんな。
降るよな。知ってた知ってた。
知ってたけどさ。
よりによってこのタイミングか?
雨が強くなる。本降りだ。
「――あああああああああああああああああああああ!!!」
いや無理無理無理無理無理!!!
ちょっと待てって!!!
俺いま何?
生後何日かも分からん赤ちゃんだぞ!?
防御力ゼロ!回避力ゼロ!装備・布オンリー!!
それがこの雨の中に放置って――
死ぬわ!!!
「――ああああああああああああああああああ!!!」
全力で泣く。
もうプライドとかない。
赤ちゃんの唯一の武器、「泣き声」だが。
誰も来ない。
「……あ、あーう……」
弱くなる。
いや、弱くなってる場合じゃないのは分かってる。でもさ。
冷たいんだよ。
雨が。容赦なく、顔に、体に、降り注ぐ。
布はすぐに濡れて、重くなっていく。
さっきまでの「あったかいミノムシ」が、
今はただの「濡れ雑巾」だ。
「あー……あ……」
震える。体が勝手に震える。
寒い。
めちゃくちゃ寒い。
「……あーう……」
……終わった。
これ、終わったわ。
異世界転生。開始一時間でゲームオーバー。
RTAかよ。
「……あー……」
目を閉じる。
雨音が、やけに大きい。
さっきまであんなにうるさかった自分の泣き声が、今はもう、かき消されていく。
「あー……う……」
思考が、鈍くなる。寒さのせいか、疲れのせいか。分からない。
ただ、ぼんやりと。
考える。
……前世。
まあ、楽しかったかって言われたら微妙だけど。
こうやって即終了するよりは、マシだったな。
「あー……」
クソ。
せめてもうちょい生きたかったな。
魔法とか、見てみたかった。
チートとか、試したかった。
ハーレムとか――
「……あーう……」
ハーレムとか――
そこまで考えたところで、
――ぎぃ。
「……?」
音。
微かに、でも確かに。
さっきからずっと閉まっていた、あの重い扉が――開いた音。
「あ……」
意識がぼやけてる。
でも、分かる。
誰か、来た。
――ざっ。
足音。
重い。ゆっくりじゃない。躊躇いがない。
雨音の中でも、はっきり聞こえる。
「――……!」
男の声。低い声だ。
……何て言ってるかは、分からない。
でも――
驚いてる。
それだけは分かる。
「あー……」
声を出そうとする。
出ない。
喉が、うまく動かない。体も、もう――感覚が薄い。寒いのかどうかすら、分からなくなってきた。
足音が、近づく。
視界の端に、影。
大きい。さっきの女性とは違う。
もっと、背が高い。
「あ……」
誰だ。
分からない。でも大丈夫だ。
たぶん、こいつは――
敵じゃない。
そう思った瞬間。
ぷつり、と。
――意識が、途切れた。




