解析・スキャン
しばらくすると、扉の向こう側に人影が見えた。
おれは、自然と片方の眉を上げ、動向を見守る。店へ来るのか来ないのか、心がそわそわする。
すると、店の扉が勢い良く開かれた。
「先生!いるかー!?」
男性の元気な声が、店内へ響き渡る。
褐色の筋肉質な肌をした、モヒカンの男性が店に入ってきた。
『 名前:シグマ 天賦:狂戦士 』
オレンジ色のトサカの様な前髪を揺らしながら、ズケズケとこちらへ向かってくる。
シグマは、戦士とは思えない軽装備で、肩に大きな袋を背負っていた。
「…いらっしゃい。シグマ。」
おれは、素っ気なく挨拶をした。どうせいつもの冷やかしだろう。
「先生よ。そんな詰まんなそうな顔するなって。」
シグマは、そう言ってカウンターの正面に立ち、こちらの様子を伺ってくる。
そんなシグマに、おれは食って掛かった。
「そろそろ先生は止めろよ。シグマの方が歳も上だし、クラスも上だろ?あっと言う間に抜かしやがってさ。」
冒険者は、クラス分けされている。
特別なEXクラスやSPを除いて、ファースト、セカンド、サードの主に三つに分かれている。
そして、その中でもファーストクラスだけは、更に階級が分かれていたりする。
「何言ってんだよ。先生は、先生だろ?」
シグマは、いつものやり取りのように自然と答えた。
何時からだろうか、シグマが先生と慕ってくれるようになったのは――。
ここは、ゆっくり思い出に浸るはずの所なのだが、シグマがそんな暇を与えてはくれなかった。
シグマが肩の大きな袋を、カウンターへ豪快に載せた。
ドンッ。
おれは、驚いてカウンターから身を引いた。危うく、鼻を持っていかれそうだった。
大きな袋からは、刀や棒が飛び出ている。
シグマは、おれの鼻の心配なんて全くすることもなく、笑顔をこちらへ向けてくる。
「先生!今日は、大収穫だぞ!これを見ろよ!」
シグマは、そう言って袋を開き、中身をカウンターの上にばら撒いた。
おれは、中の物が壊れるんじゃないかと、ヒヤヒヤしながらその様子を見守った。
それからシグマは、徐に刀を取り上げて鞘から一気に引き抜いた。
シャキーン!
刀身の滑る音が、細く綺麗な音を立てる。
抜かれた刀の刃から、青白い炎が灯り出す。
「これなんて凄いだろ?他でぼったくられたくないからな。先生の所に逸早く持って来たんだ。」
シグマは、刀の燃える刃を見上げてケラケラと笑っている。
確かに、見事な業物だ。
シグマのテンションが上がるのが、パッと見ただけでも分かるほどの良い刀だった。
ダンジョンで見つかる宝。アーティファクト。
それも毎回見つかる訳でもなく、見つけられる方が稀な代物だ。
稀な上に、その価値もピンきりときたものだ。アーティファクトでも、使えない物はゴミ同然だし、有用な物ほど価値が高い。
シグマは、自慢げな笑顔をこちらへ向けてから、刀を鞘にしまった。
「目が覚めたみたいだな、先生。」
おれは、いつの間にか、刀に目を奪われていたみたいだ。開いた口が塞がらない。
「あぁ…。そいつは、呪われていなければ、伝説級だろ…。」
おれは、刀から一旦目を逸らし、息を呑んだ。
「刀を抜いた感じ、なんとも無かったのか?」
呪われていたら、何かと異変を感じるはずだ。
シグマが平然としているところを見ると、本当に伝説級の物なのかもしれない。
「おれは、そういうのに疎いんで。先生に診て貰おうと思ってよ。」
シグマが恥ずかしそうに言った。
「疎いって…。まさか、これ全部試したとか言わないよな?」
おれは、呆れながらも、カウンターの上に無造作に置かれた品々を見渡した。
沢山ある物の中で、一つでも強力な呪いが罹っていたら大変だ。それに、呪いでなくとも、危ない代物も多々存在する。調べもせずに試すなんてありえない。
シグマは、おれの表情を見て察したのか、惚けたように答える。
「ん?あー、どうだったかなぁ。」
「何があるか分からないから、鑑定するまで使用は控えろって、前にも言っただろ…。」
「まあ、今まで何か起きたこともないし…。やばそうなのは、触らないさ。」
おれは、そう言うシグマを、念の為に注意する。
「何かあったら、嫁さんが悲しむだろ?じゃあ、刀から診てみるか。」
バツが悪そうなシグマを横目に、おれは、刀へと手を伸ばす。
意識を刀へ集中し、指先に力を込める。
『 解析! 』
単純に、探索の周囲を探る力の初歩的なスキルだ。ダンジョンでは、この解析を応用して、探索を使っていた。
物に力を集中させることで、その物の詳細を視る事が出来る。
脳裏に刀のフォルムが描かれ、その詳細がイメージとなって伝わってくる。
『 名前:百鬼の刀 効果:鬼火を刀身に纏わせる 呪い:生命力吸収 魅了 鬼化 』
「シグマ。残念ながらこいつ、呪われてやがる。」
「まじかぁぁ…。」
魂でも抜け落ちそうな悲痛な声が、シグマの口から漏れ出る。
「使い続けると、生命力を奪われ、終いにはオーガにでもなるんだろう。でも、良い刀には違わないさ。退魔師か呪いの専門家にでも頼むんだな。」
おれは、刀をカウンターの脇へ寄せた。
まだまだ大量にある。スペースを空けておく必要があった。
すると、シグマが懇願してきた。
「先生!先生がやってくれよ!成功するか分からない呪い祓いに、大金なんか出せねえよ!」
シグマの言う通り、呪いを祓うには大金がかかる。
それは、リスクを伴う行為だからだ。しかも、成功率も高い訳ではない。
「嫌に決まってるだろ…。ここは、道具屋だぞ?適材適所って言う言葉知ってるか?」
「でも、先生にも出来るだろ?」
「…。」
「ほら、出来るじゃねえか。」
沈黙は、答えだった。
しかし、それをやらない理由がいくつかある。
「出来たとしても、呪いを祓うのに、どんなリスクがあるか分からないだろ?専門家が一番。素人が手を出すものじゃないって。それに、他人の仕事を奪う気もないしな。」
出来るから何でもやってしまうと、色々な問題が発生する。
魔法の言葉、”大人の事情“と言う奴だ。
「よく分からねえが、ケチ臭いぞ。」
もっともらしい理由を述べたつもりだったが、案の定、シグマには、伝わらなかった。
「馬鹿言ってないで、他のも鑑定するのか?」
これ以上は、埒が明かないので、話を逸らすことにした。シグマも諦めて、それに従った。
「ああ、全部頼む。今回は、珍しく大収穫だったからな。」
「一回で、この量を見つけて来たのか?」
滅多に見つからないアーティファクトを、一回でこんなにも見つけて来るとは驚きだ。
どんなに腕のいい冒険者でも、こうはいかない。シグマが自慢するのも、納得のいく行為だ。
「へっへー。」
シグマの鼻が天に届きそうな時、おれは、一つのアーティファクトに目を付けた。
「こっこれは――。」
それは、シンプルで綺麗な眼鏡のアーティファクトだった。




