目覚め
剣と魔法の世界、スベリアーチ。
スベリアーチで生きるすべての人々は、天賦と呼ばれる才能に頼った生活を行っている。
人々は、生まれながら賜った天賦を元に、生涯を共にする仕事に就く。
天賦が商人の場合は、商人の道を辿り、何かの職人ならば、その職人を目指す。
しかし、すべての人がそう上手く天賦の職業に就ける訳ではなかった。
昔は、気にしていなくても、そのうち天賦の職へと自然に就けていたものだが、世界に人口が増えた今ではそうはいかない。
溢れた者は、別の職に就く。そして、また溢れた者が別の職へ――。その連鎖は、今ではもうどうしようもない物となっていた。
そんな人々を救済するのが、ダンジョンや街の周辺の魔物の類いだった。
今では、剣士や魔法使いといった戦闘職以外の天賦の持ち主も、率先してダンジョンに篭るようになった。
スベリアーチにある複数の国の政府は、冒険者協会という政府直属のギルドを設立し、国の運営を円滑に進めているほどだ。
スベリアーチ最大の連合都市国家ゴッタニア。
その中央に位置する、大都市シュガード。
シュガードは、世界でも有数なダンジョンを中心として作られた巨大な街だ。
そのダンジョンの名は、大迷宮エンテレケイア。この大迷宮があるお蔭で、シュガードでは冒険者の数が絶えない。
そして、ダンジョンでは、極稀に宝が見つかることがある。
冒険者は、宝を夢見ながら魔物を狩り続け、魔物から魔石と呼ばれるエネルギー資源を収集する。
それをギルドが買い取り、街を動かすエネルギーへと変えている。
その魔石のエネルギーは、電気、ガス、水道。ゴーレムを動かすためにも使われていると聞く。
魔石の消費量が一番多いとされているのが、シュガード上空に浮かぶ島。上空都市ネオトーキョーの維持だ。
上空都市ネオトーキョーには、連合都市国家ゴッタニアの偉い人達が住んでいる。
彼らが各都市の状況を、逐一管理し運営しているお蔭で、ゴッタニアに住む人々は、平和な日々を送れている。
前置きが長くなったが、そんな大都市シュガードの街外れ。倉庫街の一角から、物語は始まる。
◆◆◆◆
天井へと伸ばした手が、空を切る。
「ルーク…。」
久しぶりに夢を見た気がする。
何かの予兆だろうか。――それとも、最近なにかあったかな?
おれは、そんな事を考えつつ、ベッドから起き上がり体を伸ばした。
『 名前:コウ 天賦:司書 』
あの夢の出来事から、数年の月日が流れた。
おれは、冒険者を早くも引退し、今は街外れで道具屋を営んでいる。
人には、向き不向きってものがあるのさ。それに、冒険者として、ある程度は稼がせて貰った。どうせ辞めるなら、早い方がいいと思ったんだ――。
そして、冒険者を辞めたにも関わらず、未だにおれは、天賦に抗う者の一人だった。
司書の仕事なんて、街では数が知れている。自分の天賦が司書だと分かった時は、神様を呪ったものだ。
スローライフを夢見て、少ない資金ではじめた道具屋だが、冒険者だった頃の仲間や知り合いのお蔭で、なんとか生活が出来ている。
もう少し立地が良い場所だと良かったのだが、贅沢は言っていられない。
仲間内では、混むことがなくて良いだとか。静かでゆっくり出来るからだとか。騒いでも問題ないだとか。言いたい放題、やりたい放題されてはいるが、態々店へ足を運んでくれていることが有り難かった。
道具屋は、おれの天賦の才ではないが、やってみればなんとかなるものだ。
それに、天賦に囚われすぎるのも良くないと、冒険者たちは口を揃えて言う。
それは、天賦の職業に就けない者の僻みから、そう言われ始めたのかもしれない。だが、天賦を生かすも殺すも自分次第なのだ。
要は、使い方次第だと言うことだ。
――まあ、ほとんど殺してしまってる、おれが言うことでもないのだが。
『 道具屋 絶版 』
木造の二階建ての一軒家。
一階が店舗。二階が住居となっている。
一応、大通りには面しているが、人通りはそう多くない。この辺りには、主に倉庫が立ち並んでいるためだ。
住居的な建物は、数が少ない。有っても倉庫を管理する人たちや警備をする兵士の宿舎が主になっており、冒険者が住むには立地が悪い。
羽振りの良い冒険者が居ないということは、他の店や住居がないということだ。
そんな場所へ、人が早々来る訳がない。
客商売としては、立地が終わっているという訳だ。
その代わりと言えば難だが、治安がとても良い。
政府や商人が、大事に管理している建物が多いためだ。こんな場所で悪さしようものなら、ありとあらゆる方向からヘイトを買ってしまう。問題を起こすのは、おれの店か余程の馬鹿だけだろう。
この場所で商売を始めることにしたのは、そのためでもあった。
値の張る物を扱う以上、治安は欠かせなかった。
そんな道具屋の店内には、色々な道具が綺麗に陳列されている。
薬草やポーションの類いに、スクロール。
ロープやナイフといった小道具から、大きめの剣や槍、盾までをも取り揃えている。
武器の類いは、たまに警備の兵士が欲しがるために、仕方なく置いている。客商売だ。面倒でもニーズには、答えなければならなかった。
それから、商品の並ぶ大きな横長の棚には、大量の古い書物がずらりと並んでいる。
その本棚の上に、道具を並べて陳列している訳だが、これまで滅多に本を取ろうとした客はいない。
どの道具よりも高い本が並んでいるというのに、客の目には一切止まらなかった。
これは、おれの悪い所だ。
天賦が司書なだけに、趣味程度で本を売っている。
これが、”天賦に囚われている“というヤツだ。
午前中に掃除や仕入れなどの仕事を終わらせて、店番をするのが日課だ。
どうせ、朝から客は、滅多に来ない。
一仕事終えて、客が来る時間に備える。そうするのが吉なのだ。
今日も今日とて、タブレットでニュースを読みながら、カウンターで寛ぐ。
――――――
『ファーストのサイトウ。大手商業ギルドのあの人と結婚か!?』
『オオゾーラ議員、会議と偽りホテルで密会。』
『ダンジョン攻略中、許せない行動10選。』
『禁断の恋?令嬢と底辺冒険者。』
――――――
ページをスクロールするも、今日は目を見張るような記事が無さそうだ。
強いて言えば、大手商業ギルドの結婚とやらは、商売に影響がありそうだが――。
「はぁ…。春だな…。色恋沙汰ばかりじゃないか…。」
呆れた感情が、ついついそのまま口に出た。
記者ももっとマトモな記事を書けばいいのに…。誰が興味あるんだ?知り合いならまだしも、知らない人だぞ…?
平和なことはいいことだが、興味がまったく湧かなかった。こっちは、あっと驚くことを期待しているのだ。
これは、今日も退屈な一日になりそうだ。
おれは、諦めてタブレットをカウンターの横へ置いた。そうして肘を立て、腕に顔を乗せてぼーっと店の窓を眺めることにした。
ぼーっとすることは、別に嫌いではない。
だが、じっとしていることは、好きではなかった。
おれは、矛盾と葛藤しながら、静かな時間を過ごす。




