ギルド
荷車を返したおれたちは、居住区を離れ中心街を歩いていた。
中心街には、色々なお店が多く、背の高い建物から沢山の看板がぶら下がっている。人通りも増え、ガヤガヤと五月蝿い。
道の脇では、人型の小さなゴーレムが荷物を頭の上に掲げて通りを走り抜けている。配達先の店の前に着くと、体を回転させて店に入って行くのが見えた。
「ふ〜ん。」
コガネがおれの方を、意味深に眺めてくる。
「なんだよ?」
おれが堪らず聞くと、コガネが笑顔で答える。
「コウって、丁寧に喋ることも出来るんだと思ってね。」
コガネは、おばさんとのやり取りを思い出していたようだ。
「そりゃ、客商売だからな。割とボロが出るけど。気をつけてはいるよ。冒険者だった時の癖が、どうしてもなぁ。」
おれは、そう言って天を仰いだ。
すると、コガネがぼそりと、おれに聞こえないように何かを言った。
「(そういうコウも素敵だけど。)」
「ん?何だって?」
おれが聞き返すも、無かった事にされた。
「ううん、それで?冒険者ギルドは、どこにあるの?」
コガネは、話を逸らし物珍しい光景を見渡す。
「ああ、もう見えてるよ。あの先に、大きな扉が見えるだろ?」
おれは、道の先のドーム状の大きな建物を指差した。
その大きな建物の周りには、沢山の人々が集まっている。
何かを待っている人達。立ち話をしている人達。座って休んでいる人達。ただただ、その間を通り過ぎる人々。
それぞれに、それぞれの物語がある。中には、おれたちの悩みが豆粒ぐらいに思えるような、大きな事情を抱える者もいることだろう。
コガネは、そんな彼らを指差して聞いてくる。
「じゃあ、あの辺りにいる人、みんな冒険者?」
「大半はな。依頼に来る人や、ギルドと取引している商人なんかもよく来るから、失礼がないようにするんだぞ。」
コガネにそう注意すると、コガネの気に障ったようだ。
「コウ。私は、子供じゃないのよ。そのくらいの分別は、あるわ。」
コガネは、顔を膨らませてそっぽを向いた。
◇◇◇◇
「わー。広い!」
コガネは、ギルドの中を見渡しながら目を輝かせていた。
周りからの視線が痛い。多くの冒険者が、ロビーの壁沿いの丸テーブルを囲んで座りながら、コガネを見ている。
ああやってギルド内を観察して、情報を得るのも冒険者としては重要なのだ。誰も彼もが、丁寧に教えてくれるわけではない。自分の目と耳を使って情報を仕入れることが大切だ。
これで早くも新人が来たと、知れ渡って行くことだろう。
「おい…。恥ずかしいから、あんまりキョロキョロするなよ。何が”私は、子供じゃない“だよ。」
おれは、白い目でコガネを見た。
コガネは、周囲の視線に気づき、恥ずかしそうに下を向き大人しくなる。
「う、うん…。」
しかし、コガネは、三歩進めばもう忘れていた。
「わー。」
コガネは、子供の様に目をキラキラとさせて、彼方此方に目を運んでは、興奮して歓喜の声を上げていた。
大きな螺旋階段に、沢山の綺麗なガラスの窓。高い高い天井には、巨大な光り輝くシャンデリア。
他では余り見ない豪華なギルド内の造りは、息を呑むほど素晴らしい。
まあ、ほとんどの冒険者は、見慣れてしまって何も感じていないのだが。
おれは、一階の正面にある受付のカウンターの中で、空いている場所を探す。スーツの様なギルド職員の制服着た男女が、忙しなく冒険者の対応をしている。
端の方の離れた区画のカウンターに、顔見知りの女性がいたため、とりあえずそこに行くことにした。
カウンターに近づくと、彼女がおれの存在に気づいた。パッと立ち上がって、おれを出迎えてくれた。
赤毛の長い癖毛が、立ち上がった拍子にふわりと跳ねる。
「コウさん!ギルドでお会いするなんて、久しぶりじゃないですか!」
彼女は、両手を合わせて感激する。
身体の線を細く見せる肉感的な制服を、柔らかそうに揺らす。
「しー。声がデカいよ、カロン。久しぶり。」
おれは、急いで口元に指を立て、周りの目を気にした。
するとカロンは、艶のある唇を手で隠して静かに謝る。
「す、すみません。コウさんに会えたのが嬉しくって。本日は、どのようなご用件でしょうか、依頼ですか?」
カロンは、そう言いながら席に着いた。
「いや、この子の登録をお願いしたいんだ。」
おれは、コガネの方に手を向けてカロンに伝えた。
「えっ女の子!?ぐすっぐす……。」
カロンは、コガネの顔を見て、涙を浮かべ始めた。
「ええー!?カロン!?」
おれは、驚きながらも再び周りの目を気にする。
冒険者の間で人気のある受付嬢を泣かせたと知れ渡れば、おれの命が危ない。カロンにもファンが沢山いるのだ。
おれは、無事に家に帰りたい。
「コ、コウって…意外とモテる!?」
コガネは、驚きと心配の目をしていた。
カロンは、涙を我慢しながら聞いてくる。
「どういったご関係で…。」
カロン、質問が間違ってる気がするぞ。
「成り行きで、この子に冒険者について教えることになってさ。だから、パーティー登録も頼みたいんだ。またしばらく通うことになると思うから、よろしく頼むよ。」
おれは、椅子に腰掛け、カロンをなだめるように身振り手振りを動かしながら言った。コガネは、たじたじなおれを見て、少し笑っている。
「冒険者に復帰なさるんですか!?」
驚きの声と共に、カロンの顔が明るくなった。少し目元のメイクが崩れている。
「今のところは、コガネが一人前になるまでは続けるつもりだよ。」
おれは、泣き止んだカロンを見て、ほっと一息吐いた。
「コガネ…さん?」
カロンが顔を上げてコガネを眺める。
するとコガネは、おれの隣の席に腰掛けて、自己紹介を始めた。
「はじめまして。コガネです。よろしくお願いします。」
ちょこんと、コガネがお辞儀をすると、カロンは、仕事モードに切り替えた。
「では、コガネさんは、これにご記入を…。あと、ずっとヒヨコでいて下さいね!」
「ええ!?」
カロンに笑顔で一人前になるなと言われて困った。今度は、コガネがたじたじとなった。
それから、コガネが差し出された用紙に記入をしている間に、カロンが楽しそうに世間話を始めた。
最近の困った冒険者の話だとか。ギルド内で乱闘があっただとか。カロンがコロコロ表情を変えて話すのを、おれも相槌しながら楽しんだ。
「コウさん、道具屋の方は順調ですか?そろそろ、シャンプーが切れそうなので、買いに行こうと思ってたところなんですよ。」
「うちは、雑貨屋じゃないんだが…。冒険者に復帰するだろ?店番を雇う事になって、任せてるんだ。」
カロンは、コガネを一瞬見て、コウに向き直る。
「まさか、また女性じゃないですよね?」
カロンは、カウンターに胸を乗せ、前のめりになっておれの目を見てくる。
「え…?いや〜、コガネ書けたか?」
おれは、泳いだ目を隠すため、コガネに顔を向けた。
「なんで!しばらく会わないうちに、こんな事に!?まさか、コウさんも……冒険者でよくあるハーレムパーティーに目覚めた!?」
カロンは、頭を抱えて悶え始めたと思えば、視線を奥のテーブルで女性たちをはべらしている冒険者の男性に向けた。
「いや、コウさんに限って…そんなことあるわけ……あるわけないですよね!?」
カロンがカウンターに手を突いて、勢いよく立ち上がった。
おれは、驚いて身を引きながら、全力で否定する。
「ないない!カロンも知ってるだろ?おれはモテないし、彼女でもいたら結婚して腰を落ち着けてるだろうさ。なんか自分で言うと、悲しいな…。」
「こっココッコウさんと、けっ結婚!?」
カロンは、ぶっ倒れ。コガネは、顔から湯気を出しながら硬直している。
「駄目だコイツら…。」
おれは、そう呟き、頭を抱えたのだった。




