7,寿命①
窓からの陽射しがだいぶ高くなってきて、部屋の内を心地良く暖めていた。
窓の外の灌木の下に、黄色く咲き乱れて福寿草が風に揺れている。外はなお寒そうだ。
この部屋の作りは、学校の教室を改造したものらしく二十畳くらいあった。
前面が壁、後ろが納戸、片側は廊下の窓、もう一方に出窓とガラス戸。ガラス戸の外にウッドデッキが伸びていた。
デッキの先に切妻の屋根がついていて、能舞台のような不思議な作りになっている。いる。
「ふむ、さて、ワシらはここに千人くらいで住んでいる。ワシらはご先祖さまたち旧人類とは、かなり違う種類の人間だ。そうだな……『まったく新しい精神種族』といっていい」
「まったく新しい精神種族……?」
ご先祖さまは、耳慣れない言葉に戸惑いを感じた。
「そうだ、まったく新しい精神種族が千人だ」
「千人?」
「そう、千人」
「他は……」
「旧人は絶滅した」
「それは……聞いた」
ご先祖さまは、疑わしそうな顔をしていた。本当は、信じたくないと思っていた。しかし、目の前に現実が否応なく存在している。実際にそんなことは、聞きたくもない。しかし、目を逸らしてはいけないと思った。耳を閉ざしてはいけないと思った。
ご先祖さまは、ひょっとしたら、自分が旧人類の最後の証言者かもしれないと思っていた。自分が、ここでの旧人類の最後の弁明者になるかもしれないのだ。
「だから、ここ以外に新人はどの位居るのか」
「ここ以外には居ない。この地……この地球上で、ここ以外に人は住んでいない」
「なにっ!」
ご先祖さまは驚愕した。
ご先祖さまの時代の人口は、五十億とも六十億ともいわれていた。それが、たった僅か千人くらいという。
「そんな……バカな……」
人類絶滅の最後の悪あがきが、ここの新人たちなのか……と絶望的な考えがご先祖さまの脳裡を過った。
「ふむ、なるほど、旧人の数からすればワシらの数は、とるに足らない微塵のごとき数だ。だけど、ご先祖さまはどう思うかね。我々は新しい人類の出発点なのか、それとも微塵となって消え去る運命なのか……」
「それは……新しい人類の出発点であって欲しい」
「ふむ、そうなんだ」
木師は、穏やかな表情をしていた。
「それでいいじゃないか。たとえ、ワシらが絶滅の運命の途中であっても、それはそれでしょうがないじゃないか。我々は、別に投げやりになっているわけじゃない。
しかし、旧人類の轍は踏めない。我々は、慎重にならざるをえないのだ」
「旧人類の轍をいうと?」
「ふむ、それは一口では言えない。まあ、極く大雑把にいえば、人間が地球環境の破壊者になってしまったということだな。
ふむ、じつは、地球環境の破壊者は人類が最初ではなかった。地球四十五億年の歴史の中での最初の破壊者は、光合成により酸素を放出し続けた藻のごとき植物だった。ふむ、それまでの地球上に酸素など存在しなかったのだ。酸素の出現が、その後の地球に激変をもたらしたのだ。そこから、生物の多種多様な発展が始まった。
ふむ、だから、植物がそれ以前の地球環境の破壊者といえる」
「植物が破壊者……どうも、ピンとこないな……」
「ふむ、それでは、何だったらふさわしいのかな」
「破壊と創造、それは神のなせる業ではないのか。いや、神を自然と置き換えた方が、よりふさわしいのかもしれないが」
「ふむ、そのようないい方も出来るな。しかし、万物の創造主とは植物のなせる業なのだ。つまり、神の如き存在の呼称は植物にこそふさわしい。植物こそ、神と呼んで良い存在だ。しかし、人間は植物以外のものの作為とした。つまり、人間に模したものの作為とした。
その方がより自然だし、より安易だ。何の積極的な作為を感じられない植物、そんな不確かな存在を崇めることを良しとしなかった。それより人間を超えた人間に似た存在、超越者『神』の方が都合が良い。それが、人間が作り上げた神という傀儡だ。
ふむ、そうなのだ。神とは人間に似せて作られた、人間の傀儡に他ならない。
西洋いうゴットも、イスラムのアッラーも、ヘブライのヤハウェイ、インドのシバも東洋のブッダも、すべての神は過誤だ。総ては、人間の思い上がりから端を発している。
ふむ、過誤から出発した人間社会の仕組みなど、どんな美辞麗句を並べ立てても正常には発展しない。だから、人間の歴史とは忙しない破壊と建設の繰り返しだ。
建設や制度などのシステムが発足しても、それらはすぐ腐り出す。人間は、えいえい破壊と建設を繰り返してきたのだ。
それらを人類はなぜだろうと反省することなく、自分たちのシステムを臆面もなく善としてきた。愛といってきた。正義といい切ってきた。
ふむ、結果はごらんの通りだ。人類が絶滅したのは、自業自得といえる。それだけじゃない、人類以外の生物をも道連れにしたのだから、人類の罪業は途方もなく深い。
ふむ、人間はどうしても、植物を造物主とは思えんらしい。自ら動くことのない植を見て、その緩慢な成長ぶりを見て、動に従する植としか考えられないのだろう。




