6、ここ③
「ふむ、あっ、さて……」
木師は、黒板のスイッチを入れた。
「おっ!」
ご先祖さまは、少なからず驚いた。
「それは、黒板じゃなかったのかい?」
「黒板じゃよ。ふむ、そりゃ今は二十六世紀だ。多少の進歩もあるさ。ご先祖さまの時代の黒板じゃない。ふむ、しかし、これはレッキとした黒板なんじゃよ。ホレ、この通り字も書ける」
木師はなにやら映し出されている映像の上に、無造作に字という文字を書いた。
ご先祖さまは黒板の変貌ぶりにも驚いたが、木師のど下手くそな字にはもっと驚かされた。ミミズがのたくっているようだ。たった一文字でこんなんでは、もし木師が文章など書いたら、果たして、どうなるんだろう。読める人はいるのか。書いた本人は、スラスラと読めるのか。
「いや、それで、書いた字はどうやって消すのかな」
「ふむ、簡単なことだ。リセットボタンを押せばいい」
拙い字は瞬時に消えた。残ったのは、何やら上空から撮影された映像らしい。
「ふむ、これがここの航空写真だ。周囲をぐるりと山が取り囲んでいる。両側の山すそに沿って、川が流れている。東側の川を東川、西側の川を西川と呼んでいる。二つの川は下で合流している」
木師は、ここの説明を始めた。
ここは、四方を山に取り囲まれた盆地のような形状をしていた。形は披針形の木の葉っぱのようで、金木犀の葉っぱに似ている。金木犀の葉っぱに、少し皺を付けた感じだ。
「ふむ、ここにワシらの居る建物がある。白っぽく見えるだろ、ここはもと小学校だった所だ。ここから放射状に、八方に道路が出ている」
建物は盆地のほぼ中央近くにあった。建物の下に、うっすらと校庭らしきものが見えた。そこから四方八方に、うねうねと道路が走りでて、途中からは枝分かれして、その先は細くなって消えている。
「ふむ、ここでは道路とか通信とかは、全部ハブシステムになっている。ハブシステムとは何かというと、ふむ、そうだな自転車のスポークを考えてみてくれ。その中心がハブだ。なぜハブシステムかというと、ふむ、そうだな電話を考えると分かり易い。個人々々がそれぞれめいめいに電話線を繋ぐとすると、単純に考えて個人×個人の数が必要になり、膨大な数となる。
しかし、ハブシステムだったら、個人と中継局の一本だけでいい。必要に応じて、接続すればいいわけだ」
木師は、白っぽく見える中心部を指した。
「ふむ、何かに似てると思わんか」
「えっ!」
ゴロッと、ご先祖さまの湯飲みが転がった。
『何というエゲツないことを言う爺だ!』しかも、年端も行かない女の子の前で……。ご先祖さまは慌て、焦った。自分も、内心似てるな……と思っていた。
皺のあるキンモクセイの葉っぱのような、両側に川が流れ、中央にぽっかりあいた穴、その穴から四方八方に伸びた溝のような皺のようなもの……。
考えることさえハバカリのありそうな……。それを、平然と口にするとは……。
『何を考えているのか、このヒヒ爺は』と思った。
「ん……」
木師は、何事かという顔でご先祖さまを見た。
「何か」
「いや、別に……」
「ふむ、この部分なんか木の葉っぱみたいだろ。木の葉を何枚か並べたような」
「ぶはっ!」ご先祖さまがむせた。
「何だね、騒々しい」
「はあ……」
『は、恥ずかしい』イヤらしい想像をしていたのは、自分だった。
ご先祖さまは、思いっきり肩透かしをくらった感じだった。『あんな、怪しげな葉っぱなんて有るのか……』とも思った。
狼狽して赤くなったご先祖さまを、不思議そうに兎が下から見ていた。




