38、山羊先生の断罪①
『……ん?』
ご先祖様は、異様な喉の渇きに目覚めた。
『……人喰い!』
閃光の如く、昨夜のおぞましい出来事がご先祖様の脳裡に疾った。
思い出した。昨晩のいまわしい出来事を。いたましいまでの味覚を。食道を逆流してきた、そら怖ろしいまでのおぞましさを。
そして、真っ黒な怒りを。そして、図体ばかり大きいわが身の絶望的な無力さを。
それも、イヤというほど。
ご先祖様は、ベットを軋ませて飛び起きた。
犬が、木師にお説教されていた。
犬にとって、昨晩の事件ほど屈辱的な事はなかった。新米のオマワリとして、事件にうまく対応出来なかったことはオオメに見られても、恐ろしさのあまり泣き出したのは、いかにもマズかった。
信用は、もうガタ落ちだった。木師の説教は、説教というより半分なぐさめか励ましに近かった。
「若気の至り、というよりも稚気の至りだな。ふむ、しょうがない」
木師は、半ばあきらめ顔で、そう言った。
犬はホウホウのていで、ようやく木師の部屋を退出した。しかし、ここの新人たちは皆一様に気持ちの切り替えが早い。物事に固執しない。性格に、粘りが無いのかもしれない。犬も例外ではなかった。
犬は木師の部屋から遠ざかるにしたがい気分がほぐれ、いつの間にかスキップしながら歩いていた。
その時、突然ドアが蹴破られ、もの凄い形相のご先祖様が飛び出して来た。
「んなろー!」ご先祖様は奇声を発して、そこに竦んだ犬を殴りつけた。
意外にも、手ごたえがあった。
「わー!ごめんなさいー!」
不思議な事に、ご先祖様に殴られ犬が謝っている。
きのう、あれ程必死になって殴りかかったが、ことごとく空振りだったのに、いまは一撃で当たってしまった。
しかし、幸か不幸か今ご先祖様が手にしているのは、棒切れではなくマクラだった。
しかも、今にも泣きそうになって謝っているのは、ふざけたことに犬のオマワリだ。
ご先祖様は、混乱した。
「ばかやろー!。なんでお前は謝ってんだ!」
「ひっ!」
怒られた犬は、ご先祖様以上に混乱した。
とにかく、いきなりご先祖様に殴られ、ワケも分からず謝ったたら、殴った本人から何で謝ってんだと怒られてしまった。
何処がどうなって、何がなにやらワケが分からず、パニックに陥った犬はとうとうキレてしまった。
「わー!」
犬は、泣きながら逃げ出した。
ご先祖様は、マクラを手にしながらアッケにたられてしまった。
『こんなはずじゃない……』きのうの悪鬼ども小さな餓鬼どもは、憎たらしいほど素早く、そして恐ろしいはど強いはずじゃなかったのか。なのに、あの弱虫犬はどうしたことだ。マクラで叩いたら、泣き出して逃げてしまった。
あれが、ここの警官だっていうのか……。
ご先祖様は、何かにたぶらかされたような感じがしてきた。




