37、会食⑦
「しかし、ご先祖様は、何だって狂ってしまったんだろう」
これは、新人たちの共通の疑問だった。皆の視線が木師に集中した。
「ふむ、ご先祖様は二十世紀の人らしい。二十世紀のことなら、兎が詳しい」
「兎よ、ご先祖様はどないしたんや」
「ご先祖様は……人間の肉を……オコジョの肉を喰ったのが、許せなかったのよ」
兎の声は震えていた。兎も山羊先生も、ご先祖様の絶望的な悲憤、その心情、全身全霊の叫びに非情な衝撃を受けていた。
兎は、激しく戦慄した。その余韻がいまだに続いている。
「オコジョって、オコジョは死んだんや。人間、死んだらタダのたんぱく質やんか。タダの貴重な食糧や。なんでんねん。何が許せんのや」
「二十世紀の人間は、死んだ人間も人間としての敬意を払うのよ」
「何やー、人間は死んだら人間じゃありゃせん。そんなもん、大事にしたってしょうがないじゃないか。生きた人間はどうなんや。旧人は生きた人間を蔑ろにして、さんざん苦労させといて、死ねば大事にされるっちゅうのか。ふざけてんがな。人間、生きていてこそ人間なんや。だいたい、旧人は人が死んだらどないしてたんや?」
馬親方は、兎を糺すかのようだ。兎は、自分の専門事項を思い出すかのように話し始めた。
「人間が死ぬと、まず葬式というものをやります」
「ふん、葬式ね。葬式って何や」
馬親方は、葬式を知らなかった。
「葬式とは、死んだ人……それを故人というんだけれど、その故人の縁故や知人が集まって話しをしたり、食べたり、泣いたり、笑ったり、酒を飲んだりするの」
「さよか、お祭り騒ぎをするんか」
「ちょっと違う。でも、似たようなもんね。それから坊主という者も来て、訳の分からない事を言って、お金をふんだくって行くらしいの」
「ふん、ゆすり、たかりもくるんか。どうも、旧人のする事は分からん」
「それから、その故人を焼くの」
「焼くって、丸焼きか」
馬親方は、ぎょうてんした。
「そんな~、エゲツない。そんな、野蛮な~。たいいち、人の形をしてるもんを食えるんかいな」
「ちゃうの、食うんじゃないの」
馬親方は、誤解しているらしい。兎は焦った。
「ちゃうって、焼くんやろ?」
「違うの、燃やすのよ」
兎と馬親方の話は、うまくかみ合わなかった。兎は意地になった。
「燃やす?、レア、ミディアムでなく、もっとこんがりとウェルダンに……」
「もっと、もっとよ」
「アホな、そな焦げてしまうやないか」
「焦げてのいいの、骨になるまで焼くの」
「そな、食えんやないか」
「馬~さんは、人の話しを聞いていない。だから、食うんじゃなくて骨にするの。そのために焼くの」
兎は、やや憤然とした。
「そな、アホな。なんちゅうアホな、貴重な食材をムダにして……。その上になお、ムダなエネルギーを使って……。だいたい人間なんて七十%が水なんや、燃えるわけがない。そんなんを、骨になるまで燃やすというんか。二重、三重のムダや。……ったく」
今度は、馬親方の方が憤然となった。
「ふむ、親方。旧人の過去のしきたりに怒ったって、しょうがないじゃないか。それより、ここを何とかしよう。ご先祖様もこのままでは……。おまわりは、どうした。ん……」
「木師、犬はおまわりのくせに、あの騒ぎの最中泣いておったんよ」
野猿が、告げ口をした。
「さよか、誰かが泣いていると思ったら、犬、お前だったんか」
馬親方は遠慮しない。
「ふむ、けしからん。職務を忘れて、泣いているとは何事だ」
木師は半分笑っていた。あんまり、バカバカしくて怒る気がしないらしい。
衆人環視の中で叱られた犬は、恥辱やら屈辱やらで真っ赤になってうつむいてしまった。




