35、会食⑤
ご先祖様は、猛り狂っていた。
しかし、餓鬼どもは素早い。いくら棒切れを振り回しても、当たらなかった。『ひょっとしたら、唯の一匹さえも退治出来ないかもしれない』との思いが脳裡をかすめた。
かすり傷さえ、負わせる事が出来ないかもしれない。力尽きて、嬲り殺され、喰らわてしまうかもしれないと思った。
一方の新人たちは、必死だった。旧人の攻撃はもの凄まじく、かろうじて紙一重のところでかわしている。
会場は悲鳴や怒号が飛び交い、収拾がつかない状態になっていた。中には、泣き出している者もいる。それでも、泣きながらも本能的にヒラヒラと身を躱していた。
新人たちは、ご先祖様よりも確かに俊敏らしい。
ご先祖様が必死になって、阿修羅の如く棒切れを振り回しても、叩くのは机やイス、壁や窓ばかりだ。今だに、唯の一匹も餓鬼を退治出来ずにいる。ご先祖様に、焦りやもどかしさが見えるようになった。
会場は、惨憺たる状態になった。机やイスが倒れ、壊れ、食器がことごとく割れ、食い物が汚らしく散乱している。
その酷い惨状の中、ご先祖様が新人たちを追い回していた。
その時、突然、餓鬼を追い回していたご先祖様が、床に落ちていた肉片に足をとられた。ズルリと滑ってよろめき、膝をついた。
それで、ご先祖様は、怒りに駆られて失念していたものを思い出した。
ご先祖様は、再び吐いた。
吐く物など、何も無い。それでも吐いた。ゼイゼイと苦しそうに喘いで、ガックリと膝を折った。
その時点から、事態は急転直下した。
いつの間にか、山羊先生がご先祖様の背後にいた。何処で用意したのか、その手に凶が凶がしく太い注射器があった。山羊先生は、ご先祖様の動きが止まるのを見逃さなかった。
山羊先生の極太の注射器は、ご先祖様のケツにブツリと突き刺さった。
ご先祖様が振り向いた。白鬼か……『やられた……』と、ご先祖様は思った。
徐々に身体の力が抜けて行く、ご先祖様は両手をついた。白鬼が、窺うように近づいて来る。
ご先祖様が、何事か囁いたようだ。山羊先生だけが、かろうじて聞き取れた。
ご先祖様は、「殺してくれ」と哀願するかのようだった。
山羊先生は、世にも痛ましげにご先祖様を見た。
やがて、ご先祖様は突っ伏した。




