34、会食④
信じ難い事実だった。『今まで食っていた肉は、みんな人間の肉だったのだ。そうだ、ここに本物の牛とか豚とかは、一匹も居なかった』
空恐ろしいまでのおぞましさに、悪寒が疾った。吐き気がとまらなくなり、次から次へと吐き気がせり上がってきた。吐く者が無くなると、胃液を吐いた。
胃そのものを吐き出すように、吐いた。
ヌーがオロオロと慌てていた。
「食あだりか……?」と思った。
何か、トンデモナイ事態が起こったらしいと動転していた。
ご先祖様の隣にいた木師は、最初の異常で後ろへ後退りしていた。
「面妖な……?」
いつの間にかご先祖様の顔は、真っ赤になっていた。
ご先祖様は、おぞましさ、悪寒、こみ上げてくるどうにも止まらない嘔吐感に変わって、かつて覚えなかった程の凶暴な怒りがこみ上げてきた。
どす黒い怒りが、はらわたの奥底から逆巻く怒涛の如く吹き上がってきた。
「うぉっぎゃー!」
ご先祖様が、化鳥のような叫びを発した。凄まじい怒りが爆発した。ご先祖様は、ほとんど度を失った。
ご先祖様の目の前にあったテーブルが、食器ごと吐瀉物付きでブッ飛んだ。
その先に、木師の赤松がある。
「……⁉」
木師は、悲痛な声にならない悲鳴をあげた。
じつに盛大な、それでいて気味の悪い音を立ててテーブルは赤松に激突した。
狂乱が始まった。会場は、瞬時にして叫喚の坩堝と化した。
ご先祖様は、灼熱して狂う怒りそのものだった。手に当たる物は全て薙ぎ倒し、地にある物は踏んづけ蹴とばし、ここにある物全てを破壊せずにはおられぬ衝動に駆り立てられていた。
新人たちには、まさに青天の霹靂だった。
旧人、ご先祖様が、何故かゲロを吐いたと思ったら、また突然、烈火の如く怒りだしたのだ。その怒りようがもの凄まじく、疾風怒涛の如く凶暴な野獣のように新人たちに襲いかかって来た。悲鳴をあげて逃げ惑う新人たちを追って、旧人は猛り狂い、壊れたテーブルの脚を手にメチャメチャに振り回し始めた。
それは、ここにある物全てを破壊しようとしているかのように思われた。
その新人たちの考えは、当たっていた。
ご先祖様は、ここの全てを叩き壊そうとしていた。ここの小さな餓鬼どもを、叩き潰そうとしていた。
ところが小さな餓鬼どもは、ご先祖様の想像以上に素早かった。
「きゃっ、きゃっ、きゃっ」と叫びながら、素早くチョロチョロとご先祖様の鋭い攻撃をかわしてしまう。
ご先祖様は、ますます猛り狂った。『餓鬼どもが、俺を愚弄している。嬉々としてはしゃいでいる』と思った。
ここは進化した人間の住む所、理想郷なんがじゃない。死人の肉を喰らい、血に塗れた、堕ちた餓鬼どもの棲む所『地獄』だ。
地獄の餓鬼どもが、俺をからかい愚弄して喜んでいると……。




