33、会食③
「ほなら、まず食事にしまひょう。食事の後にティータイムがあるさかい、ご先祖様に質問や聞きたいこちがある人は、そん時にしたらええ」
馬親方の言葉を合図に、一斉に食事が始まった。食器のなる音、話し声、笑い声、咀嚼する音、じつににぎやかだ。
今宵のメニューは、ショウガ焼肉、トマト・レタスサラダ、何かの練り物、ほうれん草の野菜スープ、それにキューリの漬物とライス、なにやら不思議な取り合わせだ。
ご先祖様の料理だけは、特別の大盛が出ていた。
「うまぁ~い。この肉、柔らかくて旨いね~」
「そ、旨いでしょう」
兎は箸を止め、ご先祖様の見上げニコッと微笑んだ。
兎の食事の様子は、まるでおママゴトを見るようだ。小さな手。モミジのようなその手を器用に使って、食い物を口へ運ぶ……。兎を見ていると、ご先祖様は知らずに微笑んでいることがある。まるで、妖精のような……。
『そういえば、もう一人の妖精はどうしたのかな?』
「オコジョが見えないようだけど、どうしたのかな?」
一瞬、兎の動きが止まった。見上げた兎は、困った顔をしていた。
せっかくのこの料理を、程よく脂ののった舌の上でとろりと蕩けるような、この柔らかい肉を出来ればオコジョと一緒に……。そう、オコジョは病弱そうだった。こういう料理を食べて、少しは精力をつけなければ。
「きょうの料理はいかがでしょうが?」
料理担当のヌーさんが、いつの間にかご先祖様の後ろにいた。
「うん、旨い」
「そ~、それは良がった」ヌーさんは嬉しそうだ。
「いや、この肉すごく柔らかいね~。いったい、何の肉なんだい」
「それは、オコジョの肉です」
「オコジョ?ん、……牛か豚じゃなかったんじゃ……」
「……⁉ご先祖様、ここに本物の牛や豚はいませんぜ。きょうの肉は、オコジョの肉です」
ヌーは、やけにきっぱりと言いきった。
「ぬ……」
みるみるご先祖様の顔が不気味に青ざめていった。
「おえっ!」
ご先祖様が吐いた。
騒がしかった会場が、急に静かになった。
誰一人、物音一つ立てない。
異様な静けさの中で、ご先祖様が「おえっ、おえっ」と吐いている。
吐瀉物がピチャ、ピチャ、ピチャとおぞましい音を立てていた。
グロテスクで、気味の悪い眺めが続いた。胃液と唾液を混ぜ合わせた未消化の肉が、野菜が、大量にしたたり落ちた。
『オコジョだ。俺はオコジョの肉を喰っていたんだ』
ご先祖様は、自分のウカツさに始めて気づいた。
と、胃の腑の奥底から、とてつもないおぞましさが猛烈に突きあげていた。
ご先祖様は、とどめなく吐いた。




