32、会食②
会場の準備が整ったようだ。
出席者も全員集まったようで、会場からは潮騒のようなざわめきが伝わってくる。
「ご先祖様、おりますか」
兎が迎えに来た。
「うん」
会場といっても、まるまる普通の学校の教室を二部屋ぶち抜いただけのものだった。
兎の先導で教室に入ったご先祖様を、盛大な拍手が迎えた。ご先祖様は、やや面はゆい感がしないでもない。
そして、兎に促されるまま木師の隣に座った。
会場は、中央を取り囲むようにテーブルが並べられている。正面に木師が、その隣にご先祖様が、その隣に兎がいる。
会場の中央にはシブい机があり、その上に松の盆栽があった。木師の盆栽らしい。
盆栽は『吹き流し』風『多幹樹』の赤松で、やや安定に欠くハスに傾いた鞍馬石に植えられ、鮮やかな緑色のコケが張られていた。不思議な神韻をおびた盆栽だった。
その姿はしなやかで伸びやか、雅な風情の中に風雪に耐え抜いた力強い生命が感じられた。悠久の時を感じる。その赤松を観ていると、深い森を渡る風を感じる。
海岸を吹き抜ける風を感じる。素晴らしい盆栽だった。
それはそれでいいのだが、盆栽は会場の中央にある。好きも嫌いもあったもんじゃなく、否が応でも目に入った。
だいたい、卒業式とか入学式とか歓迎会など、なんの式場でも会場でも盆栽とかお花とかは添え物だ。
それが、ここでは堂々と中央に鎮座している。
主賓は、まるで松の盆栽のようだ。それでも、ご先祖様はこの風変わりな趣向が好ましかった。
もし、この盆栽が会場のど真ん中になかったなら、もし、この盆栽が会場のスミに飾られていたなら、ご先祖様は新人たちの好奇な視線の集中砲火を浴びたはずだ。
盆栽は、その弊を少なからず緩和してくれている。
司会進行は、親方の馬さんだ。この人は、怪しげな関西弁を使う。何でも気づいたらそうなっていたそうで、本人はイタッてマジメらしい。
「それでは、始めましょうか」で、会食は始まった。
「そなら、まず、木師にご先祖様を紹介してもらいまひょう」
木師は、指名を受けて立ち上がった。「コホン」と咳払いを一つして、
「こちらが、ご先祖様です」と、言ったなり座ってしまった。
「なっ……」
ご先祖様は、イスからずり落ちそうになった。
それでも、気を取り直して立ち上がった。立ち上がったが、話すべき言葉がどこかへ行ってしまっていた。
『いろいろと考えていたのに……』旧人類の反省点とか、新人たちへの感謝の言葉だとか、まったく新しい精神種族への期待とか、そんな諸々のものが何処かへ飛んで行ってしまっていた。
それでも、
「私が、旧人のご先祖様と呼ばれる者です」
と、かろうじて言った。
どうも、ここはおかしい。だいたい、どんな式場でも会場とかでも挨拶の話とは長いものだ。入れ替わり立ち代わり次々と現れては、ねちねちとどうでも良いことを飽きもせずシタリ顔で喋ってくれる。その殆どは、喋り終わるのを待たずに忘れてしまうのだが……。
それにしたって、ここのやり方は余りにも素気ない。
ご先祖様は、好ましいような好ましくないようなおかしな気持ちがしていた。




